問題篇
「男がひとり刺されて死んでいただけの、至極ありふれた事件です。ただ、ここに掛けられていたアメリカの国旗が盗まれたことが唯一の謎なのです」
鬼怒川警部は白い壁を睨みながら言う。その視線の先には、縦幅2メートルほどの長方形の日焼け跡がくっきりと残っていた。
「単純に考えれば、その星条旗に犯人を示す証拠、たとえば犯人の血液や皮膚片が残っていたとか」
「ご覧の通り、被害者はこの星条旗の掛かっていた壁から遠く離れたあちらに倒れていました。この壁付近で争った痕跡は認められません」
あちら、のところで星条旗の壁と反対側、目測で約4メートルの位置を指さす警部。
「つまり、私の仮説は成立しないということですね。そういえば、凶器もまだ発見されていないとか。星条旗はともかく、凶器に関してはそこから犯人の身元が割れるために持ち去ったと考えるのが妥当でしょう」
「我々もそう解釈していますよ」堅物刑事は煩わしそうに右手を振る。どうやら釈迦に説法だったようだ。
遺体が倒れていた場所に移動する。床には人型を象った白いロープがあり、胸の部分には赤黒い血溜まりが広がっていた。検視の結果、凶器は鋭利な刃物状のものということだが、遺体から凶器を抜いたのなら犯人は返り血を浴びた可能性が高い。
「ああ、なるほど。だから犯人には星条旗が必要だったんだ」
Q:なぜ犯人は星条旗を盗んだのでしょう?




