2 長崎は雪だった
船から外に出ると、身を切り裂くような冷たい潮風が吹き荒んだ。
風がゴーゴー鳴り響き、磯の香りが鼻を突く。
台風でも来てるのか?と思うほどに風が強い日だった。
山間の港はこのような風の吹き方をするのだと後に知った。
曇天空で正午にしては暗く、長羽織を着込んではいるが寒い。
季節もまだ2月になったばかりの真冬なのだ。
白い息を吐き、体を震わせながら、大量の荷物を背負い歩くのはなかなか骨が折れた。
通り過ぎ去る人々も寒さで体を丸め、先を急いでいるようだった。
しばらく歩いただろうか、俺たちは車道に出た。
大通りは、人通りも多く活気付いていた。
商店街には様々なお店が立ち並び、暖かそうな湯気と美味しそうな匂いを漂わせるお店もあり、なんだかほっとする。
父はおにぎりとアジの天ぷらと饅頭を買い、新しい家に着いたら一緒に食べようと微笑む。
俺はアジの天ぷらと饅頭という豪勢さに笑顔になり、小躍りした。
「あっ!ちんちん電車来たよ!」
いそいそと親子で路面電車に乗り込み家路へ向かった。
ほどなくして、家に着いた。
一般的な日本家屋だが、大きかった。
家の玄関の引き戸をガラガラと開けると、畳と古い木の匂いがした。
時計のカチカチと言う音がやけに大きく鳴り響いている。
父の会社の人が、生活品を一式揃えてくれていたのだ。
玄関で下駄を脱ぎ捨てあがり込むと、ミシリと床が少し鳴った。
「わあ、広いお家だね!でもすっごく寒い。」
そう言って、わざとらしくがちがちと歯を鳴らす。
「囲炉裏があるな。火をつけよう。こたつも出せるが今日は面倒だ。」
父はそう言うと、木炭と新聞紙を持って来てマッチに火をつけた。
パチパチと音を立て、部屋中に焼ける炭の匂いが広がった。
俺はちゃんちゃんこに着替え、座布団の上で膝を抱え丸くなり暖をとったが、父に雨戸を開けるように頼まれた。
雨戸を開け、縁側に出るとそこには蕾を付けた梅の木が目に飛び込んできた。
小ぎれいに整えられた広くて美しい庭だった。
そして一面に雪が舞っている。
幻想的な風景だと思った。
「わぁ、雪だ!」
つい笑顔になり、父に報告する。
「おぉ、道理で冷えるはずだ!こっちへ来て暖まりなさい。」
「うん、でもちょっと外に探検しに行っても良い?」
目を輝かせる少年。
父は好奇心旺盛で快活な少年のそれが好きなのだ。
少し困り顔ではあったが、了承してくれた。
「夕食までには戻って来るんだぞ。」
拙い文章を読んでくれてありがとうございます!
がんばります。