これは正義の話だ
これは正義の話だ。
一体何のことかといえば、僕が正義とは何かを考えたということである。
はっきり言って、それまで僕の人生の上には善も悪も存在はしなかった。
否、正確に言えば存在はしていたのだろう。しかし僕はそれを意識することなどはなく、ただ日常は平和で平凡なものと思って生きてきたのだ。
それはこの世界の多くの人がそうなのではないだろうか。
善とは何か、悪とは何か、そんなことを常に考え生きている人間はいるのだろうか。
例えば道にお金が落ちていた時、例えば前を行く人が落とし物をしたとき、ふと鳥肌のように正義感が走ることがあれどもそんなものは直ぐにどこかへ消える。そしてまたそんなものには無関心な日常にただ戻っていくのだけなのだ。
だからこそ、これは正義の話だ。
「よろしく頼むよ」
彼女は相変わらずの笑顔のまま、いつもの調子でそう言ってくる。
金色の髪が黒い空をキャンバスに輝くのもいつものようだ。
あの日、星を見た日と変わらない。
もう痛みはない。
涙の一つでも出てくれればいいものを僕の心は凪のようで、我ながらその冷静さには驚いてしまう。
胸が締め付けられるような苦しみも、胃がひっくり返りそうになる動悸も今はもうない。
彼女は変わらない。僕だって変わらない。
今日までこの日のことを思い心が痛み、嘆いた。自身の無力さと世界の無常さに行き場のない感情だけがあった。
しかし、結局のところこの瞬間に至って尚、僕はこれまでと何ら変わることはない。僕はやはり善も悪もわからないままなのだった。
己の人生を振り返る。
生まれてこれまで十数年間と決して長くはないが、その間善悪から目をそらしてきたわけではない。
なんてことはない。そもそもそんなものの存在があるとも知ろうとせず、それについて考えようとしてこなかっただけだ。
見方を変えればこれは僕が平和に包まれた人生を送ってきたということでもあり、その平和を作り上げてくれた周囲の人々には感謝をしなければならない。
――そう
だからこれは正義と――多分、罰の話だ。
そんなものは自身には無関係だと思い込み自分の世界は平和だと願ってきたその清算をしなければならない時が来た、ただそれだけの話なのだ。
「大丈夫。私は【いつか世界を滅ぼすもの】なんだから。きっと君は正しいよ」
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よろしくお願いします。