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星の少女ーLast Night:5ー

 ばしゃん!

 という音と共に僕たち2人は水浸しになった。


 2回目に”飛んだ”時に2人の体は当初よりもいくらか低い高度に移動していたのか、想像していたような痛みもなく、精々水泳の飛び込み程度の衝撃で僕たちは川へと落下していた。


 「いっ!」


 しかしさすがに飛び込む体制までは整えることが出来ず、僕は背中から着水をしてしまった。

 溺れる、とも一瞬思ったが川はそれほど深くなくすぐに手足が水底に着いた。


 「埜亜!?」


 だが、その落下の痛みや川の水の冷たさに悶える前に、僕は跳ねるように立ち上がると辺りを見回した。

 水面は僕の膝の高さもなく、流れも緩やかであるがそれでも川である。


 気絶でもしていたらそのまま流されてもおかしくない、と僅かに嫌なイメージを浮かばせながら視線を横に向けると、


 「・・・」


 僕と同じように、全身を水浸しになりながらも、榛名埜亜がそこに立っていた。

 はしゃぎすぎた子供のように、少し照れたような、ばつが悪いような顔をしながら僕を見つめていた。


 「久しぶりだね」


 そうして先に口を開いたのは彼女だった。

 それは少し前に僕から投げた言葉への答え。 


 「・・・久しぶり」

 

 だから僕もそう返す。


 まるで数秒前まで生死の境にいたことなど忘れているかのようなやり取りに思わず吹き出しそうになる。


 しかし、何となくそれが()()()ような気がした。


 「あぁ、星が綺麗だね」


 手を後ろに組みながら空を見上げる埜亜。

 それにつられ僕も顔を上に向ける。


 そこには変わらず満天の夜空が広がっていた。


 つぅ――とまた光が一筋流れる。


 数秒前にそれは明確な”死”であったのだが、それでもこうして見ればそれはやはり目を奪われる風景なのだ。

 

 なので、()()()()()と思った。


 「二人とも!」


 呑気にも川の真ん中で空を見上げていると、僕たちを呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと苗間が服が抜けることも気にせず、ばしゃばしゃと川に入りこちらに向かってきていた。


 「大丈夫かい?」


 少し息を切らせながら僕たちの様子を見る苗間。

 先ほどまではあまり考えが回っていなかったが、端から見ていた苗間にとっては何が起きたかもわからず心配をさせてしまったのだろう。


 「私たちは大丈夫だよ」


 少しすましたように微笑みながら埜亜はそう言った。

 その言葉に苗間にも僅かに安堵の色が見える。 


 「それは、よかったけど・・・その」

 「僕も大丈夫です」


 僕を見ながら珍しく歯切れの悪い苗間に頷いて返す。

 色々なことをひっくるめた”大丈夫”のつもりだった。


 「後でしっかりと話します」

 「そうだね、そうしてもらえると嬉しいかな」

 「そろそろ戻ろうか。ここは冷たいよ」


 笑ってはいるが流石の苗間も少し疲れた様子であり、そんな様子を見て取ったのか、埜亜が苗間の手を取って川辺へと歩き出す。


 「・・・」

 

 その2人の背中を僕も追う。

 そうしながらわざと少しゆっくりと歩き、距離を開けていく。


 「いるのか?」

 

 そうして少し離れたところで2人には聞こえないように、なるべく小さな声で呟く。

 川を歩く水音に掻き消えそうなその声に、


 「ああ」

 

 声が応えた。

 背後から聞こえてくるその声にももう驚くことはない。


 「見てただろ?」

 「ああ」

 「・・・まだ埜亜を殺すつもりか?」

 「あの力がある以上、監視対象であることに変わりはない」

 「僕の力も見てただろ?」

 「明確な根拠に基づく行動でもあるまい。次もあるとは限らん」


 川辺に向かう歩を止めることなく、しかし会話も止めることはない。

 僕が今日確かめたかったこと。

 

 それは僕の力のこと。

 そして、埜亜の危険性のこと。

 

 埜亜の力が星を墜とせばそれは多くの人の命の危険につながるという。

 しかし、今日のように僕の力でそれを空へと返すことが出来れば、と思っていたのだが。


 男の考えは変わらないようだった。


 「だが、あの力の対策となるものであることは認めよう。その生存圏(シェルター)使い道はあるようだ」

 「・・・そうかよ」


 褒められているのか何なのか、男の評価に少し照れ臭くなりそう素っ気なく答えてしまう。


 「なあ、ついでに一つ教えてくれないか?あんたの名前、D4って何なんだ?」

 「【対角線(ダイアグナル)】。私の力だ」

 「えっと・・・よくわからないけど、それがあんたの姿が見えない秘密ってことか?」

 「・・・」


 僕の最後の問いにはもう何も答えることなく、男の気配は消えた。


 相変わらずの反応に腹正しい気もするが、それもまた、()()()()()と思えた。


 川の水に足を取られないようにゆっくりと歩を進める。

 前方では2人が少し先に川辺に上がっていた。


 「葦人」


 水に濡れた金の髪は風になびくことはないが、それでも変わらず夜に輝いている。

 その声に手を振って応える。


 視線の少し先、空には星が煌めき続ける。

 それはいつもの夜の姿。


 何かが変わったわけではないが、それはきっと何か意味のあった夜だった。

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