突然の退院と不穏な予感(3月31日改稿)
それは唐突だった。
俺はいつも通り入院している病室のベッドで目覚めた。
今日寝たのは日がだいぶ昇っていた時だ。
少なくとも入院してからはいつもより遅かったと自覚してる。
それでもいつも通り、6時頃に起きた。
そして感じた。
「うん? 動け………イダダダダダダッ!!!」
意味わからないぐらいの痛みを。
とにかくその痛みで事故の大怪我が更に酷くなったのかと感じた俺はなんとか枕元に置かれているナースコールを押す。
おかしい! 体力は全快していたはずなのに!
すると直ぐにナースさんが来てくれて俺は検査のためにベッドに乗せられた状態で運ばれていくのだった。
「ねぇ、空くん。僕はさ、すでに君には少し驚かされているんだよ? わかるかい?」
「え~っと何の事でしょうか………」
今の俺の現状を説明しよう。
現在検査を一通り受けさせられた俺は病室でベッドに寝かされている。
そして俺の担当医で、茶髪で清潔感のあるベリーショートにして白衣を着ている境真先生がベッドに寝かされている俺の事で説明したいと呼び出された保護者である俺の爺ちゃん、神山剛蔵に説明を始めた。
「はぁー、全く君は本当に僕を困らせてくれるね」
「いや、なんかすみません……」
「そ、そんなことより先生! 何か空に問題でもあったんですか!?」
なぜか大きなため息をついた境先生に爺ちゃんが俺になにかあったのかと心配して境先生に問いかける。
「いやいや、そういう事じゃないんですよ。まぁ端的に言ってしまえば空くんの体は健康そのものですよ」
境先生の言葉を聞いて、俺も爺ちゃんもポカンとする。
「え、でもさっきまで痛みがめちゃくちゃ凄かったんですよ?」
これは嘘ではない。
だいぶ痛みに慣れて喋れるようになってきたが体が痛いのは変わらない。
「そうですよ先生!! ワシが呼ばれたということは何かあったという事なんでしょう!」
爺ちゃんも納得いかないのか境先生に向かって叫びだす。
「まさに、そこなんですよ剛蔵さん」
「………は?」
爺ちゃんが境先生に指摘されたことで呆けたような表情を見せ、呆けた声が聞こえる。
「確かに空くんの体に何も異常がないんです。あってせいぜいその酷い筋肉痛くらいですかね」
「ど、どういう事ですか先生! 俺に異常がないって言うのはあり得ないでしょ!」
流石に俺も訳がわからず叫ぶ。
だってそうだろ?
あの激痛は明らかにおかしい。
それに俺は事故で大怪我をしていたけど昨日の進化の時に体力が回復していたから怪我は治っているはずなんだ。
それなのにどうして……
「はい。だから言ったでしょう。『君にはすでに驚いている』と。つまりそういう事だよ」
「…それはどういう事なんですか」
「………うん、それはだね。実は空くんの体の傷は全て完治しているんだよ」
「……………………?」
形だけでも首は傾げておかないとおかしいと思われてしまうから首を傾げておく。
「ふぅー……まさかここまでとは思わなかったけどね。君が入院してから死にかけていたはずの君が次の日にはもう目覚めていたり、喋れるくらいには回復していたりと君には驚かされた」
「そして次は昨日まで確かに負っていたあの大怪我が傷一つ無くなっていたんだから本当に驚かされたよ」
境先生はそう言いながら持ってきていたコーヒーを1口飲む。
……まあ、そりゃそうですよね。
昨日の進化かレベルアップのどちらが原因かわからないがそのおかげで体力は回復している。
そして境先生の言っていることを信じるのなら昨日まであったあの大怪我はしっかり全部治っていて今は筋肉痛が酷いだけという事だ。
この筋肉痛は夜にステータスが一気に上がったからか、それとも一気に体力が回復したからかのどちらかだろう。
「うむ、とりあえず空。お前が無事だったことは本当に良かったぞ」
「うん。意味がわからないけど治って良かったよ」
……ごめんなさい。
本当は全部わかってます……ごめん境先生、無駄に考えさせてしまって……
「………意味わからないのは僕が言いたいよ空くん」
「……へ?」
「君の今の状態ははっきり言って異常だ。確かに空君の怪我が治った事は大変喜ばしい。だが、昨日まで負っていた大怪我がいきなり治るなんて事はあり得ないんだ。これが知られたら空君、君を調べるために解剖しようなどという輩が現れるかもしれないんだ」
「………」
「だからこそ僕は君を守るためにこうして話しているんだ。そして剛蔵さんにもね」
境先生が真剣な目つきで俺と爺ちゃんを見つめてくる。
その様子に俺は何も言えなくなってしまった。
爺ちゃんも同じだったようで黙ってしまった。
確かに夜に俺の体力が全快した事で俺の大怪我は治ったのだろう。
だけどこれらは俺だから知っていることだ。
境先生も爺ちゃんもどっちも俺にレッサーレイスが統合されたことも俺がレイスに進化したこともステータスの事も知らない。
端からみたら俺は大怪我が僅か1日で回復する超常的な回復能力を持っているように見えてしまう。
「まぁでも安心してくれ。僕としては今回の件は公にしないし、君もあまり口外しないようにしてくれよ?」
「……分かりました。ありがとうございます」
俺がお礼を言うと境先生はニッコリ笑ってくれた。
「よし!じゃあそろそろ次の話をしようか!」
「……うん? 次の話?」
「まだ何かあるのですかな?」
「ええ。まあ、申し訳ないんですけど空くんには怪我が治ったってことで退院してもらいたいんです」
「……はい?」
「それはどういう……?」
境先生の言葉に思わず聞き返してしまう。
爺ちゃんも境先生の言葉に? マークを浮かべてしまっている。
いやいやちょっと待て!
確かに怪我は治ったが俺の体は先生の話を信じるのなら筋肉痛であるせいで本調子じゃないんだけど?
「いや、でも先生、俺はこの通り体が痛くてまともに動けませんよ?」
「ああ、大丈夫だよ。さっきも言った通り酷い筋肉痛だからそのうち動けるようになるはずだよ」
「はい?」
「ふむ……なるほど……」
なぜか爺ちゃんがその境先生の言い分を信じてしまい頷いている。
「爺ちゃん!? 納得しちゃうの!?」
今のやり取りで爺ちゃんが先生の言うことは絶対!みたいな考えを持ってる可能性が出てきたな……
「でも、境先生。いきなり退院ってどういう事ですか? 普通は退院するってなってからも何日か猶予があるんじゃないんですか?」
実際治ったからってこの扱いはおかしいだろう。
俺に何も問題が無いとしても退院する時普通は何日か前に伝えておくものだろ?
なんでこんな急に退院なんて……
「うん、普通はそうなんだけどね……空くんは楽泉山の事は知ってるよね?」
「まあ、それはもちろん。すぐそこの山ですし、よく登山客が来てますし森のキャンプ地に人をよく見ますしね」
楽泉山とはここから病院から歩いておよそ10分ぐらいで俺の家からはまあまあの距離がある山だ。
その麓の森にはキャンプ場があって夏になると多くの観光客がキャンプをしに来るのだ。
俺もよく子供の頃は親父に連れられて行ったことがある。
爺ちゃんも若い頃はよく行ってたらしい。
「それがね、実はあの山に少し厄介なことが起きていてね。最近、登山客やキャンプ場に来て森に入った人達が怪我をして運ばれてくる事が多くなっているんだ」
「え? そんなことになっているんですか?」
俺が知る限りあの山と森はそこまで危険なところではない。それに今の時期ならそんなに人が多くないはずなんだけど……
だからそんなに怪我人が増えるなんてことはないと思うけどな……
「うん、本来ならあり得ないことだ。しかし実際に怪我人は増えているんだ。しかも怪我した人は地面に掘られていた穴や、草が結んであって転んで崖に落ちてしまったり、木に頭を打ってしまう人が多いんだ」
なるほど……原因が穴や結んである草なら人為的な事件ってことだよな……
「……警察の人達は調べていないんですか?」
「察しがいいね。それで警察の人達も調べていて分かったらしいんだけど、どうやら誰かが意図的に事故を起こしているみたいなんだよ」
「……まじすか」
……正直信じられない。
だが、境先生は入院してからの付き合いだがそんな短い間でもこんな時に嘘をつくような人間ではないだろうと思う。
「まあ、まだ詳しいことはわかってないらしいんだけどね」
「随分物騒ですな………まあ、そういうことなら仕方がないでしょう。空、動けるか?」
「う、うん。多分動けると思うよ」
「ごめんね空くんこっちの都合なのに『境先生! 急患です!』おっと」
突然病室の扉が開き、看護師さんらしき女性が慌てて入ってきた。
「わかった! すぐに行くよ!……というわけで僕達はもう行かないといけなくなったからこれで失礼するよ。あっ空くん、定期的に病院には検査しに来てね。なにかあってからじゃ遅いから」
そう言って境先生と看護師さんの二人は急いで部屋から出ていった。
「……」
「……」
呆然としてしまったがとにかく今は。
「………帰る準備始めるね」
「………うむ。手伝うぞ……」
退院の準備をしようか………