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缶詰と宝箱

 病室には沈黙が流れた。


 苗間は言葉を失っているというよりも僕の次の言葉を待っているという感じだ。

 それを受けて僕も黙っているのはやめた。


「僕が【力】を持っているのは多分間違いないです。小さい頃に調べてもらったらしいので。その辺のことは苗間さんも知ってますよね」


特殊能力者(タスク)】が現れ、それを研究する組織が現れた。

 彼らは科学的な視点から、人間一人一人が【特殊能力者】であるか、そうでないかを判断をする方法を知っていた。

 それによって人は自分自身が【力】を持つかどうかを知ることが出来る。


 出生届や住民票を出すように、【特殊能力者】の存在は管理することができるようになったのだ。

 研究所もそれができたからこそその地位を確かなものにできたといえる。


 今現在、生まれてくる子供は皆その検査を受けるという。

 それは別に危険な検査でもなく、出生体重などを計るようにすぐにわかることらしい。


 当然僕も生まれたときにその検査を受けた。

 そしてその結果僕は【特殊能力者】であることが分かった。


 しかし

「ただ、僕がどんな【力】を使えるか、それだけはわからなかったらしいです。いろいろと調べてもらったみたいですけど結局今日までわからず仕舞なんです」

 それは過去に例のないことだったらしい。


【特殊能力】は大きく3つに分類されるという。

 1つは干渉型

 自身の力を外部に出すことができ、物体などに影響を及ぼすもの。

 過去、超能力として知られていたものの多くはこれに該当する。

 念力(サイコキネシス)発火能力(パイロキネシス)がこれにあたる。

 過去超能力者と呼ばれた人の多くはこれに分類される。

 実際、【特殊能力者】の中ではこの系統が最も多いらしい。


 もう1つは感応型

 干渉型とは逆に外部の情報を力を使って自身の内部に取り組むことが出来るもの。

 記憶解読(サイコメトリー)などがこれにあたる。

 人や物体、動物などの記憶や残留思念といったものを読み取ることが出来るという。

 本人が知りえない過去まで知ることができるものもいたりとその力は様々な場面で使われている。

 しかしその力で見たもの、知ったものも結局は自分の言葉で伝えなければならないためその力の信ぴょう性が疑われることも多いという。


 そして最後が循環型

 これは先の2つとは異なり、外に影響を与えたり、外から何かを読み取るというものではなく、力の流れが自身の中で完結しているものをさす。

 予知(プレコグニション)第六感(シックスセンス)と呼ばれるものがこれにあたる。

 災害の夢を見たり、何かを感じたりと対象が現実に目の前になくとも力が発動できるのが特徴とされる。

 そして感応型が人や物の過去を見るとすればこの力の多くは未来を見る。

 この系統の【力】を持つものは珍しいらしいが歴史上、時折姿を見せる予言者などはこれだったのではないかとされる。


 研究の結果、力はこの3つに分類されている。

 個々人によってできること、できないこと、分類の中でもさらに特殊なものなどはあるが大きくはこの3種で【特殊能力者】は分類され、それぞれ力の制御の為に必要な知識やその力を使い方を人生の中で学んでいくのだ。


 そして僕は、

「真喜屋君は何ができる【力】を持っているのか、その部分はわからなかったというわけだね」

「そうなんです」

 苗間の言葉に肯定で返す。


 何とも間の抜けた話である。

 何かができる、とわかっているが何ができるかはわからない。

 開けられない缶詰を持っているようなものだ。


 ちなみにこのことを知っているのはそう多くはない。

 僕の家族や担任の足利も含めた学校の関係者くらいのものだ。

 特殊な事情のため一応はそれは伏せられているらしい。


「んー確かに珍しいことだねそれは」

 苗間はふむふむと何かを考えている様子だ。

 身の上話のようであまり面白いものではないと思っていたが真剣に聞いてもらえているようなのは嬉しかった。


「宝箱はあるけれどそれを開ける鍵はないってところだね」

「宝って程のものじゃ・・・」

「【力】を持って生まれたということにはきっと何か意味があると私は思うよ。真喜屋君も何かができる【力】を持っているよ」

「そう、なんですかね」


 僕の言葉に苗間はきっとね、と返してくれた。

「空の宝箱にわざわざ鍵をかける人間なんていやしない。今はわからない、見えないものだとしても、きっとその中には何かが入っている。そしてそれを開けられる鍵もきっとどこかかにあるはずさ」

 僕の眼をじっと見つめる苗間の言葉が慰めなどではないことはわかる。

 きっと彼女は本気でそう言ってくれているのだ。


 恥ずかしさと感謝とよくわからない感情がわいてきた。

「・・・ありがとうございます」


 赤の他人の僕にも関わらず、こうして真摯に向き合ってくれることにただ短い感謝しか伝えられない。

 苗間はただにっこりと笑ってくれた。


「さて、それじゃあ元気な真喜屋君も見れたことだし私は忙しい時間に戻ろうかなぁ」

 ぐっと少しわざとらしく伸びをして苗間は立ち上がる。

「すみません、お仕事だったのにわざわざ来てもらって」

「大丈夫だよ。真喜屋君のことが気になってきたのは私の方だからね」

 苗間は本当に僕のことを気にかけて来てくれたらしい。


「あの、榛名さんは研究所にいるんですよね」

「そうだね、今頃は疲れて寝てるんじゃないかな」

「いつか時間が出来たら会いに行ってもいいですか?」

 僕の願いに苗間は少し驚いたようだったが

「それはいいね。きっとあの子も喜ぶんじゃないかな?」

 にこりと笑うと、じゃあと小さな紙を差し出してきた。

 それは名刺だった。


「私の連絡先だよ。もし来るときはいつでもここに連絡してくれていいよ。寝てる時でも電話には出るようにしてるからね」

 あはは、と笑いながら苗間は部屋を出ていく。

「苗間さん、本当にいろいろとありがとうございました」

 助けてくれたこと、話を聞いてくれたこと、様々なことに対して僕はやはりそれしか言えない。

 苗間は振り向かず手をひらひらとさせながらドアを閉めた。


 途端にまた病室が静かになる。

 苗間の名刺に目を落とす。

  国定開発法人 特殊能力者研究所

  第3研究棟 研究主任 苗間 栞里

 名刺には名前と研究室の電話番号らしきものが書いてあった。


 苗間と入れ替わるように姉と看護師らしき女性が入ってきた

 看護師はあれこれと僕に聞いて何かにチェックをつけたかと思うとまた部屋を出ていく。


「じゃ私は学校に行くからね。あとでお母さん来るから一緒に退院の手続きして帰れるって」

 そういうと姉も荷物をまとめて帰りの支度を始めた。

 話を進めておいてくれたらしい。


「姉さん、ありがとう」

「?どうしたの急に」

「なんとなくね」


 今日何回目かの感謝の言葉。

 本当はもっといろいろと言いたいことがあるのだがうまく言葉にはできない。

 それでもこうしていられることに感謝したくなりそれだけは伝えたかった。

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