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鬼多見奇譚 弐 追憶の幻視  作者: 大河原洋
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戌亥神社

 気が付くと暗い部屋の中にいた。


 眼の前に人影がある、それが母だと気付くのにしばらく時間がかかった。


「どうだった?」


「わ、わたし……」


 何を言えばいいのだろう?


「言わなくていいわ。

 朱理が何を感じたか、何を考えているか、全てわかるから」


 そうだ、お母さんに隠し事は出来ない。


 ……お父さん、大変だぞ。


「人の心配はいいの」


 はい。


「口で話しなさい」


「はい。

 使いこなせる験力も、人を傷つける場合があるって事はよく解った……」


「玲菜と早紀ちゃんの事が気になるのね」


「うん……」


 お母さんは立ち上がると、本殿の外に出た。


 星の輝きが弱くなり、夜明けが近い事を知らせている。


 スマホを見ると、まだ午前五時を過ぎたばかりだ。


 あれだけ長い時間を過ごしたはずなのに、現実では一〇分も経っていない。


「玲菜は卒業まで口をきかないどころか、眼を合わせようともしなかった。それ以降は一度も会っていない」


 そっか、仲直りできなかったんだ。


「それだけ辛かったって事なのよ」


「早紀ちゃんは、氷室さんと元通りになったの?」


 お母さんは左右に首を振った。


「二人でよりを戻そうと努力したみたいなんだけど、結局別れたわ。

 早紀ちゃんが、氷室を信じられなくなったのよ。つまり、お母さんのせい」


「説明しなかったの?」


 振り返ると、わたしの眼をまっすぐ見つめた。


「出来なかったし、してもいけない」


「どうして?」


「験力の存在を知ったら、今度は早紀ちゃんが頼ろうとしたかも知れない」


「お母さんは、封印したと思っていたんだから平気じゃないの?」


「それは関係ないわ、『力』の存在自体が人間関係を破壊するの」


「でも、拝み屋をやっているなら、祖父さんと叔父さんの験力は知られているんじゃない?」


「依頼人の立場としてね。叔父さんたちはお金を取って験力を使う。

 でも、何でも請け負うわけじゃない。出来ない事は、出来ないってハッキリ断るの。

 親しい相手にはそうはいかないから、自然と人と距離を取るようになるのよ」


 そう言えば、叔父さんの友達を知らないし、そういった話しをしているのも聞いた事がない。


「お母さんも、験力を封印したと思い込んでから、友達が増えたし、結婚も出来た」


 ん? 封印していたから結婚できた?

 と言う事は封印されてないってわかった今は……


「だから、余計な心配しない」


「はい……」


「朱理に自覚して欲しいのは、験力を使いこなせるだけじゃ、誰も救えないって事よ」


「でもッ」


「叔父さんでも、由衣ちゃんを救えなかった。お母さんが、封印が偽りである事にもっと早くから気付いていたら、結果は違ったかも知れないけど、後の祭りよ」


 深く溜息を吐いて背を向けた。


「さあ、行くわよ。朝ご飯の支度、手伝って」


「待って」


 立ち去ろうとする母の背中を慌てて呼び止める。


「わたしは助けてもらったよ、叔父さんにもお母さんにも。

 二人がいなかったら、わたしだけじゃなく、凜と香澄、萩原先生も生きていない」


 お母さんは脚を止めた。


「そうね……」


 お母さんは手を顔に持って行って、何かをぬぐう仕草をした。


「ありがとう、朱理」


 振り返った顔に微笑みが浮かんでいた。


「それはわたしの台詞だよ」


 わたしはお母さんと手を繋いで、階段を降りた。


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