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賢くない脳筋の僕は拳で抵抗する  作者: 歌川 一太
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異常者

さあ、いってみよう!

異常者。

最近、世間を騒がせている異能をもった子供たちの話題が絶えず耳に入ってくる。

テレビのニュース、学校の話題、はては家族までもが日本を救うかもしれないという異常者たちの話で盛り上がっている。

正直、目障りで、耳障りでしょうがない。

「くそっ!」

高校一年春、神峰拳賭は入学早々のこの時期に問題を起こし、居場所を失っていた。


高校にあがった俺は、中学まで仲の良かったやつらとは別の学校になり多少の不安はあったが、中学まで続けていたバスケットボールを続けるためにクラブに入部したためそのうち友達もできるだろうと思っていた。

中学のときは県でもそこそこな強豪校であったため、一年ながらにレギュラーメンバーに選出され試合でもなかなかな活躍を見せることができた。ここまではよかったのだ。

監督や初心者から始めたやつらはなんのあくも無く俺の働きを称賛してくれたが、先輩や一方的に敵視している同輩たちからは声援どころか野次にも似た皮肉の声が投げかけられた。

そんなとき、事件が起こった。

それは練習中のことだ。体格が俺よりも一回りほど大きい二年の先輩が当たり負けし、盛大に吹っ飛ばしてしまったことから始まった。特に反則をしたわけでもなく、普通にリバウンドに飛んだだけなのに負けたからと言って難癖をつけられたのだ。しかも、質の悪いことにその場ではなにもいわず、練習が終わって監督が帰ってしまってから絡んできた。

「神峰、そこまでしてレギュラーを取りたいのか。あんな危ないプレーをしてけがでもしたらどうしてくれる」

は?

なにを言っているんだこいつ。

あの時、いいポジションをとった俺に対し無理やり飛び込んできたやつが何を言うか。

しかも脅しのつもりだろうか、関係のない二年生をぞろぞろと引き連れてじりじりと詰め寄ってきている。

「それはすみませんでした。気を付けます」

こういう人間の扱いには慣れている。下手に反抗的な態度をとれば今はよくても、この手の人間は後からねちねちと面倒な嫌がらせをしてくるのだ。

建前だけでも謝っておいたほうがあからさまに敵意を向けられずに済む。

「そうかそうか、それならいいんだ」

思ったとおり、それ以上は不機嫌な顔をすることはなく、むしろ勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「それじゃ、今回の慰謝料としてジュース買ってこい」

「え?」

「え、じゃねえよ。むしろ、あの場でむきにならずに練習を続行した俺の寛大さに感謝しろよ」

そんな自分本位なことをいいながら、そのあとは振り返ることもなく居残り練習をするでもなくまっすぐに部室へともどっていった。

ボールを抱きかかえ、まだまだ練習を続けるつもりだった俺は、

「まじか…」

しか出てこなかった。


自販機までいって買ってきたコーラを握りしめ、先輩が待っているであろう部室を目指していた。

こんな仕打ち納得はできないが、仮にも先輩に真っ向から逆らうこともできない。今後バスケットに打ち込むためにもできるだけ敵は増やしたくはないからだ。

「っていういか、怪我したからって練習しなきゃ意味ないじゃん」

納得いっていないゆえに愚痴がこぼれるが先輩たちのまえでは絶対に出さないようにしなくては。

部室が近づき二年の先輩たちとおぼしき笑い声が部屋の外まで漏れて聞こえてくる。

はあ、とっとと渡して体育館に戻ろう。

意を決して扉を開くと二年の先輩たちだけでなく、同じ一年のやつらも数人一緒になって笑っていた。

だからなんで練習しねえんだよ!

「おう、ご苦労さん」

にやにやと気持ち悪く笑い、俺が手に持っていたコーラをひったくるようにして奪い取った。

「流石まじめに走り込みしているだけにパシリの才能あるんじゃね」

「うわあ、そんな天才に敵わないっすわ」

お門違いも甚だしい悪意満点の嫌味をこの場のほとんど全員が口にしている。

努力もしてないくせに上手くなるわけないだろ。

一言くらい言い返してやりたかったが、俺の理性というストッパーがすんでのところで働いてぎりぎり踏みとどまった。

「じゃ、俺はこれで」

「おい、ちょっと待てよ」

「まだなにか。俺も暇じゃないんではやく練習したいんですけど」

おっと、あからさまに態度が悪かったな。ちょっと気を抜くとすぐ反発してしまう。

こんなことでは将来が思いやられるな。

「来週から中間テストですし、少しでもボールの感覚を忘れないようにしないと」

「一年でレギュラーに選ばれるような優等生はそんなもん必要ないだろ」

「それより俺たちの分のジュースも買ってきてくれよ」

は?

お前たちには後輩に負けたくないっていうプライドはあっても、努力しようっていう泥臭さはないのか。

「そんなんだから入部したての後輩にレギュラー取られるんすよ」

「あ?」

「先輩にむかってなんて口きいてんだ!」

「練習もろくにしないくせに先輩語んないでもらえますか」

額に青筋が浮かび、爆発寸前のホウセンカのような顔をした不細工な先輩ほか数名の一年。

あまりの意識の低さに憐みの感情さえ覚える。

こんな人たちと無理してまで仲良くする必要はないだろう。

「それじゃ俺は戻ります…!?」

踵を返しドアノブに手をかけたその時、背中に鈍い衝撃を感じ、力の勢いで開く前のドアに顔からぶつかってしまった。

痛っ…なにが

「あんま調子乗ってっと痛い目見るぞ」

ポンポンッ…

目の前に転がってきたバスケットボールを見て何が起こったのかを察した。

「お前…!」

高校生にもなっていきなり暴力に訴えるとはどこまでも幼稚な人間だ。しかも仮にもバスケ部の一員であるにもかかわらず、バスケットボールを投げつけるとは怒りで我を忘れそうだ。

「そうして這いつくばってるほうがお前にはお似合いだな」

胸ぐらをつかみ上げ、嘲るような気持ちの悪い目で見下す彼ら。なにか言い返したり、いっそ一発くらい殴ってやろうか、と思ったが無駄に働く理性のせいで増長する怒りは行き場を失って血管がいまにも切れそうだった。

いまここで暴力事件を起こせば下手すれば停学、よくてもチームそのものが大会への出場停止や部活停止などの処罰を受ける可能性がある。

そうなれば試合にでない二年たちは知ったことではないだろうが高校総体に向けて三年間練習を続けてきた三年生が不憫すぎる。

強く握りすぎた拳は爪が食い込んで血が出ている。そうしている間にも部室内にいるほとんど全員が俺に向かって罵詈雑言を吐き続けている。

そしてあまりに大人しくしていた俺がおびえてしまったのだと勘違いしたのかさらに調子に乗った目の前の先輩が今日一で狂ったことを言い放った。

「よし、こいつの腕潰しちまおうぜ」

「なっ!?」

流石に冗談だと思ったが、周りの反応がその言葉を冗談から遊びに変えている。にやにやと全員が気味の悪い笑みを浮かべ近寄ってきて、拳賭を取り囲んだ。

「やめろ!頭おかしいんじゃないか!」

「いいだろ、お前の腕がなんで二本あるかわかるか?一本なくなってもどうにかするようにだよ」

「ふざけるな!」

こいつらの言う潰すという表現がどういうものなのかはわからないが、なくなってもなんて例えでも言うやつらだ。折るくらいのことはするかもしれない。

もし腕が折られたら、バスケットなんてまともにできるはずがない。

不意にそんな未来を想像し、怒りの感情から一転、言いしれない恐怖が俺を支配した。

一つまた一つと握られていく自分の右手を眺め、どんどん増幅していく恐怖が理性というストッパーを破壊した。

「やめろぉぉ!」

あまりの恐怖でバタバタと右手を振り回し抵抗するがさすがに三人につかまれた腕を振りほどくことができるはずもなく、吹き飛ばした。

まるで漫画のように大げさに吹き飛んだ先輩たち。これは正当防衛だのなんだのいちゃもんを付けられるパターンだと思ったが、どうやらそうではなく本気で苦しんでいるようだ。

「は?」

よく見ると彼らの腕はおかしな方向を向いている。どうみても骨折だった。


今回の一件で二年生の先輩が病院送りになり結構大きな問題になった。

幸い彼らが暴行の常習犯であったため俺の正当防衛は信じてもらえたが腕を振り払っただけという言い分だけは誰一人として信じてくれなかった。あの場にいた一年たちは見ているはずなのに、なぜか殴りかかってきた先輩を俺が腕をへし折ったということになってしまった。

そしてそれがどこから広まったかは知らないが、翌日にはクラス内のほとんどの人間がその話をひそひそとしていた。

部活自体にとくにお咎めはなかったものの、先輩の腕をへし折った危険人物として扱われることになってしまった。

最初のうちは監督も気にする必要はないと言ってくれていた。しかし、どこから広まったのか保護者の間でバスケ部は治安の悪い部活動だという噂が広まってしまい、今回最大の被害者である俺は泣く泣く退部を余儀なくされた。

そのうえ、クラスでも浮いた存在となった俺はヤンキー扱いされ、見事学校内で孤立することになりました。


「こういうの見るとイラっとする」

いままで電波だの中二病だのと後ろ指を指してきたやつらが、使えると知った途端にこれだ。厳禁というか手のひら返しというか、ここまであからさまに態度を変えるとは。

あれからというもの学校には行きたくないし、家にも居づらいしどこにも気が休まる場所がない。

それでもこのご時世、中卒でも就職には困らないといわれてはいるが一度入ってしまってから退学したのでは中退の烙印が一生ついて回ることになってしまう。

「俺が何したっていうんだ…」


そろそろ学校につくという頃、校門前に黒塗りの高級車が止まっているの気が付いた。よく見ると黒いスーツにサングラスといった、いかにも堅気ではない方々がわらわらと何かを探しているようだ。校門を通る生徒一人一人に強面の方々が声をかけている。

なんだあれは。

なるべくかかわらないようにしよう。

顔を背け気づいていないように装って、人の波に乗じて校門をくぐることにした。

「すいません。少しお時間よろしいですか」

失敗した。

まあ、俺を探しているわけでもあるまいしさっさと話しを終わらせて教室へ向かおう。特にやることも話す相手もいないけど。

「神峰拳賭さん、でいらっしゃいますか?」

ごつい声で呼ばれたのが自分の名前だと気づくのに二秒以上かかったが、彼らがなぜ自分を探しているのかは何秒かかってもわからなかった。

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