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だいたい一年後です。



[セーラ]


 明日は、友達と遊びにいく。友達と言ってもイーライ様以外にいないから、イーライ様と遊ぶ。

 しかもなんと、街で評判のお菓子を食べ歩きして、素敵な歌劇を見て、最近流行りのサンドイッチ専門店で感想を言い合うのだ。


 こんなスタイリッシュな遊び、私は初めてである。

 乗馬とか、トランプとかは、もう古いのかな。


「ねえ、お姉さま。似合う?」

「襟をとったほうがいいんじゃない? ま、似合っているけど」

「そっかあ、じゃあとる」

「ちょっと、明日はネックレスをつけていくのよ。白い襟があった方が映えるじゃない」

「あら、お母様の感性はお古くていらっしゃるのね、最近はたかが遊びにアクセサリーはつけていかないわ」

「男性と外出するのよ、遊びじゃなくてデートだわ。しかも伯爵家の嫡男様。しっかり身なりを整えて行かなくては」

「あのねえ、あんまりごてごてしていくと相手も引くわよ? もっと落ち着いて、いかにも「意識していません」を装った格好にしなくちゃ」

「そんなに奥手では、あちらからも意識されないまま終わっちゃうわ」

「ちょっと二人とも!」


 お姉さまとお母様はあまり仲良くない。でも、仲が悪くもないのだから家族って不思議だ。


「ことわっておくけど、私とイーライ様は、なんでもないから。本当に、ただの友達だから」


 そうじゃないと、私には友達がひとりもいなくなる。


「あらそう?」

「そうなの?」

「前日からこんなに気合いを入れて準備をしているのに」

「どこのお菓子店がおいしいか、一生懸命探してたのに」

「「ねえ?」」


 同じ角度で首を傾げる親子をじとりとみて、鏡を見る。


「うーん、やっぱりアクセサリーをつけていく必要はないかな」


 襟が付いていないワンピースに着替える。

 くるりとターンすると、裾がふわりと舞い上がって細かなレースの模様が綺麗だ。


 でも、なにか物足りない。

 なんでだろう、いつもならこれで良いと思うのに、もうちょっとなにか欲しい。質素で、よく言えば慎ましい、悪くいえば地味。


「…髪飾りはつけないの?」

「サリィはきれいな黒髪なんだから、纏めないともったいないわよ」

「垂らしているとだらけて見えるし」

「いい髪飾りあったかしら」

「これなんてどうです?」

「ちょっと大きすぎない?」

「うーん」

「こっちはどうかしら!」

「良いじゃないですか」


 何もいっていないのに、私の不満を感じ取った2人が準備をしていく。


 髪の毛を一部だけ編み込んで、白い髪飾りをつける。


「まあ、きれい!」

「いいわね」

「…わあ」


 二人とも満足そうだ。

 鏡の中の私も、頬を赤く染めてこちらを見つめている。


 髪飾りはワンポイントだけなのに、髪型でここまで印象が変わるものなんだ。

 今まで以上に明日が楽しみになった。

 時計をちらりとみると、もう九時を過ぎている。お風呂に入る時間だ。


「あの、お姉さま、お母様、ありがとうございました。お土産買ってきますね」

「ふふ。寝坊するといけないから、先に入ってきなさい」

「そうそう。ちゃんと髪をとかしてから乾かすのよ」


 優しいや、私の家族。自慢である。





 そんなこんなでいつもよりだいぶ早い時間に布団に入った。


 明日、たのしみだな。どんな感じかな。お菓子はシュークリームにしよう。それと、お母様にはマカロンがいいかも。お姉さまも、マカロン好きだけどあの二人同じ物を買っていくと機嫌が悪くなるからな。何が良いかな。イーライ様にも相談して…。


 違う違う、王子だ。王子のことだ。すっかり忘れるところだった。

 いや、ちゃんとどうすればいいのか考えている。

 王子を再教育すればよいのだ。有能になるように。まあ今の時点で有能らしいけど、それじゃ多分何かが足りない。これがプランB。

 それ以外にも考えはある。

 公爵を国から追い出せばいい。プランCだ。でもそれはさすがに無理かなあ。

 私の考えは、あくまで「考え」なのだ。実行できる可能性は低い。


 うーん、難しい。イーライ様ならわかるのかな…。

 イーライ様、そういえば中間試験で学年四位だったな…。私と図書館でだべっているだけかと思っていたけど、きちんと勉強がんばってるんだろうな。私もがんばろう。

 そういえばあの時、「勉強手伝うよ」っていってくれたな、かっこよかった。まあ、イーライ様は何をしていてもかっこいいけど。他意はないよ? ほら、顔が良いから、何していても絵になるんだって…。それで、そう、歌もうまいん…。









 寝坊した!

 なんてこった、あれだけ忠告されていたのに!

 大丈夫、まだ間に合う。髪の毛にかまっている余裕はない、化粧をして服だけ着ようとしたとき、お母様とお姉さまさが部屋に転がり込んできた。


「お母様はメイクを!」

「わかったわ、ちょっとそこのメイドさん、つまみやすい朝食を持ってきてくださる?」

「ふ、二人ともどうして…」

「口開かないでちょうだい」

「ん…」


 顔になにかをはたかれる。

 二人はてきぱきと私を綺麗にしてくれる。もっとしっかりしていれば迷惑をかけることもなかったのに。申し訳なくなる。


「迷惑なんかじゃないわ」


 髪を梳いていたお姉さまが髪飾りを選ぶ。

 なぜ自分の考えていたことがわかったのかと目をむいた。


「私の初デートのとき、寝坊した上に髪がぐしゃぐしゃで、絶望しきっていたの。でもあなたが帽子をかぶればいいっていってくれたおかげで、待ち合わせに間に合ったのよ」


 …そうだっけ?


「あなたも寝坊するかもしれないから、ちゃんと起こせるように二人で部屋の前で寝ていたのだけれど、まさか私たちまで寝坊しちゃうなんてね。目、閉じてちょうだい」

「大丈夫、朝食は馬車の中で取りなさい」


 …実は、あまり食べたい気分じゃなかったりする。


「勝負の日は、きちんと食べていくのが肝心よ。私も昔、恋人の前でお手洗いに行くのが恥ずかしくてデートの前日からなにも食べなかったことがあるの。でも、おなかが鳴ってしかたなかったもの。やめておきなさい」


 お母様の言葉だ、素直に受け取ることにする。

 …それにしてもこの二人は、なぜ私の考えていることがわかるんだろう。超能力?


「できたわ、行きなさい」


 足からワンピースをはいて、お姉さまにチャックを閉じられる。


「二人とも、本当に」

「お礼はいいから、早く行きなさい」


 部屋から追い出されるように外へでた。

 駆け足気味に家を出て馬車に乗り込む。口紅が落ちないようにサンドイッチを慎重につまんだ。


 …とってもおいしい。

 嬉し涙でメイクが落ちないように、私は上を向いた。






[イーライ]


 待ち合わせ場所について2時間30分。あと7分で予定時刻になる。



 …僕は気づいた。

 僕は、サリィに恋をしているかも、しれないことに。


 …いや、してないよ!? かも、だから! 確定じゃないから!


 …でもなあ。おばあさまに相談したら、恋かもねっていわれたしなあ。女の勘は鋭いからなあ。

 でもなあ。あのサリィに、恋をするなんてなあ。あり得ないと思う。僕自身がそう思う。やっぱり恋じゃないのかなあ。

 でもなあ。側にいるとドキドキするしなあ。今も、してるしなあ。一睡もできなかったしなあ。

 でもなあ。怪しい奴だしなあ。

 でもなあ。可愛いんだよなあ。いい匂いがするし、そんな女の子サリィ以外にいないしなあ。

 でもなあ。恋をするきっかけなんてなかったしなあ。

 でもなあ。優しいところとかは、結構好きだし、家庭的で、お菓子もすごく美味しいし、笑っているところもなんかぎゅんって胸が閉まるんだよなあ。

 でもなあ。でもなあ。でもなあ。





 …はっ。


 気づけば五分たっていた。


「あの、イーライ様」

「うわっ!」

「ぎゃっ」

「ああ、ごめん。驚いちゃって」


 彼女がそばに来ていたことに気づかなかった。

 クスリと笑った姿を見るだけで胸が締め付けられた。


「いえ。ぎりぎりになってしまってごめんなさい。待たせましたか?」

「いや。僕もさっき来たばかりだよ」

「そうですか…。」

「うん…。」

「…。」

「…。」


 会話っ!


「その髪飾り。とてもきれいだよ」

「ほんとう? うれしい、つけてきてよかった!」


 おう。破壊力。

 それにしても今日の彼女は大人びている。化粧をしているからだろうか。可愛いな。


 …別にかわいいからって相手を好きと決まったわけではない。


「じゃあ、早速行こうか。サリィおすすめのお菓子屋さん」

「ええ! シュークリームがすっごくおいしいのよ。生クリームが柔らかくて、口の中でふかって音がするの。しつこくないし、くどすぎなくて、とっても人気なのよ」

「ふふ、じゃあ僕も食べよう」


 お菓子の話になると、永遠にはなしてくれる。輝く目がとっても綺麗だ。


 …綺麗だ、という事実を述べたのであって、他意はない。誰がみてもきれいだと思うよ、こんなにきれいなんだから。



 数分ほど歩いて店に着く。


「かなり並んでいるね」

「人気店だもの! 並ぶことも醍醐味よ」


 なるほど、並んでいる間に話をしながら親睦を深めるのか。隣にたつサリィを見る。


「サリィが初めてここに来たのはいつ?」

「五歳くらいかな。あのね、その時、護衛をしてくれていた人がシュークリームを1ダースも買ってくれたことがあるのよ」

「…へえ。なんかロリコンっぽいね」

「ふふ。周りから冗談混じりにそうやってからかわれていたわ」

「…へえ」


 五歳のサリィ、可愛いんだろうな。僕は永遠にみられない。


「で? その護衛は今もいるの?」

「ううん。今はお姉さまの婚約者」

「そうなんだ! へえ! お姉さんのね!」

「とてもすてきな人よ。あこがれちゃうわ」

「へえ…。そっか…。」


「あ、もうすぐ入れるね」

「うん。1ダース食べる? かってあげるよ」

「いいよ、別に! あの頃と違って今はわがまま娘じゃないんだから」

「はは、冗談だよ。お土産はどうしよう」


 あながち、冗談のつもりじゃなかったんだけどな。






[セーラ]


 イーライ様と歌劇を見に行った。お姉さまと婚約者様も見に行かれていたみたいだけど、「おもしろかったよー」っていってらしたから、面白いんだろうと思っていたら、なんと恋愛ものだった。

 そりゃ、カップルで見に行くぶんにはいいけどさあ! 気まずいったらありはしない。


 わ、キスシーン! やだちょっと、こんなところで…。

 「私、あなたを愛しているの」だって、大胆! 「僕も君を愛しているよ」って、恥ずかしい、なんかドキドキする。言われているのは私じゃないのに…。でももし言われちゃったら、『サリィ、君を愛しているんだよ』なんて! ひゃああああ! だめ、だめ! 胸がじくんって痛くなる。

 隣にいるイーライ様に、なんとなくいわれちゃった事を想像する。

 ……うわああああああ!

 してない、言われてない、なにもない!


 ちょっとイーライ様から離れるように座席の端によった。




 サンドイッチ店でのこと。


「サリィ、観劇中なんだか面白かったね」

「え、え? そ、そうかな」

「うん。百面相したり、キスシーンで顔を覆うくせに目だけはバッチリ開いてたり」

「そんなことないよ! イーライ様の勘違いでしょう」

「…その、イーライ様っていうのやめてもらってもいいかな」

「え? ご、ごめんなさい…」

「ああ、ちがうんだ! 僕だけ愛称で呼んでいるのに、イーライ様、だとなんか距離をとられているみたいでいやなんだ」

「そう? じ、じゃあ…。イー、ライ?」


 なんか呼び捨ては嫌だな。ドキドキしちゃう。


「あの、やっぱり愛称じゃだめかな」

「え? いいけど…。[イーライ]自体が愛称みたいなものだからな」

「おじい様のEliotエリオットから取ってEliイーライよね。…エリ、とかは?」


 こっちの方がいいかも。

 エリって女の子の名前みたいだし、そこまでドキドキしない。

 友達って感じがするし、愛称いいね!


「…もう一回」

「え? エリ」

「もう一回」

「エリ」

「もう一回」

「エリ…って、なにやってるのこれ」


 だんだん顔が赤くなってくる。目の前のエリはにこにこしてこちらを見てくるし、なんだか恥ずかしい。


 …あれ?

 これって恋? 劇の中でヒロインは言われていたわよね。「その人と一緒にいて幸せだと感じ、その人の事ばかり考えてしまうことが恋だ」って。「ドキドキときめいちゃったり、そのくせ顔が見られなくなったりする」ことも恋だって。


 ………え?



「…リィ、サリィ!」

「わっ!」

「どうしたの、ぼーっとして」

「う、ううん。別になにも…」


 気のせいだよね。考え過ぎなだけだよね。


「あ、あのさ!」


 別の話をしよう。馬車の中で考えていたんだ。今日はこの話をしようって。


「イーラ…エリにはなしておきたいことがあるの」


 それから私は、この国の王族が反乱によって命を落とすかもしれないことを話した。夢や、占い師との会話まで。


「…なるほど。だから、王子に接触しようとしたり、王子の情報を集めようとしていたのか」

「うん。…って、信じてくれるの!?」

「半信半疑だけど。そんなこともあるかもなってだけ」

「え? どうして」

「陛下は持病の病でもう先は長くない。王子は国のあり方を変えようとして頑張っているけど、それを快く思っていない人間もいる。ジョージはアメリア様が大好きだから、結婚式に相当な予算をつぎ込むことも考えられないわけではない」


 なるほど。可能性としてなくはないかもねって段階かな。


「でも、なんでサリィは僕にそれをはなしてくれたの?」

「相談する相手がほしかったの。例の占い師の人は売れっ子で、今はこの国にいないし」

「ふうん」

「前から言おうか迷っていたんだけど、あと一年と少し、なりふり構っていられないよ」


 そういうわけで、相談をした。


「どうすればいいと思う?」

「うーん、もしサリィさえよければ、僕に全部任せてくれないかな。思い当たる節がないわけじゃないんだ」

「でも、イ…エリにそこまでさせるわけには行かないよ」

「大丈夫、そんなに大変な調査をするわけじゃない。ちょっと面白そうだしね」


 なんていい人なんだ!

 ちょっとときめいちゃうじゃないか。


「なにか私にできることはある?」

「いや。いったでしょ、大変な調査じゃないって。もしよければ来週も、同じように食事できないかな。そのときにどうだったか教えるよ」

「本当にありがとう!」


 なんかお礼をしなくちゃ。なにが良いかな、お姉さまに相談しよう。



 その日の晩、お姉さまとお母様にお土産を渡した。


「二人とも、本当にありがとうございました!」

「んんっ! このマカロン美味しい!」

「いいカカオを使っているわね、このショコラ。マカロン、いただいても良いかしら?」

「どうぞ。私ももらいますからね」


 結局ショコラとマカロンを買っていった。二人とも喜んでくれて、一安心だ。


「それで?」


 満足したお母様がお茶をすする。


「それで、とは?」

「イーライ様とのデート。どうだったの?」

「またそれ? デートじゃないって…」

「そう? でも、劇を見ているときは何かあったでしょ? ときめいちゃったり、変なこと想像しちゃったり」

「そ、そんなこと…」

「あるわよ。顔に書いてあるもの、恋をしましたって」


 やだ、やっぱり二人は超能力者?

 でもよく考えたら私は予知夢を見ているわけで、私を産んだお母様が超能力を持っていても、そのお母様に育てられたお姉さまが超能力者だったとしても、なんらおかしいことはない。…ない、のか?


「恋かどうかは…まだわからないけれど、来週も一緒に遊ぶことになって、嬉しいとは思っています」

「え? 来週も遊ぶの?」

「なによそれ! 誘ったの? 誘われたの?」

「向こうから誘ってくださって…」

「やだ! 絶対脈ありよ!」

「もっと可愛いドレスを着ていきましょう」

「ちょっとー! あなたー! サリィが大変よー!」

「ふ、二人とも!」


 なんか急にノリノリになりだして焦る。

 ただの情報共有だよ! 恥ずかしい恥ずかしい、デートじゃない、ちがうよ!

 でも、どうしよう。また来週もあうことになって、今度はまたたくさん話をして…。あんまり張り切りすぎると、調子に乗ってるイタいやつだよね。でも、エリは人気だし…。ちょっとくらい意識させないと振り向いてくれないよね…。



 って、私は! エリが! 好きな! わけじゃ! ない!


 ないのよおおおおおおお!



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