初めての誕生日
それから約1年が過ぎた。
「今日はリゼの誕生日ね!お店が終わったらお祝いしなきゃ!」
「そうだな!腕によりをかけてごちそうを作るぞ!」
…あ、今日は私の誕生日、なんだ。この世界に来てから、もう1年経ったんだ。
なんか変な感じだなぁ。
最初はこの世界にすごく戸惑ってたけど、今はもう馴染んじゃった。
やっぱり私って、適応能力的なの持ってるよね?
そういえば、お母さんとお父さんは、何で今日が私の誕生日だってわかったんだろ?
カレンダーとかも見たことないのに。
私でも全然覚えてなかったよ。
…まぁいいや。
それより、ごちそうって何だろう?!すんごく気になる!どんな料理が出るのかな??
もしかしてステーキとか?!
この世界に来てから1回もお肉を食べたことがなかったから楽しみすぎる!!
あぁ、早くお店終われ~!!
やっとお店が終わり、夜ご飯の時間になった。
うふふん、すっごい楽しみ!
「うきゃあ!」
「ふふ、リゼったら。誕生日がよほど嬉しいのかしら?」
「まだ1歳なのにもう誕生日が理解できるなんてすごいな! この子は天才なんじゃないか?」
…いや、誕生日が嬉しいんじゃなくて、ごちそうが嬉しいんです。
…天才じゃないです。 元は17歳だったからです。
お母さんが料理の器を持ってこっちに来た。
「リゼ!1歳の誕生日おめでとう!!」
おっ!料理来た!どれどれ~?
私が、お母さんの持ってきた器の中を見ると、そこには卵がいっぱいのいつもの離乳食が入っていた。
「リゼの好きな卵をたくさん入れたのよ!いっぱい食べてね。」
……そっか。私、まだ赤ちゃんじゃん。1歳児じゃん。
ステーキなんて、まだ食べれないじゃん。
…私のバカバカ!! つい元の世界の誕生日パーティー気分になってたよ!大きくならなきゃステーキなんて食べられないじゃない!
はぁ…元の世界に戻りたくなってきちゃったよ。
期待してた私がバカだった。
「どうしたんだリゼ? まさか、体調が悪いのか?」
…あ、顔に出ちゃってたみたい。
うぅ…悲しいけど、食べるしかないか。卵だって好きだし…もぐもぐ…
「よし!リゼも食べ終わったみたいだし、プレゼントを渡すか?」
ん?プレゼント?!見たい見たい!!
「そうね!どんな反応してくれるかしら?」
多分、よっぽど変な物じゃなければ、どんな物でも喜ぶよ。だから早くちょうだい!
「リゼ、お誕生日おめでとう。 …これ、プレゼントにクマのぬいぐるみを作ったんだ。」
そう言って、お父さんが私の手にクマのぬいぐるみを握らせた。
クマのぬいぐるみか。可愛い! 私、元の世界ではぬいぐるみ愛してたからね。
「私が顔の部分を作って、イアンが胴体の部分を作ったのよ」
…そうなんだ。これ、2人が私のために一生懸命作ってくれたんだ。
そういえば、最近2人が夜遅くまで机に向かって縫い物をしてたことが多かったっけ。
あれは私のためだったんだ。嬉しいな…
私は感謝の気持ちを込めて、2人に笑顔を向けた。
「イアン!見た?! リゼが、笑ったわ!」
「ちゃんと見てたさ! ぬいぐるみを気に入ってくれたみたいでよかった」
2人が幸せそうに話しているのをみて、私も幸せな気持ちになってくる。
まだ言葉が話せないから、ありがとうって言えないのがもどかしいなぁ…
そんなことを思っていたら、だんだん眠くなってきた。
「あらあらリゼ、いっぱい喜んで疲れちゃったのね。おやすみなさい。」
「おやすみ、リゼ。リゼは俺たちの宝物だよ」
…2人も、私の宝物だよ。私のこと、1年間大事に育ててくれてありがとう。
これからも一緒にいたいな。
…しかし、その願いは5年後、打ち砕かれることになった。
今日はリゼの初めての誕生日パーティーが舞台です。
リゼはごちそうを凄く楽しみにしていましたが…
まだまだ赤ちゃんなので食べれませんでした。
でも、両親から素敵なプレゼントをもらって大満足したリゼ。
この世界に来て初めて、幸せな気持ちになった日になりました。
これからもずっと一緒にいたいと願うリゼでしたが…
5年後、最大の悪夢を引き起こしてしまうことになります。