君が寒そうにしていたから
柴野いずみ様主催『雪のアオハル企画』参加作品です。
夜のお店の話ですが、安心してください。衣谷強ですよ。
どうぞお楽しみください。
十二月。
街はどこもかしこもメリークリスマス。
少し早めに行われた職場の忘年会では、デートの予定だの子どもへのプレゼントだので大盛り上がりだった。
しかし生まれてこの方三十五年、女性とお付き合いなんてした事のない僕には、ただただ遠い世界のお話だ。
「……あぁ、寒ぃ……」
店を出て外気に触れて思わず口から出たのは、身体の事なのか、それとも……。
……思ったよりも酔いが回っているらしい。
こういう日は、とっとと家に帰って猫の動画でも観るに限る。
「えー? 蒲帰るのかよー」
「すみません。随分酔っちゃったんで」
二次会に行く組からの誘いをやんわり断り、帰宅組と合流して電車に乗った。
「じゃあお疲れ様でした。また来週」
「蒲君も気をつけてねー」
自宅の最寄駅で降りるのは僕一人。
電車に残る同僚達に別れを告げて、ホームから改札へと降りる。
駅前広場に出た僕の目に、異様なものが飛び込んできた。
「が、ガールズバー、いかが、ですか……? が、ガールズバー、でーす……」
ガールズバーの客引き。
それ自体は珍しくもない。
異様なのは、肩出しミニスカートの格好で、震える声で道行く人に声をかけている事だ。
まるでマッチ売りの少女かのような光景。
こういうのってベンチコートみたいなの着せるんじゃないのか?
「あの、寒そうですね……」
「へ? あ、はい……」
あまりにも可哀想になり、つい声をかけてしまった。
女の子は青白い顔をして震えている。
「……あの、もし僕がお店に行くって言ったら、君はお店に戻れるの?」
「え、あ、はい、あの、指名してもらえれば……」
「……じゃあ、その、お願いします……」
「あ、ありがとうございます!」
女の子が震える手で携帯を取り出して、お店に連絡している。
……その様子を見ていると不安が込み上げてきた。
ガールズバーってどんなお店だろう?
女の子をこんな格好で外に出すって事は、危険な店なのかもしれない……。
ビール一杯で一万円とか取られたりするのかな……。
あまりにも見ていられなくて声をかけてしまったけど、失敗だったかも……。
「あ、あの、お店と、れ、連絡できましたので、い、行きましょう!」
「あ、うん」
でもこんなに震えてる女の子を、今更見捨てて帰るのも寝覚めが悪い。
極力飲まないようにして、帰ろう……。
読了ありがとうございます。
この話は男女入れ替えで進みます。
次話は女の子視点で書いております。
次話もよろしくお願いいたします。