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さらっと読んじゃってください
[セーラ]
私はセーラ。愛称はサリィ。男爵令嬢。
歳は15、今日この国で一番の学園に入学する。
私はここで、やらなくてはならないことがある。
ずばり、次世代の中枢を担うこの国のトップに君臨する方々を罠にかけるということである。
十歳くらいのときに、前世の夢を見た。
前世って信じる?
私は、あまり信じていない。半信半疑。例の夢も、ひょっとしたら私の妄想なのかもね。
でも相談した占い師が「それは前世の夢でしょう」っていうんだもの、前世はあるのかもしれないと思ったわ。
その夢ではみんな働いていて、身分なんてなかったわ。財産をたくさん持つ人とそうでない人はいたけど。
女性だって、理不尽な扱いをされていたときに男の人相手に食ってかかっていて、とても驚いたのを覚えている。
こんな世界も良いかもしれないな、と思ってお姉さまに相談したわ。
でもあんまりいい顔をされなかった。
「夢はあくまで理想。そんな世界は素晴らしいけど、きっと今の世の中がそうなるには、たくさんの時間が必要になるわ」
優しくて、子供の戯れ言にも真摯に向き合ってくれたお姉さま。
私、お姉さまが大好きだわ。
そんなことがあって、「ふうん、世の中ってそうなんだな」と割り切った。
かなわない理想なんて、持っていても仕方ないものね。
でも何年かして、また変な夢を見た。
平民たちがフライパンや、パンをこねる道具をもって王宮に突撃するの。
あっという間に場面は変わって、王妃様や公爵様達が処刑される姿が見えたわ。いとこのジェイコブくらいの男の人たちも一緒に首をはねられていて、とても怖い。
目が覚めると汗で服がびっしり張り付いていた。
私はすぐに夢見占いの占い師の元に向かった。
「それは予知夢ですね」
どうやら、私は未来をみてしまったらしい。
「処刑されていたのは誰でしたか」
「えっと、この国のお后様、十八才くらいの男の子たち、それから公爵様とその娘さんらしき女の子…」
「…ひょっとすると、現王太子様と王太子妃様、その側近の方々かもしれませんね」
絵画を見せてもらうと、間違いない。まだ背は低いしあどけないが、5、6年程で夢でみた彼らになるだろう。
「どうしましょう…」
「おそらくその夢は、革命がおこったときの様子でしょう。現在この国は安定していますが…。一体、なにがあったのか」
不安を抱えながら、占い師はいろいろしてくれた。断食や、老体にはきついだろうに滝に打たれて祈祷まで。
そしてついに、何となくわかった。
「今から4年後、王様がなくなられます。それから王になった王太子は、勝てるはずのない戦争をふっかけたり、わけのわからない政策をすすめたりと、学園に在学している間にさんざんやらかすそうです」
この国の王太子はバカなのかもしれない。
「6年後、この国を大きな飢饉がおそいます。しかし王太子妃様との結婚式に多額の国税を使ってしまった王太子様に、国民が怒って反乱を起こすのです」
「どうして公爵様まで処刑されてしまったの?」
「…王太子はあまり頭がよろしくないので、次期王太子妃様のお父上である公爵様が摂政となられて政治を行われていたようなのです(確証はないけど)」
「つまり、悪政は公爵様がしていたということ?」
「はあ…(多分だけど)」
それなら、まだやり用はあるかもしれない。
王太子を何とかするんだ。
第二王子のほうは優秀だと聞くし、4年以内に王太子がなにかしらやらかして廃嫡されれば、公爵様が政治に手を出せなくなる。
まあ一番は王様がなくならないことなんだけど、持病ばかりはどうにもできないわ。
他の人に相談? できる訳ないでしょ、ただでさえ出来の悪さとパッパラパーで家族には迷惑をかけているのに。
だからこれは、私と占い師だけの秘密。
それから2年後、つまり現在。
この国の運命を分ける2年が始まるわ。
サリィは予知夢を信じていますが、それは実際にみたことがない王子の側近が夢に出てきたからです。
前世は妄想かもしれないと思っています。