二度目の王弟殿下と、私の気持ち ④
「ようこそ、クレヴァーナ」
私がカウディオ殿下の別邸へと顔を出すと、カウディオ殿下が直接迎えてくださった。
王族たちの過ごす別邸の一つだけあって、その建物は大きい。それでいて華美である。
その建物に仕えている使用人たちは私を見ても顔色一つ変えない。主のお客さんに対して態度を変えるようだとプロとは言えないのだろうなとも思う。
……まぁ、私の昔のことを知らないからかもしれないけれど。
実家に仕えている者達は仮にも公爵令嬢であったはずの私に対する態度がプロとは言えなかったなとは思う。それに関しては実家の家族たちの態度に倣ってだったかもしれないけれど。
嫁ぎ先の公爵家の者達は私と特別話そうとはしなかったけれど、仕事だけはきちんとしている人が比較的に多かったかもしれない。
カウディオ殿下から案内してもらって、書斎へと向かった。
「本が沢山ありますね……!」
書斎には数え切れないほどの本が並べられている。これだけ本が並んでいると、気分が高揚する。
「早速お読みしてもいいですか?」
「ああ。私も読もう」
そうして二人で本を読むことになった。
書斎を見て回って、読みたい本を探す。
その中には興味を引くタイトルのものも多くある。それに珍しい言語の本や長編の小説のシリーズが並べられていたり……私の勤めている図書館とはまた違ったラインナップだった。
そこから数冊手に取って、椅子に腰かけて読み始める。
そのまま読書に没頭した。
実家にいた頃、こうやって夢中になって本を読んでいた。他にすることもなく、私の話を聞いてくれる人のいない世界で、本だけが私と対話をしてくれていたというか……そんな感じだった。
それにしてもこうやって休日に本に囲まれて、心地よい空間で本を読んで過ごせる。
なんて楽しい時間だろうかと思った。
「クレヴァーナ」
しばらく本を読んでいると、ふいに声をかけられる。
「なんですか?」
「そろそろ休憩しようか。喉が渇いてないか?」
気づけば二冊ほど読み終えており、確かにカウディオ殿下がおっしゃるように喉は乾いていた。
カウディオ殿下が指示していたのだろう。侍女の一人が書斎に入ってきて、飲み物を置いてくれる。
読書をして、ほっと一息ついて、喉を潤して。
とても優しくて、穏やかで、心地よい。
「カウディオ殿下は何の本を読まれましたか?」
「私は……」
そうして一冊の本を見せてくれる。それはとある国の文化について纏められている面白そうな本だった。
私が二冊読む間に一冊のみだったことに驚く。カウディオ殿下は話を聞いている限り、本を読むスピードが速いほうだ。だから他のことでもしていたのだろうか? などと思う。
そのことを口にすれば、「クレヴァーナと一緒に読書をするのは初めてだからな。少し見ていた」などとよくわからないことを言われた。
私とカウディオ殿下は手紙のやり取りは散々していて、互いにお勧めの本は読み合っているけれど一緒に読書はしていなかった。カウディオ殿下が図書館に来られる時は仕事中だったもの。
私もカウディオ殿下が本を読んでいる様子を眺めればよかったかもしれないなどと思った。
一息ついた後、また読書が再開するのならば眺めようかな? 私も読書していた所を見られているから、私も見てもいいだろうとそんな風に思う。
だけど、
「ずっと座りっぱなしも体に悪いから散歩でもしようか」
とそんな風に誘われた。
カウディオ殿下の読書姿を見られないのは残念だけど、確かにずっと座りっぱなしも体には悪いだろう。
それにカウディオ殿下と一緒に散歩をするのは楽しそうだ。
そう思って、私は頷いた。
この別邸にカウディオ殿下は時々しかいらっしゃらないようだけど、庭は綺麗に整えられているようだ。
この屋敷の管理をしている使用人たちは、カウディオ殿下のことを慕っているのだなと思う。だからこそカウディオ殿下が此処を訪れた時に楽しめるように整えている。
それがとても素敵なことだなと思えた。
カウディオ殿下はきっと良い主で、使用人たちは彼を慕っていて。
理想的な主と仕える者の関係なのだと思う。
なんというか、とても落ち着く。
「クレヴァーナは好きな花とかあるか?」
「そうですね……しいて言うなら、アリッサムの花ですかね」
娘であるラウレータがその花を好きだと言って笑っていたのを思い起こす。
ウェグセンダ公爵家の庭も色とりどりの花が咲いていた。私は娘と一緒にしか庭に出ることもなかった。
嫁ぎ先の使用人たちもきっと、元夫のことをとても慕っていたのだと思う。
だからあの家の庭も綺麗に整えられていたのだろう。寧ろ慕っていたからこそ、皆、私という妻が許せなかったのだろう。




