ラウレータの小さな冒険 ⑦
本を読むのが大好きだったのは、お母様が楽しそうに読んでいたから。
ロージュン国に居た頃のお母様の暮らしは決して良いものではなかった。思い返してみると、お母様は大変だった。
そんな中で、お母様はきっと本を読むことしか出来なかった。それでもお母様は自分のことを不幸なんて思っていななくて、楽しそうにしていたのだ。
『好きなことがあるのはいいことだ』
『レルジミーにはないの?』
『……あるにはあるけれど、才能がないから』
レルジミーは少しだけ悲しそうにそう言った。
好きだけど、才能がないとそう言うのだ。別に才能のあるなしが全てだとは思わないけどなぁ。お母様だってあんなに魔術に詳しいのに、魔術を使うことなんて出来ないもの。
『別になくても学ぼうとすれば、学べる』
『……それはラウレータに才能があるから言えることだろう?』
『それはそうかも!』
それはその通りではあるので、そう答えておく。ちょっとびっくりした顔をされた。
『でも才能が無くても出来ることはある。私、そう言う人知ってる』
私がそう言ったら、レルジミーは不思議そうな顔をする。
お母様は魔術を使うことが出来ない。それは生まれつきだ。それも周りから見ると魔術について学ぶ必要性がない人と判断されるだろう。基本的に最初から才能がある人の方がやった方がいいと判断する人の方が多いから。
お母様はね、魔術を使えない人でも魔術を学んでもいいのだとそんな風に周りに言っている。だから魔術を使えない人も、魔術を学んでいる。特にお母様の『花びら』の人達は。
それに最初は言語を学ぶのが苦手で向いてないと言われた人も、「自分は学びたい」と口にして、学んでいた。
そう言う風に向いてないと言われている人も、お母様はやりたいならやればいいと笑う人なのだ。
それで結果が出なかったとしても、それはそれだって。
お母様はそう言う風に、人のやりたいことを否定しない人だ。
『だから、才能ないとか関係なしに、やればいい』
それは周りにとって“才能がある”って言われている私が言うことではないかもしれない。それでもやりたいことをそんな理由で諦めるのはもったいないのだ。
やれるだけやって、やっぱり違う道に行こうとするとかなら分かるけれど。
『……そうか。なら、魔術の本読みたい』
『やりたいこと、魔術?』
私の言葉に、恐る恐るといった様子でレルジミーは頷いた。
『そうなんだ! じゃあ一緒に読もう?』
『ただ、俺はあんまり魔術が使えない』
『少しは使える?』
『ああ。魔力量は、少ないが』
魔力量が少ないことをレルジミーは負い目に感じているらしかった。そもそも魔術って使い方次第でなんでも出来るものなのだ。魔力量が多くても上手く使えない人も私は知っている。
魔術式を理解して、魔術を行使する。それを出来れば一番いいけれど、なかなか理解もせずになんとなくで魔術を使う人も多いらしい。
暴走しかかっている人とか、細かい魔術が上手く使えない人とか。
王宮に仕えている魔術師の人達でも採用した後に、仕事では活用出来ない派手な魔術しか使えない人もいたって聞いたことある。
――失敗した。これから上手く教育出来るだろうか。
そんな風に嘆いている声も聞いたことある。だから結局魔力量の良しあしって、関係ないんだよなぁ。お母様みたいに魔力量はあっても魔術は使えない人も世の中にはいるわけだし。
『そうなんだ。じゃあ、魔力量に気を付けて魔術を使ったらいいと思うよ!』
お母様は魔術式の中で、魔力量がもったいない部分は改良したものを生み出したりよくしている。ああいう調整って、魔術への理解が足りない人がすると失敗してしまうことも多いらしい。
魔術式を改良するにあたって、魔力を削減するのを優先しすぎて危険なものになった例とかも世の中にはあるっても説明されたことある。だから私がそれをする時はお母様やディオ父様が居る時にやった方がいいと言われている。あとは王宮魔術師の人達とかね。
『節約?』
『うん、ほら、これ、見て』
私がそう言って取り出した本は、お母様が魔術師の人達と一緒に共著で出した本。
魔力が少ない人でも使いやすい魔術に関しての項目をページをめくって探し出す。お母様は読んだ本のページとか覚えているけれど、私は流石になんとなくこのあたりに書いてあった気がするなとかそういうのを覚えているぐらい。
『……いや、俺は魔術式、理解出来てない。魔力量少ないから、無駄だって言われて』
『もったいないよ。魔術式、理解していると、魔術使いやすい』
どうやらレルジニーの周りには、魔力量が少ないなら魔術を学ぶべきではないと否定する人がいるみたい。
世の中にはそう言う人がいるのは知っているけれど、可能性を摘む行為だし、そんなことをしない方がいいのになと思った。
『じゃあ、私が教えるね』
私はせっかくだからと魔術式について教えることにした。




