問題篇
「あの……あなた様が探偵でいらっしゃいますか」
読んでいた小説から顔を上げると、制服を着た乗務員とスーツ姿の男が並んで私を見下ろしていた。
「いかにも。何か御用ですか」
「実は、内密のご相談がありまして」
不安そうな顔の二人に案内されたのは、車両の最も奥まったところにあるプライベートルーム。扉を開けると、品のあるジャケットを着込んだ男がソファに横たわっていた。だが寝ているのではない。後頭部は陥没し、どす黒い血痕が付着している。死んでいるのは火を見るよりも明らかだ。この蒸気機関車「SLヤマト」にはさる有名俳優がお忍びで乗車しているとの噂を小耳に挟んでいたが、目の前の死体がまさにその人物だった。私は、乗務員とスーツの男(被害者の付き人らしい)から「機関車が目的地に到着するまで事を荒立てたくない。ついては内密に事件の調査をしてほしい」と頼まれたのである。
複数の目撃証言により、被害者は乗車後に殺されたことが判明した。この機関車は途中停車しないから、凶器がまだ車内に残っているはず。だが、客室はもちろん機関室まで調べ尽くしたが血の付いた凶器はどこからも出てこない。窓から投げ捨てれば確実に客の目に触れる。
私はもう一度、遺体をよく調べてみた。頭部の傷口を観察していると、ある見落としに気付く。
「そうか。あれが凶器なら隠滅も造作ないし犯人も自ずと限られるな」
Q:「私」が推定した凶器と犯人は?




