32話 絶対強者
ロックメント=封印結界……空間ごと相手の動きを封じる
マリオンに圧倒的な力を感じたロジェとミレーラは悚然としていた。
ロジェの額から汗が流れる。
……こいつには……勝てない……
静寂の中、圧倒的な力に短剣で攻撃を仕掛ける者がいた。
飛び込んで行ったのはオレクだった。
「若造、嬢ちゃんを連れて離れろ。 距離を取るのじゃ」
しかし、オレクの攻撃はマリオンには届いていない。
マリオンの前に障壁が現れ、防がれている。
マリオンが軽く腕を振ると、オレクは部屋の壁まで飛ばされた。
「ズドン」と辺りに衝撃音が響くと、壁に打ち付けられたオレクがピクリともせずに床に落ちていく。
「爺さん!! くそっ」
ロジェは震える手に力を込め立ち上がると、マリオンに向け剣を構える。
だが、マリオンがロジェに手を向けると体に衝撃が走り、後方に吹き飛ぶ。
「妾は気分が良いのじゃ。貴様らは妾を復活させた褒美に、生かしておいてやろう」
ヒュームがマリオンに近づく。
「お前の目的は何だ。復活して、どうするつもりだ」
マリオンはゆっくりとヒュームを眺めると――
「目的……目的か……考えてなどおらんかった……」
一歩一歩、ゆっくりとヒュームに近づく。
「この世界の全てを手に入れるか……そ・れ・と・も、世界の絶対的な君主となるか……」
マリオンはヒュームの耳元で不気味な笑みを浮かべると、小さく囁く。
「全てを滅ぼすか……」
騎士が持つ槍を奪うと、マリオンに槍を投げつけるクルム――だが、槍は防壁に阻まれ弾き飛ぶ。
「コーデリアは……娘は何処だ!!」
「コーデリア?……この体の依り代の事か……感謝しているぞ。この依り代が無ければ妾は復活できなんだ」
「娘を……娘を帰してくれ」
剣を構えたクルムが震える足でマリオンに襲いかかる。
「無駄な事を」
マリオンが指を向けると、クルムを黒い光が貫通した。
「ぐあぁぁぁぁぁ」
叫び声と共に倒れるクルム。
「妾は遠い昔に封印された……長年、この体の力が妾の復活を阻止してきたが、貴様らのおかげでその力も薄れてくれたようだ」
痛みに耐えクルムが声を絞り出す。
「……どういう……ことだ……」
「妾を覆っていた目障りな魔力を、貴様らが取り払ってくれたのじゃ」
「なんだ……と……」
「滑稽な話だが、『馬鹿な貴様らに感謝しておる』ということだ。貴様はこの体の血族か……娘に会えぬ無念、苦しいものであろう……その無念に苛まれるのは可哀そうだ。いっそのこと殺してくれよう」
マリオンがクルムに向け歩き出した。
「ロックメント」
ヒュームが素早く印を結ぶと、マリオンの周辺が空間ごと時を止めたかのように静止する。
――だが、ヒビが入るとガラスが割れるように空間が崩れ落ちていく。
「面白い術じゃな」
不敵に笑うマリオンがヒュームに向けて指を弾くとその衝撃が肩を貫き、血飛沫を上がる。
「第一の剣……高速剣」
立ち上がったロジェが、マリオンに向けて剣技を放つ。
一瞬の間
マリオンがロジェを睨む――
ロジェが高速で来り出す居合がマリオンの障壁を破壊し、切っ先が首に届くかと思われた――が、ガチンと激しい火花が飛ぶと、マリオンは右腕で剣を防いでいた。
「面白い……妾に攻撃を当てるものが、この世にいるとは……」
防いだ剣を左手で掴み、右手を下にむける。
ロジェの体が凄まじい力が加えられ床に押しつぶされた。
「ひれ伏せ」
絶望を感じる程の冷たい声が響く。
その場にいる全ての者達が、恐怖を超えた絶望の中にいた。
マリオンは腕を振ると、城の壁を激しく吹き飛ばし破壊した。
「この目で月を見るのはいつぶりだじゃ……久しくその姿を忘れていたぞ」
喜びの表情を浮かべた絶対強者は、漆黒の翼を広げ、宙に浮いた。
「妾は復活して間もないため、魔力が枯渇しておる。あの森で魔力を戻すとしよう。貴様らは生かしておくが、魔力が戻った後は、世の全ての命と共に消し去ってやろう」
「なぜ……そんな事を……話す……」
ロジェが精一杯の力を振り絞り、声を出す。
「……ただの余興じゃ」
「ふざ……ける……な!!」
「……ふざけてなどおらん。貴様らの命など余興にしかならぬであろう。妾を楽しませて見せよ」
マリオンが漆黒の翼を羽ばたかせると颯爽と魔窟の森に向かい飛び去った。
ロジェはボロボロの体で立ち上がると、ミレーラに近寄る。
ミレーラは瞳に力が無く、茫然としている。
「ミレーラ、ミレーラ……」
「………」
問いかけに反応は無かった。
ミレーラを優しく抱きしめる。
「ミレーラ……もう大丈夫だ……」
瞳に生気が戻ると同時に激しい震えがミレーラを襲う。
「ロジェ…………」
「ミレーラ……大丈夫、大丈夫だ」
ロジェはミレーラの震えが止まるまで、優しく抱き続けた。
会議室
クルム、ヒューム、ロジェ、ミレーラが集まっている。
ヒュームが重い空気の中、口を開いた。
「……想定していた以上の最悪の結果が起きてしまった……先ほどの魔物は……悪魔だ」
ロジェが割り込むように、
「……赤い悪魔だろう?」
「……あいつは、本物の『悪魔』だ」
ヒュームの表情は強張っていた。
「どういうことだ……」
「魔族も人も存在していない時代……魔界に存在していた『悪魔』そのものだ……」
「…………」
黙り込む三人を前にヒュームが切り出す。
「スピカ国の言い伝えに、悪魔を封じた少女の話しがある……」
ミレーラが改まった声でヒュームに問う
「どんな話しですか?」
「少女が悪魔に誑かされ、王を殺そうとする。そこに天使が現れ、力を使い悪魔を倒そうとするが、少女の中に悪魔が逃げ込む。しかし、そのまま出てこれず封印された話しだ……」
「その悪魔がコーデリア様の中に?」
「言い伝えが本当だとするなら……その少女がコーデリア様の先祖にあたるのかもしれない……」
ロジェは苛立ちからテーブルを叩き、ヒュームに噛みつく
「だとしても、今は関係ない!! あの悪魔をどうするかだ!!」
ヒュームもまた、ロジェを睨む。
「……本物の『悪魔』なら、我々では……どうすることもできない……」
「そんな……」
ミレーラは天を仰いだ。
重苦しい雰囲気が部屋全体を覆っていた。




