二度目の王弟殿下と、私の気持ち ①
「久しぶりだね、クレヴァーナ」
「はい。お久しぶりです。カウディオ殿下」
半年ぶりにカウディオ殿下はやってきた。お元気そうで何よりだ。
それにしても会うの自体は二回目だけれども、そんなに久しぶりな気はあまりしない。それはこれまで手紙でやり取りをしていたからだろうか。
「半年ぶりだが、手紙でやり取りしていたから久しぶりな感じはしないな」
カウディオ殿下も同じことを考えていらっしゃったのか、そう言う。私はその言葉に思わず笑ってしまった。
「どうしたんだい?」
「いえ、同じことを考えていたのだなと。私もお手紙でやり取りをしたので久しぶりには思えませんわ。それどころか、まだ会うのも二度目なんて……信じられない気持ちでいっぱいです」
本当にまだ、二度目なんだなと思うと不思議だ。
長文の本の感想とか、何気ない話とか、そういうのをびっしり手紙には書いてやり取りをしているからなんだかカウディオ殿下のことを私はよく知っているようなそんな気分にさえなる。
いえ、でもそんなことはきっとないのだ。
私が知っているのはカウディオ殿下の、一面でしかない。王族として立派に責務をこなしておられる姿など、そういうものを私は知らない。
「そうだね。私も同じ気持ちだよ。手紙でクレヴァーナのことを教えてもらえたからね。もっと昔からの知り合いのようなそんな感覚になるよ」
カウディオ殿下はそう言って笑ったかと思えば、従者に何か指示をして一つの袋を渡されている。……なんだろうか? と思っていたら、カウディオ殿下は笑って言う。
「クレヴァーナ、手を出して」
「え? はい」
突然なんだろうと思いつつも、言われるがまま手を出す。そうすれば袋ごと手に載せられる。
「クレヴァーナへの贈り物だ」
「私への……贈り物ですか」
贈り物と言われて私は驚く。
私はそうやって誰かから何かをもらうことに慣れていない。
私がこの街にやってきて一年経っているので、その間にあった誕生日では周りがお祝いしてくれた。でもそういう特別な日以外で何かをもらうのは初めてかもしれない。
そもそも実家にいた頃は私個人宛にもらうものなんてなかった。嫁いでから、公爵夫人宛のものはあったし、義務的に元夫から誕生日祝いはもらったりしたけれど……だけどそれは私自身に贈られたものではない。
「変な顔をしているな」
「……あまりこうやって物をいただくことはこれまでなかったので。それより開けてもいいですか?」
「ああ」
カウディオ殿下は楽しそうに笑っている。
そんなカウディオ殿下に見守られながら私は袋を開ける。そこに入っているのは一冊の本である。
「まぁ! 『姫様の憂鬱』ですね。この表紙は珍しい初版のものでは?」
そこに入っていたのは、私のお気に入りの小説である『姫様の憂鬱』だった。図書館の面接の時もこの本の話はした。ただし私がこれまで読んだことのあるものとは様々な部分が違う。表紙の絵が違ったり、装丁が異なる。
これは噂に聞く流通の少ない初版である……!
「喜んでもらえたようで良かった。表紙の部分、めくってみて」
興奮した私にカウディオ殿下はそう告げる。何だろうかと思って、めくってみる。
「えっ。これって……サインですか!? 私の名前まで入っているのですが!!」
驚いたことにそこには作者のサインが入っていた。しかも、私の名前入りである。
初版で、それもサイン入りだなんて……本当に貴重なものだわ。
その貴重さを実感して呆然としてしまう。
「クレヴァーナが好きだと書いていたからな。折角だから、サインもらってきたんだ」
カウディオ殿下にそんなことを言われて、私は今までにないぐらい嬉しくなった。この贈り物の本も嬉しい。でも……それよりもカウディオ殿下が私のために選んでくれたということが嬉しい。
胸が暖かくなって、ぽかぽかしている。
「ありがとうございます。カウディオ殿下。とても嬉しいです」
私がそう言って笑いかければ、一瞬、カウディオ殿下の表情が変わる。
「どうかしましたか?」
「……いや。それと、話を変えるが一つ言っておくことがある」
「言っておくことですか……?」
「ああ。君に関することを一つ耳にしたのだ」
私に関わることと言われて、何を言われるのだろうと身構える。
先ほどまでと少し雰囲気が変わった。おそらく、良い話とは言えないのだろうなとは思う。
「――ウェグセンダ公爵が再婚したそうだ」
カウディオ殿下はそう言って、私の反応を見るかのようにこちらを見ている。
久しぶりに聞いた嫁ぎ先の家名に、私は驚いた。
……それにしてもやっぱり、カウディオ殿下は私がウェグセンダ公爵から離縁されたクレヴァーナ・シンフォイガだと知っていたのだ。




