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『保健体育』の保健だけ得意な僕はなぜか秘密裏にその科目を校内一の美女に教えている

作者: 佐古昭博

短編です。

「だから応急手当をすることによって救急隊員や医師の治療の効果を高めるんだ」

「なるほど」


 僕は自分の部屋で校内一の美女に保健の科目を教えている。

 ど、どうしてこうなった……。事の発端は今から2週間ほど前に遡る。


「相変わらず保健()()は得意だよな~」

「うるさいなーっ」

「保健が得意でも入試にはでないぞっ」

「分かってるよっ」



 期末テストのテスト返却で、にやにやしながら友達の柳瀬にいつも言われる言葉だ。

 そう僕は保健体育の保健だけ得意なのだ。いつも100点を取る。自信ある科目だ。親が医者のせいで保健の英才教育を受けたせいか、それだけは得意中の得意になってしまった。

 そんなある日のこと。僕の机の中に手紙が入っていた。見ると、『放課後。体育館裏に来て下さい』という内容だった。

 こ、これは……告白か……!?

 僕は甘い期待を胸に授業そっちのけだった。そして放課後、体育館裏に行くと、一人の女子が立っていた。どきどきしながら彼女を見ると、ギョッとした。岸田さんだったのだ。彼女は背中まである綺麗な黒髪に二重のぱっちりした目をしている。そして校内有数の成績を誇り、学校での掃除、仕事をこなし先生からの信頼が厚い、いわゆる優等生だ。性格も明るく優しくて清楚を地で行く。

 そんな彼女が一体僕に何の用だろうか? 告白か? いや、それはあり得ない。ほとんど面識がないはずだからだ。告白なら罰ゲームか何かか? 僕は周りをキョロキョロしながら彼女に近づく。


「こんにちは、福田君」

「あ、はい。どうもこんにちは……」

「実は折り入って相談がありまして」

「はぁ……」


 一体何の相談だろうか。


「実は私……」

「……」

「『保健』の科目だけはどうしても苦手なんですっ」

「へ!?」


 これは意外な話になってきた。


「いつもそんなにテストで良い点数が取れなくて」

「はぁ……」

「そこで福田君に『保健』の科目を教えて欲しくって」

「え!? 僕が!?」

「はい!」


 一体どういうことだ。なぜ僕が彼女に教えないといけないんだ!?


「えーと、なんで僕なの?」

「『保健』はかなり得意と聞いたのでっ」


 校内でそんな噂が流れているのか!?


「先生に聞くのは……?」

「私、学校では優等生でいたいから、なかなか先生を頼るのは苦手で……」


 なるほど、それで良い点数が取れず困って僕に相談しに来たのか……。


「……」


 彼女は恥ずかしそうに俯きながらもじもじしている。


「『保健』は入試に出ない教科だからそんな力入れなくても良いのでは?」

「いえ、これが科目である限りどこかで必要と思うのでちゃんと学びたいんです!」


 まぁ、確かに意外と為になる内容があるな……。はぁ、とため息を僕は出しながら、


「分かった。良いよ」


 と言った。そして彼女はぱあと明るい顔になり、


「ありがとうございます!」


 と答えた。


 それから僕はなぜか()()()()で『保健』を最初の方から教えることになった。なぜだろう? 彼女には実技があるからと言って強引に僕の家になったのだ。実技とは一体……?

 それはともかくとして最初は保健とはいえ現代社会っぽい内容だ。


「日本の健康問題が……生活習慣病が……」


 と続く。彼女はふんふんと聞く。流石は成績トップである吸収力が高い。どんどん覚えていく。保健の先生の教え方が悪いのだろうか? そう思いながら僕は彼女に『保健』を教授する。普段の勉強もあるから、不定期で彼女は僕の家に来るようになった。教えて2週間経ったある日、いつものように僕は淡々と彼女に教えていた。


「であるから、例え素人でも応急手当は大事なのだ」

「そうですねー」

「応急手当の手順はまぁ……こんな感じで、えーと次は心肺蘇生は絵の様に行えば……」

「福田君」

「はい」

「それでは分かりません」

「えーと、しかし……」

「ちゃんと実践しましょう」

「え?」


 実践と言われても、ここにはけが人や急病人はいない。


「練習で良いじゃありませんか」


 彼女がそう促すので僕はそれに従った。


「まず私が急病人の役をします」


 そう言って彼女は制服のまま横になった。


「えーと、まずは安全の確認……」


 周りが安全か見る。よし、安全。


「次は反応の確認……」


 ぽんぽんと肩を叩きながら、大丈夫ですか? と言う。


「ん……」

「はい、反応がある。問題なし」

「……ちょっと待って下さい」

「何?」

「これじゃあ練習になりません。もし私が反応がない場合をして下さい」

「いや、しかしそれだと次は……」


 そう次は呼吸の確認だ。


「ちょっとまずいんじゃないか?」

「なぜです?」

「何故って……」


 それは貴女、いわゆるキ……。


「何かやましいことでもあるんですか?」

「いや、そんなことはないが……」

「私は体でも覚えたいんです!!」


 そして僕の体に電流が走る。確かに体で覚えるのは大事だ。そんな(よこしま)なことを考えるのは邪念だ。そして彼女を見ると彼女は真剣な目をして僕を見てくる。本番でそんな邪な意識をしてしまうと救えるはずの命が……となる。一分一秒を争う話だ。僕は甘い考えを振り解き決意をあらわにした。


「分かった、やろう!!」


 そして彼女はまた横になり、僕は反応の確認をした。


「反応なし」


 そして次は呼吸の確認だ。気道を確保しながら呼吸の確認をする。胸が動いているか、呼吸音があるか。


「普段通りの呼吸はしていないとするか?」

「はい、そっちで」

「……分かった」


 そして呼吸の有無がはっきりしない場合は、じ……人口……人口呼吸……。意識するな! しっかり人口呼吸を……。

 気道を確保した状態の彼女の唇に僕は口を近づけ……。


「お兄ちゃーん、たっだいまーっ」


 妹の美央がどたどたどたと学校から帰ってきた。僕達はなぜか正座をしていた。


「どうかしたの? 何かかしこまっちゃって?」


 お前のせいだろうがーっ。そして美央は自分の部屋に帰った。


「あはは、何か変な空気になったね」

「あぁ、そうだな……」


 しばらく僕の部屋はしーんとなった。


「あの、じゃあ続きを……」

「……いえ、今日はここまでで良いわっ」

「え?」

「今日もありがとう。待たねっ」

「へ?」


 そして彼女は颯爽と部屋から出て行った。

 えーーーー!???? 何でーー!? 僕はなぜかうちひしがれた。

 それから数日後、僕は一人家に帰っていると、後ろから声がかかる。


「福田君」

「あぁ、岸田さん」

「今日は妹さんは?」

「習い事で遅くなると思う」

「そう。なら福田君、今日も『保健』の授業宜しくね」

「え? あ、うん。次は心肺蘇生だから、前の続きだな」

「うん、分かった」


 そして家に着き、僕の部屋に行く。


「今日は私が人口呼吸をしたい」

「え? うん分かった……」


 僕は横になり、意識をぼや~っとする。


「まずは安全の確認、そして反応の確認……」


 彼女は応急手当の手順を淡々とこなす。


「反応なし。そして気道を確保し、キ……人口呼吸をする」


 目を瞑っているから分からないが、彼女は僕に近づいている気配を感じる。

 いざ横になると気づいたのだが、目を瞑っているせいもあるのだが、何も出来ず何されるか分からないから結構怖い。ほとんど彼女に身を委ねる感じだ。彼女は怖くなかったのだろうか。そして僕の唇に彼女の温かい物が当たる。

 ふっと彼女から息をはく感じがして肺に入った感じはしたが、かなりの量の空気が入ったせいか僕はついゴホッとなった。当然だ。僕は普通の呼吸をしているからだ。


「キャッ」

「ご、ごめん……。ごほごほ」

「大丈夫?」

「い、いけるよ」

「そ、そう……」

「もうこれで大丈夫か?」

「まだ胸骨圧迫してないわっ」

「えぇ……」


 そして彼女は僕に胸骨圧迫を行い無事一通りを行った。


「じゃあ、次はもう一度私が横になるわね」

「え? まだやるの!?」

「当然よ。まだ終わってないもの」


 そして、彼女は横になり目を瞑る。僕は安全の確認と反応の確認をし、彼女の気道を確保する。そして僕はどきどきしながら彼女の唇に当て、心許なく気持ち程度の人口呼吸を二回行った。そして次は胸骨圧迫だ。しかし……、

 彼女の胸はかなりのボリュームがある。横になっているのに胸が張っている。これを押すのか……。想像するだけで、下半身が熱くなる。無心だ。無心!

 そして僕は手を彼女の胸の真ん中に置く。ドクンと鼓動が高鳴る。

 無心だ。無心!

 そして体重を軽くかけて彼女の胸を押すのだが、弾力とむにゅっとした柔らかさがそこにはある。未知なる感触に僕は放心状態になってしまった。


「……」

「どうしたの?」

「いや、もう限界……」


 そして僕は部屋の隅で体育座りをする。


「……意気地無し」


 そうぼそっと部屋の片隅から聞こえたような気がしたが、ほとんど耳に入ってこなかった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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