私は、王弟殿下と図書館を歩く ②
「そうだな。最近、砂漠に住まう少数民族の話を聞いたんだ。ああいう自分たちとは異なる文化の暮らしを知るのには興味があるね。あとは国内で最近発見された新種の植物についても調べてはいる。それと甥たちが読んでいる騎士の物語も読んだりしているね」
私の言葉にカウディオ殿下はおかしそうに笑って、そんな風に告げる。
カウディオ殿下は様々なジャンルの本を頼んで読まれる方のようである。私もジャンル問わずに本は読む方だ。辞典や歴史書のような分厚くて読むのに時間がかかるものも夢中で読んでしまう。
カウディオ殿下も同じようなタイプなのかなと思うと、少しワクワクした気持ちになる。こうやって好きなものを共有できる人と会えるのは楽しいことだから。
「それでしたら、お勧めの本を持ってくるので少々お待ちください」
私はそう言って、カウディオ殿下を図書館内の個室に案内して待ってもらうことにする。
この図書館には身分の高い方もよく訪れるため、有料の個室も存在している。カウディオ殿下はこの図書館を訪れた際はよく個室を利用しているらしく、今回も予約を取っていた。
本を探すのは、魔道具を使うとすぐに出来る。
図書館に所蔵されている本一つ一つに、印がつけられている。その印を目印に魔道具を使うとすぐに場所が分かるようになっている。高価なものだけど、そのあたりの魔道具がこの図書館では充実しているのだ。
私がカウディオ殿下に紹介しようとしているのは、ひとまず三冊。
一つは少数民族に興味を持たれているということなので、少数民族がモデルの小説をお持ちすることにする。これに関しては私も昔読んだことがあるのだけど、民族の暮らしを味わうことが出来るものなのだ。細かい点まで理解が出来るというか、読んでいるこちらもその場所で暮らしているような感覚になるというか。これは作者の描写の細かさとかにもよるものだと思う。
一つは他国の有名な植物園に関する雑学も踏まえた面白い本だ。元々その植物園に長年勤めていた方が書いたものだから、読んでいると植物園の歴史なども分かって楽しいものだ。
一つは騎士に関するもの。これは各国の騎士服や鎧などの正装に関する絵がまとめられたものだ。これは騎士に関心のあった画家がまとめたものらしい。こういうものがまとめられている本というのも素敵だと思う。というか、これだけのものをまとめるために作者の画家は色んな場所へと顔を出していたのだなと思うと凄いなと思ってしまう。
それらの本を集めて、カウディオ殿下の元へと持っていく。
カウディオ殿下は読書家だという話なので、もしかしたら読んだことがあるものだったりするだろうか? それだけは心配だけど一先ず持っていくことにした。
「こちらの本がお勧めですわ。読んだことはありますでしょうか? もしそうなら別の本をお持ちします」
私がそう言って本を差し出せば、カウディオ殿下も笑っていた。
「私が見たことのないものばかりだ。どれも面白そうだね」
「それならよかったです。どれも素敵な本なので、楽しんでいただければ嬉しいです。ただ好みが分かれるものもあるので、お好みでなければ別のものをご紹介しますね」
私は基本的にどんな本でも最後まで読む。今の所、そういう最後まで読めない本はなかった。でも人によっては読み進めていたものの、最後まで読めないという状況もあると聞くもの。
でもこうやって自分がお勧めした本を誰かが読むのはいいなぁと思う。
こうしてこの国にやってきてから、私自身の好きだと言える物が少しずつ増えてきている。
それを誰かに話すことも楽しい事なのだ。
カウディオ殿下が私の勧めた本を読んで、好きになってくれたらその本の話で盛り上がることもできる。本をお勧めするのは良いことだらけだと思う。
「クレヴァーナは本当に本が好きなんだな」
「はい。昔から本を読んでいたので。私を色んな場所へ誘ってくれるようなそんな感覚になれるので、とても楽しいと思っています。ここには読んだことのない本が沢山あるので、毎日出勤するのも楽しみなんです」
こうやって本が沢山ある場所で勤務を出来るのは本当に楽しいことだ。
ずらりと並んでいる本の中で、読んだことのないものも沢山ある。そういう本に囲まれていると楽しいと思う。
好きな物は増えてきているけれど、時間があると本を読みたくなる。故郷にいた頃は、他にやることがなかったから――というのもあるけれど、こうして外に飛び出してみてもやっぱり本を読むことが好きだと私は思う。
「そうなんだね。読むのが楽しみだよ。そうだ。私の方でも本を紹介してもいいかい?」
「はい。もちろんですわ」
カウディオ殿下からの提案に私は笑顔で頷く。だってまだ読んだことのない楽しい本に出会えるのかもしれないから。
それから私はカウディオ殿下にお勧めされた本をメモに書いた。
私が読んだことのない本だったので、どんな内容なのかタイトルから想像するのも楽しみだと思う。
それからカウディオ殿下が読書に励むとおっしゃったので、私は職員としての仕事に戻るのだった。
休日にカウディオ殿下から勧められた本を読もうとそう思う。




