怪談「人面犬」
このお話は私の友人から聞いたお話です。
その友人が小学生の頃、「口裂け女」「ターボばばあ」「ミミズ肉バーガー」「足が何本もある鶏」などなど・・・所謂「都市伝説」と言われるものが流行りだした1990年頃、その中に「人面犬」というのがありました。
「人面犬」とは字の通り、頭は人で体は犬と言われてる生物らしいモノで、ゴミ箱を漁ってる所に声を掛けると、「ほっといてくれ」と言い返して立ち去る。
他にも「勝手だろ」「うるせえ」「なんだ、人間か」など、話しかけると話し返してくる・・・そんな都市伝説でした。
当然そんな都市伝説が当時の小学生の間で流行らないわけもなく、その友人の学校でも流行り、「口裂け女の対処法」や「ターボばばあに出会った車は必ず事故を起こす」など、色々な噂と共に広がっていました。そんな中「学校の側の墓場に人面犬が出た!」という噂が立ちました。
その噂によると、
「夜21時頃、たまたま墓の側を通った同級生がうろうろしている野良犬を発見。「こら!あっち行け!」っと面白半分に石を投げつけるとその犬はこちらを向き「いいだろ別に」と言い放ち闇に消えていった・・・」と言う噂でした。
夜の21時になんでそんな所を通ったのか?ツッコミたい事は色々ありますがw
そこは小学生!人面犬発見!の噂はあっと言う間に全校生徒に知れ渡り、情報も色々錯綜し。「5年2組のやつも人面犬をそこの墓場で見たらしい!」「3年の男子3人が放課後に違う墓場で見たらしい!」「夕方に北小のやつらも墓場で見たらしい!」などなど・・・
そんな錯綜する情報の中、一致するのは「墓場で見た」という情報・・ならば!とその友人は一つ上の兄と一緒に家から一番近い墓場を見に行こう!っとなったそうです。
さて、行くのはいいが流石に夜の21時に外出は出来ないので、夕方の怒られないギリギリの時間に自転車でサーっと行ってざっと見て帰ろう!そう計画したそうです。
計画実行日、その日は土曜日で学校も半ドンで終わり、家で兄と二人でゲームなどをしながら時間をつぶし、いよいよ夕方の16時・・・台所では母親が夕食を作り始めて手が離せない時間・・そう!この時間なら家を抜け出して17時ぐらいまでに帰り何食わぬ顔でいればバレない!完璧な計画!
兄と顔を見合わせながらタイミングを計り、母親が水道をひねり何かを洗い始めた所で・・・今だ!!
二人は滑るように玄関を開け、あらかじめ用意をしておいた自転車に乗ると一気に目的地に走り出しました。
家から自転車に乗る事5分。そこは一軒の民家の側にある墓地でした。敷地的にはテニスコートぐらいで小規模な墓地ですが、薄暗い黄昏時・・道沿いのお墓は薄っすら見えますが、奥の方は暗くて見えません。
そんな墓地の入り口に自転車を止め、兄と二人で墓地へと入っていきました。
小規模と言ってもそこは墓地、何とも言えない静けさと雰囲気に若干ビビりつつ、何かあった時にとその辺の石ころと家から持ってきた懐中電灯を手に持ち二人で奥へと進みました。
物音で人面犬に逃げられるといけないので二人して無言で慎重に進み、そろそろ一番奥のお墓が見えるといった所で・・・何かいる!?
それは白くてふわふわした物をふりふりと揺らしながら何かをしている・・・「あ!あれ犬だ!」
二人はすぐにピンっと来ました。そして「わ!わ!本当にいた!人面犬だ!」っと静かに興奮していました。
そんな人面犬と思われる何かは下を向き何かしている様子でした。そんな様子をこっそりと二人で伺っていると友人が兄に「なぁ・・いたのはいいけど・・・どうすんの??捕まえるの?」っと聞くと兄は「ん~・・」っと考え「とりあえず、あれが人面犬かどうか確かめるのが先だな・・・よし!静かに近づくぞ・・・石の用意もしとけ!」っと言い、下を向き必死に何かをしている人面犬に気が付かれないよう、そろ~り・・そろ~り・・っと二人で近づいて行きました。
ある程度近づき、それの姿が良く見えるくらいまで近づいていると・・・それは美味しそうにお供え物を食べる・・・野良犬でしたw
「なんだよ!結局犬かよ!」兄が明らかに落胆した声を上げ懐中電灯をパッと照らしますが、その野良犬はふてぶてしくお供え物を食べ漁っていました。
そんな野良犬の姿にイラっとしたのか、兄は「あっちけこの!」っと手に持っていた石を投げつけるとそこでようやく白い野良犬は脱兎のごとく逃げ出し、あっと言う間に闇夜へと消えていきました。
野良犬を見送り、「こんなもんだよなぁ~」と兄がため息をつくと「さて、帰るか・・」と言い友人も「そうだね・・」っと・・なんかやるせない気持ちになりつつ来た道を戻りました。
墓地の入り口まで来て停めてあった自転車に手をかけ、二人は家に帰るために墓地を出てすっかり暗くなった道路を進んだ・・その時!
「ワンワンワンワンワン!!」
急にけたたましく吠える犬の鳴き声に二人は自転車から落ちそうになるほど驚き、とっさに鳴き声のした方を向くと、そこには民家の庭につながれた大きな黒い犬がこちらを見て必死に吠えていました。
「なんだよ・・また犬かよ・・」兄がそうつぶやき友人が「帰ろう・・」と言うと二人は妙に疲れた面持ちで帰ったそうです。
そして月曜日、学校登校した友人は休み時間に「土曜日の人面犬を探し」をクラスメイトに話しました。
「結局いたのは白い野良犬だし、帰り道で墓地の側の家の犬に吠えられるし・・・本当に人面犬なんているんかなぁ?」
とクラスメイトにぼやいていました。
そんな友人のぼやきを何となく聞いていたクラスの女子の一人が「それってどこの墓地にいったの?」っと聞いてきました。友人が「あー、あそこの小さな墓地だよ」っと答えるとその女子は「あー・・やっぱりかぁ・・あそこの墓地の側の家って私の叔母さんの家だよ」っと答えました。そしてその女子は首を傾げると「でも・・・変だなぁ・・」っと言い、友人が「?何が変なんだよ?」っと聞き返すとその女子はこう言いました。
「いや。叔母さんの家・・・犬なんて飼って無いよ?」
それを聞いた友人は「いやいやいや!だって現に吠えられたし!兄貴も一緒に見たし!でかい黒い犬!」っと反論しましたが、その女子は続けてこう言いました。
「そんなわけ無いよwだって、叔母さん動物アレルギーだものw」っと・・
友人はなんだか気味悪くなり、土曜日の出来事を思い返してみると・・・背中がスッと・・寒くなりました。
そう、思い返せばおかしいのです。・・・あんだけ吠えてた犬が、何故行きには吠えなかったのか・・・
その後、その話を兄にも話、昼間に二人でその民家に確認しに行ったところ・・・大きな黒い犬も、犬小屋などの飼い犬の形跡すら無かったそうです。
あの犬は何だったのか?今でもそれはわからないそうです。