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国定開発法人 特殊能力者研究所

 自分を特別と思ったことはない。しかし、特別に平凡と思ったこともない。

 全能だと感じたことはないが、時折、特に夜寝る前に熱病のような全能感が湧きあがる。その全能感は瞼を閉じ、次開けると不思議とどこかへ消えているのだ。

 偉業を成し遂げる予感はないが人生できっと何かを残せるような根拠不明の衝動だけは姿を現しては消える。

 つまり僕はそういう人間である。きっとどこにでもいる人間だ。

 それでいいと思っていたし、それは普通のことだ。


 それが僕による僕自身、真喜屋まきや 葦人あしとの評価である。


 だからこそ、実というとこうして職員室まで呼び出されたことには僕なりに多少衝撃を受けていたのだった。

 学校での態度に問題はないつもりだし、成績についても殊更何かを言われるほどのこともないはずだ。

 強いて言うのなら【力】のことであろうが、それは僕にも如何ともしがたいことである。

 「突然わるいな真喜屋」

 インスタントコーヒーの香りが漂う職員室。担任の男性教師、足利は僕を隣に座らせると自身の机の上をあさりながら話し始めた。

 温厚な性格であり、生徒の冗談にも応えてくれる足利は年配の教師ではあったが人望は厚く、僕自身も彼に対しては良い感情を持っている。そして今目の前にいるのはいつも通りの足利であり、特に深刻な話を始めるような様子もない。

 なので僕はなおさら呼び出しを受けた理由がわからなくなる。


 足利は多少乱雑ともいえる机の上に積まれている資料を引っ張っては戻しを繰り返し、何かを探している様子だ。

 「僕何かしましたっけ?」

 僕はつい直球でそう聞いてしまった。

 足利はしかし「ん?」と聞いていたのかいないのかわからないような調子で声だけで返事をしたかと思うと、

 「あったあった」

 と一冊の薄いバインダーのようなものを取り出した。

 「いやな、真喜屋。お前にちょっと頼みがあるんだよ」

 そういいながら足利が見せてきたバインダーには細長いシールでラベルが張られていた。

 【国定開発法人 特殊能力者研究所】

 「何ですかこれ?」

 用事はどうやらこれに関することのようだがしかし結局何のことかわからず僕は再び尋ねてしまった。

 「特研だよトクケン。知ってるだろ?」

 「いや、それは知ってますけど・・・」

 もちろん「ここ」のことは知っている。いや世間でだって知らない人間はまずいないだろう。まして学校内に通っているものならなおさらだ。

 しかし、ここと僕を結ぶ線が出てこない。僕はどちらかと言わずともこことは縁のない存在だ。

 まあ、ある意味では縁があると言えるかもしれないが、しかしまさか出来が悪いから出頭をしろとは言われるはずがない。


 「まあ、何というかな。お前の成績のことなんだけどなぁ、やっぱり中々内申もつけにくいんだこれが」

 いやいやぁ、などと足利はお道化た調子だ。聞きようによっては嫌味なようにも受け取られかねないだろうがそうは感じない。

 それは足利はそうした類のことを言う人間ではないとわかっているということもあるが

 僕の【力】については僕が誰よりも知っているからなのだった。


 【特殊能力者】の出現は今から数十年前、少なくとも僕の祖父母が子供だった頃には確認されている。

 それは所謂「超能力者」と呼ばれる人々であった。

 公的な第一事例はアメリカの当時2歳の少年。

 家族で食事をしていた際、少年は軽々と手に持っていた小さなスプーンを曲げたという。それ以来彼は触れることなく物を浮かばせ、やがては自分自身すら空中に浮かばせることができたという。

 テレキネシスであった。

 そして更に不思議なことに、それに端を発するように世界中で次々と特殊な力を持つ人々が発見されるようになった。

 動物の心を読むもの、物体を燃やすもの、遠くにいる人物に自分の声を届けられるもの。

 かつてのSF小説に現れた超能力者が世界のあらゆる地域で発見されるようになるまでには十年もかからなかった。

 当然、世界は小さな混乱状態となり、論争の火は直ぐに大きく燃え上がった。

 すなわち「超能力者をどうするか」ということだ。

 幸か不幸か、当時発見された超能力者の大半は小さな子供であり、子供たちは素直に親の言うことを聞きその力を乱用することはなかった。

 時折くしゃみのように能力が暴発することがあったというがそれは人に危害を加えるほどのことではなかった。

 しかし世界にとってそれはやはり唐突に表れた異端者であり、それを隣人と迎え入れるものは少なかった。

 子供たちはやがて危険になる。

 そうでなくとも犯罪者に利用されたらどうする。

 いや、その親が犯罪を企てているのだ、安全とウソをついて匿っているに違いない。

 各国政府は対策に追われた。しかしこのような事態は当然過去に前例などなく、誰も明確な答えを出せるものなど存在はしなかった。

 そうして人々の混乱が恐慌に変わろうとしていた時、一つの小さな団体が世界に向け声明を発した。

 曰く、我々は能力者の存在をかつてより認知し、それを研究してきたものである。

 曰く、これは人知を超えた「超能力」ではなく、人が誰もが持つ力が特殊な形で発露したものである。我々はこれを「特殊能力」と呼び、彼らは特殊能力者と称されるべきである。

 曰く、我々はこれを研究し、制御する術をもつ、と

 それは極少人数で構成される小さな規模の集団であったが世界中で活動をはじめ、【特殊能力者】についての論文や研究成果の公表、それを以下に制御できるかといった人々が求めていた答えを世界に向け示し始めた。

 団体は少しずつその規模を広げ、そしてついには国際的にも発言力を持つ世界の機関となるまでにそう時間はかからなかった。


 それが【国定開発法人 特殊能力者研究所】である。

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