プロローグ
「今すぐ、出ていけ!!」
「……はい。お世話になりました。お父様」
私、クレヴァーナ・シンフォイガ。
公爵家の次女である。……いや、あったと答えるべきだろう。
私はたった今、家から勘当されてしまったから。
手荷物は、最低限のものだけを詰め込んだ小さな鞄。お金も数えられるだけしかない。
使用人達の目は、私を蔑むものばかり。……そもそも私は元々家族から嫌われていた。政略結婚の道具として育てられていた私は、結婚も失敗してしまった。
私はついこの前、離婚されたばかりである。
同意による離婚ではない。……私ははめられて、公爵夫人に相応しくないと言われてしまったのだ。
悲しいことに嫁ぎ先でも、実家でも、私の話を聞く人なんて誰もいなかった。
私の嫁ぎ先は、同じく公爵家。とはいえ、実家の公爵家よりは格が高く、王家からの覚えも目出度い家だった。
本当は嫁いだ先で、上手く夫婦関係を結ぶことが出来ればいいのにと期待した。――でもそんなものは儚い夢でしかなかった。
……嫁ぎ先で、六年過ごした。
その間、私は上手く出来なかった。努力はしたつもりだったけれど、国内でも有数の魔術師である夫の関心を引くことは叶わなかった。それに夫の周りにいた者たちも、私のことを夫の妻として相応しくないと……そう言っていたことを知っている。
あくまで政略的に結ばれた結婚。
私も……仲良くはしたいと思っていても、そこに愛などなかった。
夫は私自身を見ることはなかった。流れている私の噂と、周りが決めつけた私だけを見ていた。
……だから、何を言っても私の言葉は届かない。そもそも私が何を言ったとしても、夫は気にしなかっただろう。
私は妻ではあったけれど、空気のような存在でもあった。
ただ一つ心残りなのは、嫁ぎ先に置いて行かなければならなかった娘のことだ。
……そう愛はなかったが、義務的な関係はあったので私と夫の間には子供がいる。ラウレータという名の、夫に似た黒髪と、私に似た薄黄緑色の瞳を持つ娘。
離縁されるのならば本当は……娘も一緒につれていきたかった。でも栄えあるウェグセンダ公爵家の血を引く娘を私のようなものには渡せないと言われた。
……抵抗はしたけれど、ダメだった。
この離縁は……私に非があっておこなわれたものだと周知されているからというのもあった。
本当にどうしようもないことに、全くといっていいほど味方がいなかった。私が実際にその行動をしていないと知っている者が例えばいたとしても、私は味方をされるだけの価値がなかった。
本当にそれだけの話だったのだと思う。
そして出戻りしても、やっぱり私は実家の家族たちにとっては価値がなかったのでこうして家から追い出された。
……離縁の際に餞別としてもらったお金も家族に取られた。何かあった時のためにと念のためもっていたお金も正直そんなにない。これも所持していることを知られれば家族に取られるだろう。
お金もなければ頼れる場所もない。
――それが私、クレヴァーナ。二十四歳。