街をぶらつく ②
故郷では周りから出来損ないだと、家の恥だと言われ続けていた。私の周りには私のことを嫌いか、無関心な人ばかりだったと思う。でもこの街には、驚くほどに私のことを好意的に見ている人の方が多い。
魔術が使えないとか、使えるとか。
その価値は此処では関係がなくて、それよりも他の部分に皆は価値を置いている。
見た目や性格や、能力だったり――。
魔術がそれだけ、重要視されていないことは驚いたものだった。私の周りには魔術というものを特別視している人たちばかりだったから。
とはいっても魔術自体に皆、関心を持っていないわけではない。この街にも魔術師と呼ばれる人たちはいる。
花屋を後にして、私はこの街に勤める魔術師たちが研究の成果を発表している建物に寄り道することにした。私の家族は魔物をどれだけ倒せたかとか、どれだけ強力な魔術を使えたかとかそういうことばかり言っていた気がする。
特に私に話しかけてくる時にお姉様や妹はいつもそういうことばかり言っていた。私は政略結婚の道具として価値があったから、直接身体に傷がつくような魔術は向けられたことはなかったけれど、顔ギリギリで魔術を使われて驚いたことはある。私が途中からあんまり反応を見せなくなったから、二人は苛立った顔をしていたっけ。
弟がどういう風に魔術を使っているかはあまり見たことがないので分からないけれど、少なくともお姉様と妹は割と力任せに魔術を使う人だった。それだけ彼女たちは才能に溢れていたから。
私は魔術を使えないから、魔術というものを見るとワクワクする。でも派手じゃなかったとしても人のために役立つ魔術は素敵だと思う。だから一般公開されている魔術に関する研究を見に行くのも好きだ。使えなくても知識を深めることが出来ると嬉しいのだ。
「クレヴァーナさん、こんにちは」
そう言って声をかけてきたのは、ここに勤めている魔術師であるユーガイさんである。
私よりも四つほど年上の彼は、この街でも有名人らしい。時折、こうやって話すようになったのは私がよくこの場所に訪れているからだ。
「ユーガイさん、こんにちは」
「研究を見て何か気づいたことなどありましたか?」
「ちょっと待ってください」
私はそう言って、改めて展示されているものに目を通す。
この展示はまだ若い魔術師が研究したもののようだ。衛生面を保つための、人々の健康を守るための浄化系の魔術である。本にも書いてあったけれど、体を清潔に保つことは健康を守ることへとつながる。戦場などで不衛生な状況に陥ると不健康になり、そのまま命を落としてしまう人もいる。
裕福な人々は清潔に保つことが出来るけれど、普段から貧しい人たちはそういうことが出来なかったりもする。これは生活のための魔術である。
「この部分の魔術式が、少し足りないかと思います」
じーっと見ていて気付いたのは、魔術式の一部。細かい所だけど、記憶しているものと少し違うように見えた。
ユーガイさんはそれをまじまじと見る。
「正しいものを描けますか?」
「はい」
私はそう言って紙とペンをもらって、記憶の中にあるものを描き出した。
「なるほど……。確認しておきますね。ありがとうございます。今回も後で謝礼をお渡ししますね」
ユーガイさんはそう言って笑ってくれる。
私が魔術を使えなくても、魔術について知識があることはユーガイさん達は知っている。張り出されている研究についてだったり、相談されたことなどで気づいたことがあったらこうして伝えている。
知っていることを話しているだけだから最初は報酬なんて……と思っていたけれど、こういうのはお金をもらわない方が問題になるとのことなので、有難くもらうことにしている。
こうやって実際に魔術を使える魔術師たちと話していると、知らなかった魔術の知識も手に入れることが出来るから楽しいなと思う。
ゼッピアには「なんで休みの日にまで働いているの?」と言われたけれど、ただ私が楽しんで此処を訪れているので働いているつもりはない。報酬はもらってはいるけれど……。
ついでに報酬の代わりに魔術に関する本を貸してもらって読ませてもらったりもする。
あまり外に貸し出ししていないような貴重な本を読ませてもらえるのは嬉しかった。
魔術の知識というのは、扱いが大変らしい。
例えば危険な魔術を知った人が、それを好奇心で使用してみればそれだけでも大惨事になり得たりする。だからそういう本当に危険な魔術に関しては私も知らない。それに関する本も此処にあるらしいけれど、流石に読ませてもらっていない。
そもそもそういうものを知りたがるというだけでも危険人物認定されそうだもの。何かあってその危険な魔術の使い方を誰かに話してしまうことになったら大変だしね。
だから私が読ませてもらっているのは、一般的に公開されているようなものばかりだ。でもそこからでもわかることは山ほどある。
そういう仕組みを紐解いていけることは、本当に楽しいのだ。




