22話 神殿
神殿内に設置してあるトーチに明かりが順々に灯って行く。
まるで何かが作動したように、神殿の中央に向けて少しずつ明るくなる。
二人は、ひと際大きな天井付近に炎の塊を見つけた。
炎の塊は姿を変えさらに、さらに、大きな炎へと変わっていく。
炎の熱が神殿内を包む。
「マジックシールド」
ミレーラは二人を魔法壁で包んだ。
強大な炎は熱風を放ち破裂すると、炎を纏った大牛のような顔に、頭の左右に角を持つ人型の魔物が現れた。
「我が名は、爆炎の魔神イフリート。この場を守護するもの」
ミレーラが口に手を当て驚く。
「イフリートですって……古文書で読んだことがあります……炎の化身と言われております……」
「侵入者よ。主らを逃がす事は出来ぬ」
空中に浮かぶイフリートの後方から複数の火球が出現すると、二人に向かって放たれる。
ミレーラが魔法を唱える。
「ウォータウォール」
巨大な水の壁が出現し、二人に迫る火球を防いだ。
「ウォータボール」
間髪入れずにミレーラが水の弾をイフリートに放つ――が、水弾はイフリートに到達する前に、高熱により蒸発して消えた。
唖然とするミレーラ。
「火属性は水魔法に弱いはずなのに……」
イフリートは腕を組み、空中から二人を睨んだ。
「その程度の水魔法など、我には効かぬ」
左右に二つ、巨大な炎の塊が出現し、二人に向けて放たれた。
あれは……ヤバい
ロジェは咄嗟にミレーラの手を引くと神殿の柱の後ろに隠れた。
「ミレーラ!!」
ロジェが叫ぶとミレーラも理解したように魔法を唱える。
「はい! マジックシールド」
巨大な炎が二人を包んだ――が、魔法シールドのおかげで、何とか無事にいられた。
しかし……さらに巨大な炎が二人に迫る。
ミレーラは熱量により、はぁはぁと苦しそうに息を切らし、その場で膝をついていた。
くそっ……このままじゃ……
ロジェは巨大な炎に向けて、柱の後ろから飛び出した。
ロジェが折れた剣で炎の塊を斬ろうとして、斬撃を飛ばすが、小さな斬撃は炎に呑み込まれた。
真正面で炎に包まれる瞬間、膝をついた杖を向け、ミレーラが魔法を唱えた。
「はぁはぁ、マジックシールド」
ロジェは魔法壁に包まれたまま、炎に包まれた――が、炎の中で剣を縦横無尽に剣を振り炎を散らせた。
息を整えたミレーラが心配してロジェに近寄る。
「ロジェ、大丈夫ですか……」
「大丈夫だ……だが、この折れた剣では、あいつを倒せない……ミレーラ、俺があの祭壇の剣を抜いてくるまで、時間を稼げないか?」
気迫を込めたミレーラが杖を強く握った。
「あそこにある剣を……分かりました、何とかしてみます」
イフリートはロジェを睨んでいる。
「魔法で防いだとしても、無傷とは……もしや……我の炎が効かぬのか……」
ミレーラが柱の陰より魔法を唱える
「ウォータランス」
ミレーラが放った水の槍は、今度は消える事なくイフリート横顔に着弾した。
「あなたの相手は私です」
そう叫ぶミレーラを、着弾こそしたが、ダメージの見えないイフリートがジッと睨んだ。
「その程度の魔法、効かぬわ!!」
イフリートが手を振ると炎が床から湧き上がりミレーラに迫る。
ミレーラは【マジックシールド】で炎を防ぐ。
「これくらいなら……」
……なんとか持ちこたえてくれ……
ロジェは柱に隠れながら、祭壇を目指していた。
力強い瞳でイフリートを見つめるミレーラ。
(二人で無事に戻るために……時間稼ぎくらいなら何とかして見せるわ)
イフリートが火球を飛ばしながら、ミレーラに迫る。
ミレーラの周辺は灼熱で包まれた。
ミレーラは【マジックシールド】を掛けながら、【ウォータウォール】で壁を作り、必死に猛攻に耐えている。
「このままでは……いずれ耐えられなくなる……どうしたら……そうだわ」
ミレーラは柱を盾にするように隠れ、両手を広げる。
「ウォータランス」
静かに魔法を唱えるミレーラの頭上に五つの水の槍が出現した。
「お婆ちゃんみたいには無理ですが……ファイブ・ランス」
両手をイフリートに向けると、放たれた水の槍が柱の死角から現れイフリートを貫いた。
ミレーラは初弾でイフリートに着弾したウォータランスがイフリートに聞いていないことに疑問を抱いていた。
(いくら炎の魔人でも、有効な水属性の中級魔法で無傷なんてあり得ないわ……)
イフリートは水の槍に貫かれた事で炎の勢いが著しく弱まった。
「ぬおおおおおおおおおお……なかなか、やるな小娘」
(やっぱり……魔法が当たる箇所を、魔法か何かでガードしていたのね……これなら……死角からの攻撃なら、ガードされないわ……)
ミレーラ、小さく頷くと心に決意を込める。
(簡単には、やられないわ……)
そのころ……
ロジェは階段を駆け上がり、祭壇の前で刺さっている剣を握った。
力を込め、引き抜こうとするが、ビクともしなかった。
抜けない……どうすれば……何か方法があるのか……
イフリートは回転しながら上昇すると弱まっていた全身の炎が復活し、さらに一回り以上強大になっている。
「そろそろ終わりにしよう……」
強大な炎を纏ったイフリートがミレーラ目掛けて突進してくる。
ミレーラは【ウォータウォール】を出現させ、さらに【マジックシールド】で防御に徹した。
魔法を弾きながら突進するイフリート。
ミレーラは次々と柱の陰に隠れるように、必死に突進を躱した。――が辺り一面は炎と化し灼熱がミレーラを苦しめた。
「はぁ、はぁ……暑い……はぁ、はぁ」
肩で息をし始めるミレーラ。魔力の限界も近づいていた。
一方のイフリートは纏う炎がさらに強くなっている。
イフリートが威嚇するように言い放つ。
「小娘、これで終わりだ」
ミレーラは意を決したように気力を振り絞るとイフリートの前に出た。
「……これなら……どうですか……左手に水魔法、右手に風魔法……」
ミレーラの左手が青く、右手が緑色に輝き出す。
光る両手を合わせるように組むと、光が混ざり合う。
混ざり合う光をイフリートに向けて放った。
「「氷結魔法ブリザード」」
イフリートの周りを氷の粒がバキバキと覆って行く。
やがて氷は中心に集まるように迫るとイフリートを包む炎に触れ、炎を消していく。
炎に包まれた四肢を凍らせながら、イフリートを包み込むと巨大な氷塊が出来上がった。
巨大な氷塊はズドンという音と共に、床に落下した。
「はぁ、はぁ……」
ミレーラは膝をつき、そのまま座り込んだ。
しばしの静寂の中、床に転がる氷塊から少しずつ炎が吹き出してくると亀裂が入っていく。
やがて大量の炎が亀裂から吹き上がると、氷塊は崩れ、イフリートが現れた。
纏う炎の量は大幅に減り、イフリートもまた限界が近いように見える。
「たいした娘だ。この我とここまで戦えるとは。だが、これまで」
イフリートが両手を横にすると二つの巨大な炎が現れ、ミレーラに放たれた。
ミレーラは意識が朦朧として俯いている。
「ごめんなさい……ロジェ……私は……もう……」
祭壇
ロジェが剣を抜こうとしているが、ピクリとも動かない。
焦りの表情を浮かべるロジェ。
……どうすれば……何かあるはずだ……早くしないと……
ロジェは祭壇を調べると、紋章の中心に赤い石を見つけた。
怪しいがどうする……
「触れてみるか……」
ロジェが赤い石に触ると、紋章が光だし、剣が輝きだした。
恐る恐る剣に触れるロジェ。
動く……行けるな……
輝く剣を握り、ゆっくりと引き抜いていった。
「よし!!」
剣を手にしたロジェが、ミレーラに目をやると、巨大な氷塊が崩れイフリートが現れた瞬間だった。
「ミレーラ、今、助ける」
一陣の風が吹くようにミレーラに向け、駆けだしたロジェ。
動けないミレーラに巨大な二つの炎が迫りくる――が、ミレーラを炎が包む前に、一筋の斬撃ににより、炎は真っ二つに斬り払われていた。
膝をつき俯くミレーラの前に、黒い剣を構えたロジェが立っていた。
ミレーラ……待たせたな……
「……第六ノ剣……龍星……」
ロジェが呟くと、無数の斬撃がイフリートに降り注いだ。
「なんだ!? この攻撃は……防御が……間に……合わな……い」
その豪雨のような斬撃の激しさにイフリートが包まれると、炎が散り散りに拡散し、イフリートは消えていった。
ロジェが座り込むミレーラの肩を揺する。
「ミレーラ、ミレーラ」
その問いかけに、意識が戻るミレーラだったが、意識がぼんやりしているようだった。
「……ロジェ……」
ロジェは動けないミレーラを背負うと神殿の外へと走り出した。
「さっさとここから出るぞ」
「……はい……」
神殿を出ると水辺の橋を颯爽と走るロジェ。
一気に陸地まで走ると通路へと進む。
また……罠にでもあったら、無事では済まない……さっさとここから出よう……
通路は階段となっていて上へ上へと続いていた。
階段を上がった先に魔法陣を見つける。
「どこに飛ばされるか分からないが、このまま飛び込むぞ」
ロジェはミレーラを抱えたまま、魔法陣に飛び込んだ。
その先で二人は、どこまでも続く草原とたくさんの星が輝く夜空を目にした。
外に出られたみたいだな……
ロジェは背負っていたミレーラを、草原に寝かせると、安堵の表情を浮かべた。
ウォータウォール=水魔法 初級……水の防御壁を出現させる
ウォータボール=水魔法 初級……球状の水を対象に向け放つ
ウォータランス=水魔法 中級……水の槍を放つ
マジックシールド=光魔法 初級……魔法防御の盾が味方を覆う




