のりたまこ祖国の平和に貢献する
S氏が飯を食っているとき本国から指令が来た。
「飯くらいゆっくり食わせろよ」
悪態をつきながら本国からの指令、ラジオ放送に偽装した暗号文をメモする。
メモした暗号文を解読。
「えー何々。
丸〇屋ののりたまこを入手し、大至急本国に送れ。
のりたまこ?
のりたまって、この国の奴等が飯に振りかけてる物だよな?
飯のお供はキムチだろうが。
マッタク本国の奴等もこの国の文化に感化されやがって。
ま、命令だから買ってくるか」
近くの食料品店に行き店員にのりたまこが置かれている場所を聞く。
「すいません。
チョット教えてください。
丸〇屋ののりたまこは何処に置いてあるのですか?」
「〇美屋ののりたまですね。
此方です」
店員に導かれてふりかけが並んでいる一角に案内される。
「此方が1番売れている〇美屋ののりたまです」
「ありがとうございます。
あ! これ箱買いしたいのですがありますか?」
「お客さんも好きですね」
「実は外国に留学している友人に、送ってくれるように頼まれたのです」
「あ、そうでしたか。
1箱で宜しいですか?」
「うーん、どうせだから2箱お願いします」
「ありがとうございます。
おまけしておきますね」
S氏に指令を出したある国の独裁者に胡麻擂り1号が報告する。
「独裁者様! 遂に手に入れる事が出来ました!」
「ゾンビ菌の特効薬、丸〇屋ののりたまこを、か?」
「はい、その通りです」
「良くやった!
直ぐゾンビを用意しろ」
「かしこまりました」
独裁者の御膳でゾンビ菌特効薬の効き目を確認する実験が始められた。
「オイ! それで何袋目だ?」
独裁者の問いかけに、ゾンビにのりたまを食わせる指揮を執っている将校が敬礼してから返答した。
「此れが1箱目の最後ののりたまです」
「オイ! 1号!」
「は、はい」
「友好国から入手した情報では、のりたまこを1包食わせればゾンビから人間に戻ると書かれていたのに、どういう事た?」
「そ、それは………………」
「おそれながら申し上げます」
胡麻擂り2号が脇から声をかけた。
「何だ?」
「ゾンビに食わせているそののりたまと、ゾンビ菌の特効薬であるのりたまこは別物なのではないでしょうか?」
「何? どういう事だ?」
「特効薬はのりたまこです。
しかし箱に書かれている商品名は、のりたまです。
最後の一文字がありません」
「オイ! 1号、ぼ、僕に偽物を寄越したなぁー! 覚悟しろぉー!
2号!」
「はい!」
「こいつとこいつの家族を絶滅収容所に送れ!
それから! あの国に対しICBMを撃ち込まれたくなければ、のりたまこを全て寄越せと伝えろ!」
「仰せのままに」
そのとき実験室のドアがノックもされずに開け放たれ、親衛師団の高級将校1号が飛び込んで来て報告する。
「大変です!
隣国に駐留しているA国軍が、我が国との国境線に集結しています」
「何だとー!」
続いて親衛師団の高級将校2号が飛び込んで来て報告した。
「隣国国境だけではありません。
友好国である筈のR国とC国との国境線にも軍隊が集結しています。
それだけで無く。
下海はC国海軍に封鎖され、上海はR国極東海軍とA国海軍に封鎖されました」
「何が起こっているんだ?」
それに答えるように親衛師団の高級将校3号が飛び込んで来て報告する。
「ARC連合軍司令官から通信が入っています」
「読め!」
「今すぐ無条件降伏しろ。
降伏しなければ攻め落とす」
「何戯けた事を抜かしていやがるんだ!
直ちに人民を動員して軍と共に祖国防衛当たらせろ!」
独裁者がそう言った直後、建物を大きく揺らす爆発音が響き渡り激しい銃声が響いた。
親衛師団の高級将校の3人が部屋から出ていこうとしたが、通路から部屋の中に入って来た異なる迷彩服を着た十数人の兵士達に押し戻される。
「何だお前達は?」
「我々はARC連合軍の兵士だ。
ある国の独裁者だな?
お前を逮捕する」
「何故だ?
A国は兎も角、R国やC国は友好国ではないか?」
「分からないのか?
何処の国でもゾンビ菌の特効薬であるのりたまこを欲しがっている。
お前があの国を恫喝する前に、あの国が先に我が国を含む三カ国に泣きついたのだ、のりたまこの割り当てを増やす代わりにこの国を何とかしてくれと」
「僕や家族は処刑されるのか?」
「否、R国の大統領がお前とお前の家族及びお前の周りにいる腰巾着共の亡命を認めると言っている。
シベリアに別荘を建てて迎え入れてくれるそうだ」
因みに四方から雪崩れ込んだ連合軍がある国全域を占領するのに10日以上かかった。
連合軍部隊はゾンビに行く手を阻まれただけで無く、ある国の軍人と人民がとった行動により前進を阻まれる。
彼等は進軍してくる連合軍の各部隊の前に立ち塞がり口々にこう叫んだ。
「ギブミーチョコレート!」
亡命を希望して外務省に駆け込みある国の企みを全て語ったS氏は、外務省の食堂で食堂の小母ちゃん達が呆れ顔で見守る中食事をしていた。
「ハフハフハフ
のりたまは美味しいな。
ご飯が進むこと進むこと。
ハフハフハフ
小母ちゃーーん!
ご飯お代わり」
S氏はおまけで貰ったのりたまを食し、その美味しさに虜になって外務省に駆け込んだのであった。