王弟殿下からの手紙 ②
カウディオ殿下への手紙は、とても堅苦しい文章になってしまった。王族相手なので、丁寧に書いた方がいいだろうとそう意識すると、本で読んだ最上位の方向けへの手紙として書いてしまったというか……。
書いている内容と言えば、私もカウディオ殿下と話したことが楽しかったこと、手紙のやり取りをすることを承諾すること、そしてカウディオ殿下が興味を持たれそうな本についての紹介。ただそれだけである。
これらの内容を堅苦しい文章で書く人なんてあまりいないだろうななんて考えるとなんだかおかしくなってしまった。
書き終えたその手紙を、高揚感を感じるがままに出した。
出した後にもう少し書き方を変えた方が良かったのではないかなどと、そんなことを考えてしまった。
それでも出してしまったものは仕方がない。……あまりにも書きなれていない、堅苦しすぎる手紙にカウディオ殿下は何を思うだろうか。
嫌われたくはないな……とは思った。
故郷では最初から私は皆に疎まれていて、ゼロ以下の関係で成り立っていた。カウディオ殿下は、過去の私を知っていても少なからず私に好感はあると思う。少なくとも嫌われてはなさそうだった。そこから、反転したら……悲しいかもしれない。
私は人と関わりあうことをこれまでしてこなかったからこそ、そんなことで考え込んでしまう。
「クレヴァーナ、どうした? そんな辛気臭い顔をして」
カウディオ殿下からの返答は、どんなものになるだろうか。そんなことばかり考えていると、顔に出ていたらしい。
出勤した時にコルドさんにそんなことを問いかけられてしまった。
私がカウディオ殿下に手紙の返事を送ったこと。そしてそれがあまりにも書きなれない、堅苦しいものになってしまったこと。それで不快な思いをされてしまったらどうしようと考えてしまったこと。
それらのことを告げると、コルドさんには笑われた。
「ははっ。そんなことは何も心配する必要はない。カウディオ殿下から手紙を送ってきたのなら、そのくらいで不快になるはずがないだろう。クレヴァーナは可愛いやつだよなぁ」
コルドさんは楽し気である。……私がこんなことで悩んでいることがおかしくて仕方ないのだろうか。そして続ける。
「まぁ、堅苦しい手紙に対して疑問でも提示されていれば『嫌われるのが嫌で悩んでこんなものになりました』と書いたらそれだけでカウディオ殿下は悪い気はしないと思うぞ」
「そうなんですか……?」
「そりゃそうだろ。男なら自分より年上の綺麗なお姉さんの可愛い部分を見たら多分、ときめくぞ」
「えぇ……?」
よくわからないことを言われて困惑する。
というか、悩んでこうなったというのが可愛いになるのだろうか? 私にはそのあたりはよくわからない。
「クレヴァーナは結婚していたっていうのに、そういうのが本当に分からないよな。不思議だ」
「そういうのって、男女関係のことですか? 分からないですよ。結婚は経験しても、恋愛は経験したことありませんもの」
普通なら恋愛を経験して、それから結婚するものだと思う。
王族や貴族だって恋愛をして結婚することはあるだろう。幾ら政略結婚だったとしてもその後、愛や情に芽生えたりすることもよくある話らしい。
……ただ私にはそのどちらも無縁だった。
私はあの時の、自分の状況が当たり前だと思っていた。歩み寄ろうという行動が足りなかった。
元夫は私という悪評に満ちた妻に関する興味がなかった。特に元夫の周りは私に元夫が誑かされないようにしなければと徹底していた。
そういう結婚生活だったので、そういう恋と呼ばれるような物は本当に知らない。
嫁ぐ前も嫁いだ後も、私の世界はずっと狭くて……恋をするほど、多くの人には会ってこなかったのだと思う。
外に飛び出してみれば、思ったよりもずっと沢山の人たちがいて。
想像していたよりもずっと、私に優しい世界だった。もちろん、それは過去の私のことを知らないからというのも大きいだろうけれど――世界は驚きでいっぱいだ。
これだけ多くの人たちがいる中で、どうやって結婚相手を人は見つけるんだろう? なんてそんなことまで考える。
さて、そんなことを考えながら過ごしていると……カウディオ殿下からの返信が届いた。
その手紙を前に、私は緊張していた。
何が書かれているのだろうか。私の手紙を読んでカウディオ殿下は不快な思いをされなかっただろうか。
ううん、そもそも本当に嫌だったならば……こうやって返信さえもくださらないはず。ならば、問題がない。
だけど少し緊張して、深呼吸をしてから手紙を読んだ。
今日から12時、18時で二回投稿です。




