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星の少女ーLast Night:4ー

 ”それ”はまっすぐに僕たちに向かってやってきた。


 あの公園の時と同じく、それがこちらに向かってきたのだと気づいた頃には視界は光に覆われた。


 眩しくて、何も見えないけど、それでも手から伝わる少女の熱が僕に”生”を実感させる。

 だから大丈夫だと思った。


 僕が今生きているのであれば、僕の体はそれを望み続けるだろう。

 今眼前に迫る”死”からも必ず逃げ切ってみせるだろう。


 ――手を強く握ったのはどちらだっただろう。


 そんなことをふと思っていると、僕たち2人は強い光に包まれた。



   *



 星が墜ちてきた。


 空が少し強く瞬いたかと思うと、光の筋が一つ、まっすぐに2人に向かって堕ちてきた。

 それはまさに瞬きの間のことであり、近くで2人のやり取りで見ていた苗間栞里も直ぐに反応することはできなかった。


 「あっ!」


 逃げろとも危ないとも声に出す暇もなかった。

 そんなことをしても無駄だとわかっていながらそれでも反射的に手を伸ばしてしまう。

 しかし当然そんなことには意味はなく、光はまっすぐに大地に向かって堕ち、2人は眩い光に包まれた。

 

 「っ・・・」


 強い光に思わず閉じてしまった目を開けると全ては終わっていた。

 落下から直撃まで、全てはほんの一瞬の出来事だったのだ。


 「・・・」


 言葉は出てこなかった。

 目の前にした出来事が自身の理解の許容を超えると人はこうなるのだろうか、などとどこか冷静に分析をしている自分もいるが、それ以上のことはできずただ呆然と立ち尽くす。


 地面にはクレーターなどできるのかと思っていたがそれらしいものはない。

 もっと衝突の衝撃が飛んでくるのかとも思っていたがそうでもなかった。


 星が墜ちてきたそこには何もなくて――誰もいなくて。


 それが途轍もないことが起きたためだとようやく頭が理解すると同時に体の奥から何かが込み上げてくる――

 そう思った瞬間に、それは驚愕に変換された。


「なっ!?」


 我ながら素っ頓狂な声が出てしまった。


 しかし、それも致し方がないだろう。


 2人が立っていたその場所から少し先、ちょうど川の中央、

 その上空に消えたと思った2人の姿が見えてしまったのだから。



   *


 

 光が明けるとそこは暗闇だった。


 いや、よく見れば周囲では何かが煌めいている。

 小さかったり、大きかったり、色は様々だが光っている。


 そして全身で風と重力を感じていた。


 それが落下によるものであり、僕の目に映った光が遠くに広がる街の明かりだと気づくのにはそう時間はかからなかった。


 宙に浮いていた。

 というよりも落ちていた。


 「うぉおおお!」


 頭が状況を理解すると自然と叫び声が出る。

 

 果たして上空何十メートルにいるのだろうか。

 遊園地の乗り物など比較にもならない垂直落下。

 そして何より命綱などどこにもないフリーフォール。


 「葦人!」


 そんな落下に伴う風に掻き消えることもなく、誰かの声が僕の耳へと届いた。

 

 その声が、僕の手に感覚を呼び戻す。


 小さな手が僕の手を握りしめていた。

 金の髪が風にたなびき、広がっていた。

 榛名埜亜がそこにいた。


 「埜亜!」


 風の中でも届くようにそう叫ぶ。


 飛べた――のか。


 あの夜の公園のように。

 あの銃撃のときのように。


 この力は迫りくる死の危険から、自らとその手を握る少女を生かすことができたのか。


 僕がここに来た理由。

 僕がしたかったこと。

 きっと僕がやるべきだったこと。


 それを為せたのかと、考えようとも思ったがしかし今はそんな状況の整理をしようとしていられる時でもない。


 ここはどこなのか。

 今僕たちはどこへ向かって落ちているのだろうかと、平衡感覚もない中で何とか目線を落下方向に向けると――


 「星・・・?」


 眼下に星空が広がっていた。


 否、あれは(そら)の星ではなく、それを映す川だった。

 流れの穏やかな川に上空の姿がそのまま映っているのだ。


 落下を続ける僕たちだが下が川なら大丈夫なのだろうか。

 上空から水に叩きつけられるとそれはコンクリートにぶつかるにも等しい衝撃だとどこかで聞いたような気もするが、などということを呑気にも考えていると、


 川の中で光が一つ瞬いた。


 「なっ!?」


 目をつぶりたくなるような風の中でも僕の眼はそれを見逃さなかった。

 それは先ほども見た、あの煌めき。


 星が墜ちてきた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「おぉおおお!!」


 星が墜ちてくるなんてことも大概非常識だが、これは流石に予想の範囲外のことであり、たまらず叫ぶ。


 星がこちらに向かって昇ってくる。

 ぶつかってしまう。


 それから逃げなくてはならないが。

 だが、これは自分の意志で使える力ではないのだ。

 2度目なんてないかもしれない。


 それでも肉体は重量に従って地面へと落ち続け、”それ”は僕たちめがけて飛んでくる。

 時間にしては一瞬のことだっただろうが、思考は巡る。

 

 しかし、そこに良いイメージは1つもなく、ただ()()()()()()自分を想像してしまう。


 なすすべもなく、衝突が間近に迫ったその時に、


 「葦人!大丈夫だから!」


 そう言って僕をまっすぐに見つめる星の少女と目が合った。

 

 それは先ほど地上でも僕を見つめていた彼女の瞳。

 彼女がいたから、飛べたのだ。


 今再び彼女がそう言うのならば、


 「僕が何とかするから!」


 僕はそう答えなければならない。

 

 それは僕自身に向けた誓いの言葉。

 ただ、自身の力を信じて今はその光へと飛び込むしかない。


 「っ!!」


 もう一度互いの手を強く握る。

 離れないために。

 お互いが生きていると確かめ合うために。


 光は迷うこともなくまっすぐに僕たちへと向かってくる。


 そうして2つの影と1つの光は交差して――


 ――痛みもなにもないままに


 光は空へと帰っていった。


 「・・・」

 もう叫ぶ力もないが、僕たちをすり抜けるようにして空へと昇っていく光を見届ける。


 光の粒をばらまいたような夜空の中にそれは墜ちて、すぐに他の光と区別はつかなくなる。


 「・・・」

 金の髪をなびかせながら少女もまた空を見上げている。

 その目が何を見ているのかはわからない。


 それを真似るようにして、僕もぼんやりと空を見上げる。

 重力に任せ、空は段々と遠く、地上は徐々に近くなる。


 これが流れ星が見る景色なのだろうか、なんてことを思ったと同時に、


 眼下に広がる星の川へと僕たち2人は落下した。

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