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事の発端



「伝令っ!レオン皇帝陛下!西の領地(ヴロデュス)が、陥落寸前です…っ!」


あちこちに矢が刺さり、血に濡れ、ボロボロになりながらも伝令を持ち帰った兵士は、息を切らせ涙ながらにそう言うと力尽き、その場に倒れた。

軍事会議室に集まり議論を重ねていた者たちは、まさかの凶報にどよめく。


「鎮まれ。」


一言。

さほど大きく発したわけでもない筈なのに、低い声が響けば、どよめきを瞬時に静寂にする。

しん、と静まり返った会議室の奥、豪華な椅子の手すりに肘をかけ、拳に顎を乗せて目を瞑って静かに議論を聞いていたグラニスタ帝国皇帝レオンは、閉じていた目を開き倒れた兵士を見やる。


「丁重に治療してやれ。」

「はっ!」


壁際で警護にあたっていた兵士が廊下に合図を出せば、新たな兵士がやって来て伝令を務めた兵士を運んでいく。

その様子を無言で眺めていたレオンは、ため息ついた。


「愚かだな…」


それは誰に向けられた言葉なのか。

その場にいた誰もが計りかねた。

ただ、レオンの金の瞳だけが燦々と鋭く輝いていた。






一本の巨木を中心に広がる自然豊かな国、グラニスタ帝国。

綺麗な山や川は豊かな実りをもたらし、同時に天然の要塞の役割もこなしている。

しかし、それに甘んじる事なく、東西南北それぞれの領地を預かる領主達は国境に防壁を築き、軍事施設を整え、都市の奥地にある自然を護る様に要塞を建て、そこから厳重に近隣諸国に睨みを利かせていた。



東は砂漠の大地サーラ

西は雨季の大地パトラ

南は灼熱の大地アルダ

北は不毛の大地ザンガ



どの国も大小様々な問題を抱えているが、1番の問題は食料だった。

どの国も環境に合わせた栽培を研究し行っているが、収穫量が天候や災害に左右されてしまい、慢性的な食糧難。

自衛の為にも、実りの多い帝国は四カ国に惜しみなく食料の輸出をしていたが、最近になって概ね均等だった四カ国の国力の差に翳りが生じ始めた。

輸出額の調整をすれば、不公平だと糾弾され、輸出量を減らせば不平等だと言われ、徐々に食料の行き渡らない場所が増えた。

いくら協議を重ねても、解決するつもりがないのではと思えるぐらいに話は並行のまま、どうにもならない状態が続き、瞬く間に治安が悪化した。

略奪行為が始まり、餓死者が増え、様々な不安や不満、怒りが爆発し、遂には侵略が始まった。

四カ国の矛先は、もちろんグラニスタ帝国だ。




自国でもないのに親身になって対策案や代価案を出していたのにも関わらず、のらりくらりと全てを突っぱねたのは四カ国のはずなのに、全ての元凶が帝国であるかの様に嘯かれ、今では針の筵。

今までずっとこうならない様にと最善尽くして寄り添って来たグラニスタ帝国にとって、今回の四カ国の行いは手酷い裏切り行為だった。




人と言うのは元来欲深いものだ。

自分より豊かなものが目の前にあれば飛びついてしまう。

どうやったって解決の目処が立たない問題を、帝国は平然と享受し、あまつさえ、分け隔てなく分け与えている。

だったら食料ではなく、その豊かな土地を分けてくれたって良いじゃないか。

そうしたら食料をわざわざ輸入する必要がなくなり、浮いたお金は国民の為に。

そんな甘い甘言に踊らされ、ありもしない絵空事を空想する。

しかしそんな自分勝手な言い分が通るはずもなく、なんの前触れもなく息を合わせたかの様に突如始まった四カ国の同時侵略は、起るべくして起こった事なのだろう…。



だから欲に眩んで誰も気付かない。

何故、グラニスタ帝国が自然豊かな国土を持っているのかを。

何故、国境に防壁を築き軍事施設を設け、自然を護る様に要塞を建てているのかを。

何故、古くからあるグラニスタ帝国の皇帝の名がずっと()()()なのかを。






燃え盛る戦火の中、まるで陽だまりの中を優雅に散歩する様に悠然と進む四つの人影は、異質であるはずなのに誰の目にも留まらない。


「どうしたものかなぁ…」


先頭を歩く、漆黒の髪と深紅の瞳、容姿も声も中性的で、気怠げな雰囲気を持つケイトは煙管を咥え、周りを見渡しながらぽつりと呟く。


「今回の任務は遊べそう?」


そんなケイトの首に腕を回してぷかぷかと浮かぶ、黒髪碧眼のハデスは楽しそうに尋ねる。


「そう言えば、任務内容をまだ伺ってませんでしたね」


金髪翠眼の美女、ルナは困った様に頬に手を当て首を傾げる。


「まだ決めかねてるんだろ?」


白髪紫眼の偉丈夫、シヴァの言葉にケイトは頷く。


「そうなんだよね…。今回はちょっと特殊だから盟主次第って感じかな。いつもと違って滅多にない任務だからもの珍しさはあると思うけど」

「ふ〜ん。だから珍しく悩んでるんだ〜?」

「そうなんだよ。何がお望みか少々悩むところ」


歩きつつ思案しながら辺りを観察ししているが、その足取りに迷いはなく、目的地は決まっているらしい。

辺りには助けを呼ぶ声や怪我人の呻き声、死体が転がっているのに気にした様子もなく、しばらくとりとめのない話をしながらゆっくりと歩いていた四人だが、ケイトがピタリと足を止めた事でその歩みを止める。


「あー、なるほど?…シヴァ、相手の指揮官の首が欲しいな。ついでに向こう側周辺の様子も見て来て」

「分かった」


ケイトの指示にシヴァは一言返事をしてから姿をかき消す。


「じゃぁ、私達はのんびり目的地に行こうか」


何かを確信して方向性を決めたケイトは戦火の燻る都市を背後に、二人を伴ってゆっくり歩いて姿を消した。







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