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恋となりぬる

完結編となります。

お互いにすれ違う気持ちを抱える二人の行く末は……。


公英きみひで梗子きょうこの内心が互い違いに出てきますので、混乱なさいませんように……。


どうぞお楽しみください。

 目減りした貯金残高を見る。

 大した趣味もなく、ただ貯まっていったお金。

 特に思い入れがあるわけじゃない。

 ただ『猫BAR』に今のペースで通い続けていたら、一年と持たずに底をつくだろう。

 そうしたらきーちゃんさんには会えなくなる。

 ……どうしたらいい?

 副業でもしてお金を増やすか……。

 ……現実的じゃないな。

 やはり行く回数を減らすしかないか……。

 でも急に行くのを減らしたら、きーちゃんさんは何か失敗したのかと気にするかもしれない。

 真面目な子だからな。

 ……とにかく『猫BAR』に行こう。

 そして、仕事の都合とか言って、少し間を空けると話そう。

 きっとそれで大丈夫だ。

 ……多分。




 ……どうしよう。

 考えがまとまらなくて、現実から逃げるように手を動かしていたら、マフラーが完成してしまった……。

 しかもちょっと長め。

 ……駄目、だよね。

 これを渡したら、きっとかばさんとの関係は変わってしまう。

 でもこのまま、何も返せないままでいるのも辛い。

 ……やっぱりちゃんと渡そう。

 それで食事とかに誘って来るなら、同伴って事で一回だけ付き合おう。

 そこでいやらしい事を迫ってくるなら……。




「……こんばんは」

「いらっしゃいませー!」

「今日も元気だね」

「ありがとうございます! あの、今日もお相手は私でいいですか?」

「勿論」

「ありがとうございます! じゃあお飲み物作りますね。いつものでいいですか?」

「うん。あときーちゃんさんの飲み物も。キングで」

「ありがとうございます! キングいただきましたー!」

『ありがとうございまーす!』

「……何か毎回これ、圧倒されるね……」

「すみません、キング入れてくれるお客さんを盛り上げようって決まりで……」

「あ、嫌じゃないんだ。気にしないで」

「ありがとうございます! じゃあ作ってきますね!」

「うん……」




 な、何か全然切り出せる気がしないな……。

 あんなに喜んでくれているなら、たとえ金ズルだとしても通いたいと思ってしまう……。

 思う壺なんだろうけど、でも、それでも……。

 稼ぎのいい副業って何かなぁ……。




「お待たせしました! じゃあかんぱーい!」

「乾杯」

「はー、美味しい! 乾杯するとお酒って美味しくなりますよね!」

「あぁ、わかる」

「桐川さんも飲み物が来るたびに乾杯するのが好きって言ってましたね!」

「うん。で雪舟と内藤が、『毎回やる必要ある?』ってツッコミながら、それでも乾杯には付き合うっていう話がすごく好き」

「わかります! 何だかんだいい関係ですよねあの三人!」

「わかり合ってるからこそ、辛辣な事も平気で言い合える感じがね。『腹を割ろうじゃないか』とか」

「『僕はもう寝たいんだよ』って言ってる雪舟さんに延々腹筋の話を振る内藤さんは鬼でしたね!」

「雪舟がしんどいのはわかるんだけど、つい笑っちゃうよな、あれ」

「後は女の子の好みの話とか! 雪舟さんの理想の女性像が、もう……!」

「……あ、えっと、結構な下ネタも言ってたけど、きーちゃんさん、そういうの平気……?」

「……え、あ、その、まぁ、だ、大丈夫です!」

「あ、あの、ダーティアンの二十四話のテコ入れ、面白くなかった? 強敵を相手にしてパワーアップすると思ったら別チーム呼んで十人でボコボコにするとか」

「あ、あれは笑っちゃいましたね! そこで決め台詞の『卑怯だぞ!』『褒めるなよ』ですもんね!」

「一旦シリアスに振ってからの卑怯な手で笑い取るの本当にずるいよなぁ」

「わかります! 正義のヒーローなのに一貫して卑怯なの最高ですよね!」

「子ども向けでは決してないけどね」

「えー、そうですか? 私子ども時代にめっちゃハマりましたよ?」

「そういえばそうだっけ」

「あー、でも同級生で見てる子はいませんでしたね……」

「だと思うよ。あれは普通の戦隊モノに飽きた大人向けだと思うし」

「えぇー? 子どもにも楽しめる内容でしたよ」

「それはきーちゃんさんの感性が独特なんだと思う」

「人を変な奴みたいに……。あ、でもそれってブーメランですよね?」

「あはは、確かに」

「ふふふ、似たもの同士という事で。あ、ちょっとお手洗い行ってきますね」

「うん」




 やっぱり蒲さんいい人だよ!

 今のダーティアンの話も、『桐川・雪舟・内藤』での下ネタ話題から離すためだもんね!

 やっぱりマフラーをあげよう!

 きっと喜んでくれる!

 ……それでもえっちなお誘いをしてくるようなら……。

 いや、きっとしないはず!

 でも、どうしてもって言われたら……。

 そ、その時考えよう!




「お待たせしました!」

「お帰り。何か食べ物注文する?」

「あ、あの、いつもありがとうございます! その、えっと、お、お礼と言っては何ですが……」

「……え、これって」

「マフラーです! どうぞ!」

「……僕に?」

「はい! 寒い季節ですし、少しでも暖かくなればって思って……。蒲さん?」




 金ズルでいいと思っていた。

 頑張ってるきーちゃんさんを応援できれば、それでいいって。

 なのに何で?

 手編みじゃないかこれ。

 何でこんな素敵なものを?

 わ、やばい。

 気持ちがコントロールできない……。




「うぐ……、へぐ……」

「か、蒲さん!? どうして泣いているんですか!?」

「ゔ、ゔれじぐで……!」

「えっ!?」

「ぼぐ、おぎゃぐだがら、ぎーぢゃんざん、いやでもあいで、じなぐぢゃいげなぐで……」

「そ、そんな事ないですよ! 蒲さん、優しいから……」

「なのにおれいだなんで、ゔれじぐで……!」

「……!」




 ずっと蒲さんが低姿勢だった理由はこれだったんだ。

 自分が嫌われてるんじゃないか、迷惑なんじゃないかって気にし続けて……。

 それなのに私のために来続けてくれたんだ……。

 嬉しい……!




「蒲さん。お水どうぞ」

「……すみません、取り乱して……」

「あの、私、四月からこの街で就職が決まってるんです」

「そ、そうなんですか?」

「それで一人暮らしのお金を稼ぐために、ここで働いているんです」

「はぁ……」

「あの、なので、ここのお店では三月までなんですが……」

「……はい」

「四月からも一緒に飲みに行ったり、ご飯食べに行ったりしてくれますか?」

「……えぇっ!?」

「嫌ですか?」

「い、嫌なんて事は、その、全然! でも、その、僕なんかが……」

「お願いします。一人暮らし、新しい仕事、きっと辛くなる事もあると思うんです。そんな時、蒲さんとお話できたら、すごく助かるんです」

「……僕なんかで、いいんですか?」

「蒲さんじゃないと駄目なんです!」

「……あの、じゃあ、微力ながらお力になれたらと……」

「ありがとうございます!」




 白く冷たい正論の雪は、溶けて消えた。




 もう雪に全てを隠してもらわなくてもいい。




 心に積もった雪が溶けて。



 遠慮がちな冷たさは去って。



 そして僕に。


 私に。


 一足早く春がやってきた。

読了ありがとうございます。


この作品はフィクションです。

実際の個人、お店、作者の経験とは関係ありません。


これでよし。


さて、恒例の登場人物の名前です。

撫桔なできつ梗子きょうこは最初に花魁草という花から作ろうと思いましたが、草夾竹桃くさきょうちくとうという物騒な名前にぶち当たり、海外では同様にフロックスと呼ばれている桔梗撫子ききょうなでしこを入れ替えてみました。

まんま撫子なでしこは、某すあま大好きハーレムに超素敵な子がいるので避けました。大ファンだからね。仕方ないね。

ちなみに桔梗撫子の花言葉は『合意』『全員一致』『温和』『協調』『あなたの気に入れば幸せ』『あなたに同意』『あなたの望みを受けます』。

……悪い男に引っかからなくて良かったね梗子!


かば公英きみひでは、梗子の流れから花から作ろうと決め、蒲公英たんぽぽから作りました。

どこにでも咲きそうな平凡さと強さ、そして花言葉が『愛の信託』『真心の愛』が合うと思ったからであり、手抜きではない、いいね?


元々書きたいと思っていた内容が、『雪のアオハル』と聞いてばっちり合致しました。

もう少しややこしくしようかとも思ったのですが、アオハルだし、こんなライトな感じでもいいですよね?


柴野いずみ様、素晴らしい企画をありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 雪のアオハル企画から来ました。 蒲さんに春が来てよかったですね。 いや、春が来たのは2人になのか? どちらにせよ、幸せならokですね。
[良い点] なるほど、ハールズバーを卒業後にお付き合いをするんですね。 おふたりの今後が楽しみです。
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