娘へのプレゼントを選ぶ。
図書館で働き始めて一か月が経った。初めての給料日がやってきた。
この街にやってくるまでの間、働いていたのは単発の仕事だった。だからこうやってまとまったお金をもらうのは初めてである。
家賃などを差し引いてもまだお金に余裕はあった。
私はただここで働きたいと応募したけれど、給料がとても良かった。後は翻訳の仕事の出来が良かったからと手当もつけてもらえたみたい。
こうやってまとまったお金が手に入って、何に使おうかと悩んでしまう。
私はあんまり自分で何かを選んで買うことはなかった。
実家にいた頃は与えられたものを使っていたし、嫁ぎ先でもやってきた商人の元で衣服などを購入していたぐらいである。それも私には悪い噂があったから、直接商人と会話をすることもなく……侍女や使用人経由だった。
折角だからラウレータに何か贈りたいな。……私の名前で送って、公爵家が受け取るかどうかは分からないけれど。
自分の稼いだお金でラウレータにプレゼントを贈ると考えると少し楽しい気持ちになる。
「なんだか楽しそうだけど、どうしたの?」
「給料が入ったからプレゼントを買おうと思って」
「娘ちゃんに?」
「ええ。こうやって自分の稼いだお金でプレゼントを渡すのが初めてだから、なんだか選ぶ段階から楽しみだなと思って」
私がそう言ったら、ゼッピアが一緒にプレゼントを選んでくれることになった。
図書館は夕方には閉館するので、閉館の作業を終えた後、私達はお店の立ち並ぶ大通りに向かうことになった。
一か月も街で過ごしていると街のことも分かってくる。
この夕暮れの時間は、それなりに混んでいる。祝日ほどではないけれど、丁度仕事を終えた人たちの帰宅時間なのだ。
この街には学園も存在しているから、学生の姿も多い。知識の街、エピスに存在する学園は確か人気が高いのよね。
私の故郷の国からもこの街の学園に通っている貴族は少しはいるはず。私はあまり外に出ていなかったから、私の顔を知っている人はほとんどいないと思うけれどそのあたりも私を知る人がいたら面倒だから眼鏡をかけて髪型も変えている。
悪い噂ばかりの私しか知らない人たちは、今の私を見ても私の言葉を聞かないのだろうか? 私が何を言っても、噂があるからと誰も私の言葉を本気には捉えなかった。
嫁ぎ先の人たちには私が自由に動くためにそう演じていただけだと思われていた。
あくまでそうやって演じていただけで、実際の姿は噂通りだとそう決めつけられていた。
この国に私を知る人がやってきたとして、私の悪い噂の事を言われても皆が今の私を見てくれたら嬉しいなとは思う。
子供関連の物が売ってある専門店へと入る。
平民向けのお店なので、公爵令嬢として生きているラウレータには釣り合わないものかもしれないけれど……でも受け取ってもらえたら嬉しいな。
「娘ちゃんは何が好きなの?」
「私が絵本を読んであげると喜んでいたわ。あとは流行りの玩具で遊ぶのも好きだわ」
公爵令嬢としてラウレータの元には沢山の玩具が与えられていた。私が絵本を読んであげたり、おもちゃで遊んでいる様子を見ていると楽しそうに笑っていた。
……子供は少し見ていないだけでも成長していくものだから、たった一か月でも成長しているんだろうな。そう思うと成長を見られないことは少し寂しく思う。
私が突然いなくなることになったから、泣いているだろうか。寂しがっているだろうか。
会えなくなるって最後の挨拶はさせてもらえたけれど……、まだ小さな娘は私がそのまま帰ってこないとは思っていないかもしれない。
そのうち再婚でもするのかな。公爵夫人になりたい女性は多いだろうから、色んな思惑があってそのうち新しい母親をラウレータは得るんだろうな。
そんなことを考えながら私は幾つかの絵本やおもちゃを購入する。少し高価なものも購入した。だって喜んでもらいたいと思うから。
なんというか自分の物はあまり買わないのに、子供のものはついつい買ってしまう。
「そんなに買って大丈夫?」
「ええ。生活費はきちんと確保しているから問題ないわ」
「……あんまり散財はしないようにね?」
「そうね。貯金も毎月きちんとするようにしたいわ」
一人暮らしにはお金がかかるものだ。ただ私の職場は昼食も割引されたりしているので、生活はしやすいけれど。家で摂る食事代も節約できるといいと思っている。料理のレパートリーも増えてきた。
職場で料理の本も色々読んで試してみているのだ。実家にいた頃は食材も自由に使えなかったから、一人暮らしだと自分のお金で好きなものを買えるからいいなと思う。
少しずつ貯金を増やしていけば、旅行なども行けるようになるだろうし。色んな場所に行けたらなとも思うから。
それから私は娘へと贈り物をする手続きを行った。紛失もよくある話なので、きちんと届くかは少し不安だ。でも正規の、少し値が張る手続きをしたので届くと思いたい。
喜んでもらえたら嬉しいなとそう思う。
だけれども――私が送ったその贈り物達はしばらくして返送されてきた。
夫や公爵家は私からのプレゼントを娘に渡す気ないのだろうなと少し悲しくなった。でも何度か送ってみようと思う。そしたら一つぐらいは娘に届けてくれないかと……少し期待して。全て渡されないこともあるだろうけれども。




