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視界は雪に埋め尽くされて

梗子きょうこ視点になります。

頻繁に通う公英きみひでに何かお返しをと考えているようですが……?


どうぞお楽しみください。

 あぁ、今日もかばさん来てくれた!

 会うたびにお菓子とか、雑貨屋さんで見つけたっていう可愛いキーホルダーとかをプレゼントしてくれる。

 話も合うし、お酒もいっぱい飲んでくれるし、色々気を遣ってくれるし、優しい……!

 私は長女で下に三人いるから、いつもしっかり者を期待されていた。

 でも蒲さんの前なら何と言うか自然体でいられる気がする。

 ……お金もらっててこんな事思ってちゃ駄目かな?

 ううん、厚意は素直に受け取ろう。

 そして私も……。


「きーちゃん、お疲れ様。中で少し休憩して」

「はーい」


 ママさんに言われて私はバックヤードに入る。

 休憩なら、今のうちに進めておこうかな。

 荷物の中から、編み棒と毛糸を取り出す。

 今のペースなら来週くらいには渡せそう……。


「あら梗子きょうこちゃん、編み物?」

「あ、はい」

「へぇ、素敵ねぇ。今時の若い子はそういうのあんまりしないと思っていたわ」

「えー、そうですか?」


 確かに大学の同級生ではやってる人見ないかな。

 その分レアって事だから、喜んでもらえるかも。


「それって誰かへのプレゼント?」

「はい!」

「まぁ素敵! あ、もしかして彼氏さん?」

「いえ、蒲さんに」

「え……」


 ママさんの顔色が変わった。

 な、何かまずい事言ったかな私……。


「……梗子ちゃん、それはやめた方がいいわ」

「え、な、何でですか?」

「ここはガールズバーで、蒲さんはお客さんだからよ」

「え、え?」


 何でそれでプレゼントしちゃいけないのかわからない!

 ママさんは悲しそうに溜息をつくと、私の肩に手を置いた。


「いい? 男の人はガールズバーに、擬似的な恋愛を求めてくる人がほとんどなの。女の子に奢って、喜ばれて、良い気分に浸る、それがガールズバーなの」

「……はい」

「そこであまりにも女の子が好意を見せちゃうと、男の人は勘違いをするの。『この子は本当に自分の事が好きなんじゃないか』ってね」

「……え」

「そうしたら大変よ。馴れ馴れしくなったり、身体の関係を迫ってきたり、ストーカー化する事だってある。悲しいけど男って、一皮剥けばけだものなんだから」

「……!」


 蒲さんが、そんな風になるなんて、想像もできない。

 優しくて、暖かくて、いつも気遣ってくれる人……。

 でもそれって、私の身体目当てなのかな……。

 優しくしてれば騙せると思われているのかな……。


「初めてついてくれたお客さんで、しかもこれだけ頻繁に通ってくれる人はなかなかいないから、嬉しくなるのもお返ししたくなるのもわかるわ」

「……」

「でも一人のお客さんに入れ込んじゃ駄目よ。仕事って割り切るといいわ」

「……はい」

「……今日はお客さんも少ないし、もう上がっていいわ。お疲れ様」

「ありがとう、ございます……」


 熱が出た時のように、頭の中がぐらぐらする。

 どうしてだろう。

 何でこんなにショックを受けてるんだろう。

 ママさんの言葉はきっと正しい。

 他のお客さんがしつこく飲みに誘ったり、普通ならセクハラになるような会話をしているのも聞いている。

 でも、蒲さんは違うと思っていた。

 特別なんだと思っていた。

 それは間違っていたのかな。

 私が素人だから騙されたのかな。

 雪だるまを作ろうと雪を転がしていたら、いつのまにか土が混じって茶色くなってしまった時のようながっかりした気持ちが私を包む。


「きーちゃん、もう上がるのー?」

「……あ、はい……」


 のろのろと着替え終わったところにあやかさんが顔を出してくれた。

 それだけでちょっと泣きそうになるのを堪える。

 ……あやかさんは蒲さんの事、どう思うのかな……。


「あの、あやかさん。蒲さんの事、どう思います……?」

「……そうねぇ……。彼女いた経験ゼロの童貞?」

「ぶっ!」


 な、何て事を!

 ……わかる気もするけど……。


「んで、きーちゃんに優しくされて、舞い上がってる感じ。あれは下手に隙見せると暴走するね、多分」

「そう、ですか……」


 ……あやかさんもそう思うんだ。

 やっぱり何もしない方がいいのかな。


「で、きーちゃんは蒲さんの事好きなのー?」

「えっ!?」


 な、何で急にそんな事!?

 き、嫌いじゃないし、むしろ好きだけど、でもそれって人としてというか、彼女になりたいとかとは別な感じで……!


「……ま、好きじゃないなら、適当なところであしらうといいよー。あーゆー人は中途半端に惚れさせると面倒な事になるからねー」

「えっと、その……」

「面倒な事になりそうだったら相談乗るからさ。今日のところは家でゆっくりしなよ」

「は、はい……。お先に失礼します……」


 促されてお店を出る。

 肌を刺すような冷たさ。

 でも空は雲ひとつなく、月と星が輝いている。

 雪が降ったらいいのに。

 何もかも見えなくなるくらいに積もってくれたら。

 どんなに雪を転がしても汚れが付かないで、真っ白な雪だるまが作れるくらいに。

読了ありがとうございます。


行き違う二人の気持ち。

果たしてその行方は……?


次話もよろしくお願いいたします。

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