ゴブリンズと進化した個体
翌日、昨日のうちに準備を整えた俺は『ゴブリンエンプレスの巣』へと向かう。
防具は修繕だけで特に変えていないが、新しく作った物がある。
作った物は鉄球。
もちろんこの鉄球も魔鉄製だ。
なんでこの鉄球を作ったのかというと、ワイルドディアやハングリーベアのように【危機感知】のスキルを持っているモンスターを遠距離から倒せるようになるためだ。
なぜ鉄球なのかというと、【危機感知】を持っているモンスターには俺の魔法は避けられる。
以前にも魔法をワイルドディアに放ったが、知力が上がっても威力が上がるだけで特に魔法自体の早さが上がるわけではないため避けられてしまった。
ハングリーベアの時も近距離から両手鎌で首を狙ったが避けられてしまった。
だが、この鉄球を使えば話は別だ。
自分で投げる早さを変えられるから、俺の全力の攻撃は避けられなかったワイルドディアやハングリーベアのように【危機感知】のスキルを持っているモンスターに全力で投げれば遠距離から倒せるって思ったからこの鉄球は作った。
それに、この鉄球は指と指の間に挟める程度の大きさにしているから最大3つまで同時に投げることができる。
投げ物と言ったらナイフも思い付いたのだが、ナイフだとどうしても一撃で確実に殺すには急所を狙う必要がある。
しかし、俺は【投擲】のスキルを持っていないからナイフを投げるのは難しい。
でも、鉄球なら俺が投げれば大抵のモンスターは倒せるだろう。
当たればだけど。
まあ、それに関しては後で【投擲】のスキルがあったはずだからそれを取得しておこう。
そんなことを考えながら飛んでいると、ようやく目的地が見えた。
俺は飛ぶ速度を少し緩めてゆっくりと降りていく。
「やっぱり、なんか嫌な感じがするな」
『ゴブリンエンプレスの巣』の前に着地した俺は、そう呟く。
改めてしっかり見続けると『ゴブリンエンプレスの巣』からは、なんとも言えない嫌な雰囲気を感じる。
まあ、ダンジョンだし、そんな感じの雰囲気なのは当たり前なんだけど、そういう雰囲気じゃないんだよな。
「……とりあえず入ってみるか」
嫌な予感はするが、ここまで来て入らないわけにもいかないので俺は『ゴブリンエンプレスの巣』の中に入っていく。
「……やっぱり出入口は2つあるのか……」
『ゴブリンエンプレスの巣』に入ってから自分が入ってきた出入口を見ると俺が入ってきた出入口だけでなく、もう1つ出入口があった。
『ゴブリンキングの巣』と同じなら俺が入ってきた方じゃない出入口は異世界に続いているだろう。
結局1回も異世界にオレは行っていないが、まあ『ゴブリンキングの巣』から変わってないのだったら異世界に続いているだろうからいつか行く機会もあるか。
「にしても、結構広いな」
『ゴブリンキングの巣』よりもかなり広そうだ。
洞窟っぽいのは変わってないが『ゴブリンキングの巣』の時よりは全体的に大きくなってると思う。
俺は気を取り直して探索を始めることにした。
もしかしたら『ゴブリンキングの巣』の時はなかったが今の『ゴブリンエンプレスの巣』なら罠があるかもしれないから【気配感知】だけでなく、【看破の魔眼】を使う。
だが、罠の類は確認できない。
「よし!じゃあ進むぞ!」
俺は気合いを入れて奥に進む。
しばらく歩いていると、ゴブリンが数体現れた。
ゴブリン達は俺の姿を確認すると、一斉に襲ってきた。
その瞬間、俺は鉄球をゴブリン達に投げつける。
鉄球は見事に先頭のゴブリンの頭に直撃し、そのまま後ろのゴブリン達を巻き込んで吹っ飛んでいく。
そして、俺が投げた鉄球の勢いは止まらず、そのまま壁に激突する。
激突した壁からは土煙を上げて、その衝撃がこちらにまで伝わってくる。
どうやら鉄球の威力が強すぎたようだ。
「や、やり過ぎたかな?」
流石にあれだけ強く投げるつもりはなかったんだが……
まあ、ゴブリンも纏めて倒せたから結果オーライということでいいか。
でも……
「使えるなこれ……」
まだ、【投擲】スキルを取得できてなかったから力任せの投擲しかできなかったけど結構うまくゴブリン達を巻き込んでくれたな。
それに、威力が強い分制御が難しいから使い所を選ぶ必要はあると思う。
ただ、これはこれで使い勝手の良い武器だな。
まあとりあえず【投擲】スキルを取得してっと。
よし。
「次に行くか」
俺は更に先に進んでいく。
それから何度かゴブリンと遭遇するも、全て鉄球で一蹴していく。
その全てを一撃で吹き飛ばし、鉄球は回収して【吸魂】している。
まあ、全部経験値がほとんどあってないような物だったけど。
そして、先ほどから【気配感知】がガンガン反応していて、しかもそれが俺が歩く度にどんどん近づいている。
恐らく俺が進む先で何かが起こっているのだろう。
俺は警戒しながらさらに奥へと進んでいった。
しばらく歩くと、【気配感知】が今までで一番の数、反応を示してきた。
この先には一体、何体のモンスターがいるのだろうか。
俺は【隠密】を使ってから【マップ】スキルを使って気配を感じる場所がどうなっているのか確認する。
すると、この先のモンスターの気配が感じられる場所は大部屋になっているらしい。
だけどなにかおかしいな?
気配が消えて行ってる?
まさか……いや、そんなはずはないよな。
ここに人が現れてモンスターを倒してるなんてないだろうし。
とにかく、この大部屋に行けば分かるだろう。
俺は両手鎌をいつでも使えるように構えて慎重に大部屋の中に入る。
そこには、予想通りモンスターがいた。
だが、それは全てゴブリン系統のモンスターで、俺が倒したことのあるモンスターばかりだった。
「どういうことだ?」
なぜこんなにゴブリン達が集まってるんだ?
ゴブリン系統しかいないのは前回の『ゴブリンキングの巣』の時もそうだったからなにも問題はない。
だが、なんで反応が消えていっているんだ?
【隠密】を使ったままだから気づかれる事はないし、【気配察知】を取得してる個体がいたとしても引っかからないはずだ。
きっと。
そして、大部屋に入るととんでもない光景が写りこんできた。
それは、ゴブリンの進化種が普通のゴブリンを殺している姿だった。
「なっ!?」
俺は思わず声を出してしまう。
だってそうだろ。
進化種とは言え、ゴブリンがゴブリンを殺してるんだぞ。
同族を殺してるんだ。
そんなのあり得ないだろ。
「……とりあえず、もう少し様子を見るか」
俺は【隠密】を解除せず、ゴブリン達の様子を観察することにした。
「……なるほど。そういうことか」
俺はゴブリンの進化種が普通のゴブリンを殺している理由を理解した。
今、目の前の普通のゴブリンを殺したゴブリンナイトが進化した。
今まで見覚えのあったゴブリンナイトが身体が一回り大きくなっている。
つまり、ゴブリンを倒すことで自身のレベルを上げて進化していっているのだ。
普通はゴブリンからゴブリンファイターに、ゴブリンからゴブリンナイトにという感じで他の進化種に進化していっている。
だが、今回はそこから更に上位のゴブリンの進化種へ進化してしまった。
更に、倒したゴブリンの魔石を食べているからステータスもハングリーベアと同じように上昇しているのだろう。
「……ん?」
俺はそこでゴブリン達が進化種のゴブリン達によって殺されていくのを見て違和感を覚えた。
「なんで進化種は殺し合いをしているんだ……?」
そう。
なぜかゴブリンの進化種はお互いを襲わず、ゴブリンだけを攻撃している。
だけど、ゴブリン達はそんな事お構いなしといった様子で次々と殺されている。
そして、全ての普通のゴブリンを倒した後、ゴブリンの進化種達は残った魔石を貪るように食べ始めた。
「うわぁ……」
正直見ていて気持ちのいいものではない。
そのせいか、つい声が出てしまった。
幸い、その音はゴブリン達には聞こえなかったようだから良かったけど。
まあ、もう観察の必要も無いしそろそろ行くか。
俺は【隠密】を解除せず両手鎌を使って先ずはゴブリンナイトが進化した……名前がわからなかった。
「【鑑定】」
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名前:なし
性別:♂
種族:ゴブリンアーマーナイトLv.2
体力:3680/3680 魔力:670/670
攻撃:2100
防御:3500
敏捷:1160
器用:960
知力:800
幸運:32
所持SP45
魔法スキル:なし
取得スキル:【剣術LV.5】【盾術LV.3】【防御強化LV.5】【物理攻撃耐性LV.1】
固有スキル:なし
称号:なし
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アーマーナイトか。
確か重騎士とかこんなだったかな?
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は【隠密】を発動したままゴブリンアーマーナイトに近づき、一気に加速して両手鎌を振る。
今はこれ以上強くならない内に倒すことが優先だ。
俺はそのまま両手鎌を振り、ゴブリンアーマーナイトの首を切り落とす。
俺に首をはねられたゴブリンアーマーナイトは魔石と盾を残して塵になって消えた。
すると他の進化したゴブリン達も異変に気づいたのかこちらに振り向いてくる。
だけど、既に遅い。
俺はゴブリンの進化種達の群れに突っ込む。
「【鑑定】」
まずは一番近くにいたゴブリンの進化種に【鑑定】をかける。
進化したのはゴブリンアーマーナイトだけじゃなくて、ゴブリンメイジやゴブリンアーチャーの進化種なんかもいるからな。
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名前:なし
性別:♂
種族:ゴブリンスナイパーLv.1
体力:1540/1540 魔力:1520/1520
攻撃:2450
防御:940
敏捷:2330
器用:3950
知力:1150
幸運:84
所持SP35
魔法スキル:なし
取得スキル:【弓術LV.4】【気配察知LV.1】【投擲LV.2】【遠視LV.3】【暗視LV.1】
固有スキル:なし
称号:なし
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名前:なし
性別:♂
種族:ゴブリンアークメイジLv.2
体力:1660/1690 魔力:2690/2690
攻撃:780
防御:504
敏捷:380
器用:1000
知力:5500
幸運:46
所持SP36
魔法スキル:【火魔法LV.8】【風魔法Lv.1】
取得スキル:【杖術LV.5】【詠唱短縮LV.6】【並列発動LV.1】
固有スキル:なし
称号:なし
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やっぱり進化する前と比べるとステータスが圧倒的に高い。
て言うかこいつらジェネラルクラスじゃねぇの?
確かにめちゃくちゃ魔石を食ってたからそれくらいあってもおかしくはないけどさ。
これを見るとジェネラルやキングクラスの奴らはどれぐらいのステータスになっているか想像もつかない。
まあ、でもそんなことよりもだ。
攻撃をしたことで【隠密】の効果が切れてしまった。
俺は仕方なくゴブリン達の前に姿を現す。
アーマーナイト、スナイパー、アークメイジの3種類しかいないが、それでもそれぞれがかなりの強さを秘めている。
ゴブリン達は俺の姿を確認すると、一斉に襲いかかってきた。
アーマーナイトは自分の身体を隠せる程の大盾を使ったシールドバッシュを横一列になって行い、俺の逃げ場を無くして突撃してくる。
スナイパーは移動しながら矢を放ってくる。
そして、アークメイジは各々が魔法を放とうとしていた。
「【ウインドアロー】!シッ!」
それを確認した俺は【ウインドアロー】で風の矢を放ち、鉄球をぶん投げる。
「「「「ギッ!?」」」」
風の矢を喰らったゴブリンアーマーナイト達が吹き飛び、同時に吹き飛んだ事で空いた隙間から通った鉄球が命中したゴブリンが壁まで吹き飛び爆散する。
俺はその隙をついて、今度は自分からゴブリン達に突っ込んでいく。
囲まれないように警戒しながら、ゴブリン達の間をすり抜けながら後ろへ回り込み、ゴブリンアークメイジに鎌を振り下ろす。
「さてと……やりますか」
俺はそう呟くと両手鎌を構えてゴブリン達に向かって駆け出したのだった。




