疑問と確信
「おっ?」
あれから【マップ】と【気配感知】のコンボでゴブリンに不意打ちしながら順調に進んでいたら、五階層まで降りる階段を見つけることが出来た。
だけど、四階層から五階層へ行くための階段を降りたら何かおかしな動きをしてるモンスターの反応を【気配感知】が捉える。
その気配はいつも通りゴブリンアーマーナイトクラスで、十体はいるようだ。
その十体の気配は一体を中心に少し空間を開けてその一体を囲むようにしてゴブリンアーマーナイトクラスの俊敏のステータスにしては、あり得ないぐらいゆっくり、ゆっくりと今俺がいる階段の方へと向かってきていた。
……う~ん……なんだ?この行動は?
気にはなるど……なんにせよここは隠れて様子を見るか。
数が多いし、戦わないで済むんだったらそれで良い。
だけど、戦うことになったら少しでも頭数を先に不意打ちでもして減らしたいから今回は隠れておいて損はない。
俺は急いで階段の近くから移動して、ゴブリンアーマーナイト達から見えないだろうと思える近くの通路の曲がり角の陰に隠れて様子を伺う。
あ、ついでに【隠密】も発動しておいてな。
その状態で暫く待っていたら、モンスターの気配を感じた方向からゴブリンアーマーナイト達の足音が聞こえてきた。
【気配感知】からもあのゴブリンアーマーナイト達がさっき【気配感知】で捉えた十体だとわかる。
……あれ?
遠目に見えるゴブリンアーマーナイト達の様子に俺は違和感を覚えた。
ゴブリンアーマーナイト達は一体を少し空間を開けて囲むようにして歩いている。
一見、その囲んでいる一体を守るために群れで守っているように見えるが、俺にはその少しの空間というのが不自然に見えた。
「……」
俺は更に目を凝らす。
すると、ゴブリンアーマナイト達が囲んでいたその一体の姿と何か分からなかった少しの空間の正体がわかった。
中心にいたのはゴブリンスナイパー、これは良い。
ゴブリンスナイパーだったら狙われてもその場で弓による遠距離攻撃が出来るし、近接は弱いだろうから囲まれて守られてるのもわかる。
それに、確か【遠視】のスキルもあったし、敵を警戒するために見回すにはちょうど良いだろう。
問題なのはその少しの空間。
そこには木製のリヤカーのような物に木箱が四つ積まれていた。
そして、そのリヤカーのような物を、ゴブリングラップラーが引いて運んでいる。
なるほどな……変に少し空間があったのはあのリヤカーに積まれた四つの木箱があったからか。
中身も気配を感じないから無機物だろうけど……うんそうだよな無機物に気配も糞もないもんな。
そりゃ少しの空間ぐらい空くわ。
そう納得した俺はもう一度ゴブリンアーマーナイト達を見る。
大分目を凝らさなくても見えるような距離になってきた。
ゴブリンアーマーナイト達は相変わらずゴブリンスナイパーを中心に、少し空間を空けて囲むように歩いており、ゴブリンアーマーナイト達は周囲を警戒しているように見える。
さて……どうするかな……
ばれてないし、このままやり過ごしても良いんだけど、ゴブリンアーマーナイト達があんなに集まって守っている木箱の中身がなんなのかも気になって仕方がない。
……よし!やろう!
俺はそう決めると、すぐに行動に移る。
まずは隠れたまま床に座り込んで壁に背中を預けて幽体離脱(仮)をする。
そして、幽体離脱(仮)の状態でゴブリンアーマーナイト達に気付かれないよう魔力を抑えて近付いていく。
だから魔力を使う【飛翔】も使わない。
ゴブリンアーマーナイト達の数が多いから、できるだけ不意打ちで数を減らしたいし。
でも、そのおかげもあってゴブリンアーマーナイト達は俺が目の前を通っても、横を通っても、近づいても、全く反応しない。
そのおかげで俺はゴブリンアーマーナイト達をすり抜け、背後に回ることに成功した。
不意打ちだけど……内訳としてはゴブリンアーマーナイトが三体にゴブリングラップラーが二体、ゴブリンスナイパーが二体、ゴブリンアークメイジが三体といった感じだから狙うのは装備の事も考えてゴブリンアーマーナイト三体からだな。
ゆっくりゆっくりと動いているゴブリンアーマーナイトの背後に回って、【並列思考】と【無詠唱】、を同時に使用して三つの【ウインドカッター】を発動させる。
俺が発動させた【ウインドカッター】は狙い通り反応もできなかったゴブリンアーマーナイトの首筋に直撃してゴブリンアーマーナイトの生首を三つ作り出す。
そして、ついでに魔力を使ったからゴブリンアークメイジに俺の正確な位置がばれた。
まだ、混乱してて俺の正確な位置がわかってないゴブリンスナイパーかゴブリングラップラーをついでに殺って行けそうだったけど、ゴブリンアークメイジが詠唱してるのが見えたから無理せずに自分の身体に【飛翔】スキルを使って全速力で戻る。
そして身体に戻ったらすぐさま立ち上がって隠れていた通路から出て、残っているゴブリングラップラー達の方へと向かう。
姿を表した俺を確認した囲まれていない方のゴブリンスナイパーは弓を構えて矢を三本同時に放ってきた。
もう一体からも矢が飛んでくるかな?と考えていたら、リヤカーからゴブリングラップラー抜けているのが見える。
どうやら立ち位置から考えるにゴブリングラップラーが囲まれてる方のゴブリンスナイパーの射線を切っているようだ。
まあ、俺からしたら好都合だな。
俺はそれを確認しながら、両手鎌を使って、三本の矢を弾きながら一気に距離を詰める。
そして、近づく俺にゴブリングラップラー二体がメリケンサックを構えて殴りかかってきたから、【並列思考】と【無詠唱】で【ウインドアロー】を二本撃ち出して、ゴブリングラップラー達に撃ち出す。
ゴブリングラップラー達はそれぞれジャンプしたり、しゃがみ込んで避けるなどして【ウインドアロー】を避けるけど、それは織り込み済みだ。
俺はその隙に接近した勢いのままゴブリングラップラー達を両断した。
もちろんゴブリングラップラー達も【柔術】を使って両手鎌の軌道を逸らそうとしていたけど、ジャンプしたゴブリングラップラーは宙に浮いてるからうまく軌道をずらせず、しゃがみ込んだゴブリングラップラーはそもそもしゃがんでいるから充分に自分の身体をが使えず、動けていない。
そんな状態じゃあ、いくらゴブリングラップラー達がレベルが高くても意味はなかったみたいで俺が振った両手鎌にあっさり真っ二つに両断された。
そしたら残りは矢は両手鎌で弾かれるゴブリンスナイパーと使った魔法は俺の【無詠唱】の魔法で迎撃されるゴブリンアークメイジだけなわけで、俺の近接戦闘にゴブリンスナイパーとゴブリンアークメイジが対応できるわけがない。
だから後は簡単な作業で終わる。
最初に、ゴブリンスナイパー達が放つ矢を避けて首を切り裂き、ゴブリンアークメイジ達は詠唱してる隙に三つ鉄球を投げて頭を潰す。
……ちょっとばかりゴブリンアークメイジ達が言葉にできないような状態になってしまったけど……具体的に言えばR-18Gな状態に……
うん、まぁ大丈夫だろう。
『種族レベルが上がりました。ハイヒューマン……
・
・
・
……よし、レベルアップの音声も聞こえてきたし、ここにいたゴブリン達が全員塵になって消えたから生きているってこともないはずだ。
多分これで大丈夫だろ。
辺りに他のゴブリン達の気配もないし……
戦闘終了!ってことで良いだろう。
それにしても、ゴブリンアーマーナイト達は何を運んでたんだ?
木箱だから中身はまだ確認できてないんだけど。
俺はそう思いながらも、ゴブリンアーマーナイト達がいた所まで戻って、木箱の上蓋を開けて中身を確認する。
木箱を開けると、俺の目に飛び込んできたのは、鞘に入った大量の片手剣。
……なんだこれ……まさか……
俺は残りの木箱も開けて中身を確認していく。
すると、俺の予想通り、木箱の中身は全て同じ様な感じの片手剣が入っていた。
こんな大量に何に使うつもりだよ……
俺がそう思うくらい、木箱の中にはぎっしりと片手剣が詰まっていた。
しかも、よく見るとかなり品質が良い。
……あれ?これはもしかして、もしかしなくても……
「……【鑑定】」
とりあえず片手剣を一本、一本【鑑定】していく。
『鋼鉄の片手剣』(A)
『鋼鉄の片手剣』(B+)
『鋼鉄の片手剣』(B)
『鋼鉄の片手剣』(A)
『鋼鉄の片手剣』(B)
やっぱりか……
数が多かったから品質と名前、製作者名だけ流し読みしていったけど、この木箱の中身の殆どが高品質の鋼鉄の片手剣だった。
それもゴブリンアーマナイトみたいに調整されたわけではなさそうだけど、それでも普通の人が使うには柄が短すぎる。
それに、製作者もゴブリンという字は一切なく、全て人の名前だった。
それも全てが高品質。
さらに、これを運んできていたゴブリン達も俺が来た階段から五階層に来たんじゃなくて、逆に五階層から四階層に行こうとしていた。
ここまで条件が揃っていたら俺でもわかる。
……間違いなく拐われたドワーフの職人達はこの『ゴブリンエンプレスの巣』にいる。