世界樹
小中学生レベルの筆力しかないので何卒ご勘弁ください。
二千XX年ある日の夜、ヨウタは国民ゲーム最新作のトラクエをようやくクリアした、もう寝ようとベッドに向かった。
「やっぱりファンタジー冒険ゲームは面白いだな。そんなファンタジーワールドが存在するかな」ヨウタはつぶやきながら、ベッドの上に横にした。
「世界樹よ! 俺の願いを聞け、次元の門を開き、虚空を突破し、このヨウタを異世界に連れていけ」ベッドのそばに通販で購入したミニ盆栽に中二病みたいなセリフを口にした。
きれいな七彩の葉っぱを持つ盆栽だが、ヨウタの言葉に応じるわけがない。
「こんなにきれいなのになんで単品だろう」ヨウタは電気を消した。
連合王国ドラン南部都市サンパの魔法学園。ここは魔法素質のある人達しか入学できない教育機関である。
平民でも貴族でも出身を問わず、才能があれば入学はできる。でも才能だけでは話が進まない、なぜなら学費の面には平民や下級貴族にとって厖大な数字である。
それにしても、誰でも可能の限り魔法学園に入学する。
無事に卒業すれば、平民でも下級貴族ーー騎士のような地位を得ることができる。
卒業成績が良ければ、下級貴族が上級に昇進する可能性が大きくなる。
最悪の場合でも錬金術士工房に就職し、豊かな給与がもらえる。しかも万が一、人気ポーションなどの新発明ができたら、想像もできないぐらいお金が儲けられる。
魔法師になれば、豊かで、幸せな人生を送れる。高利息の借金を負っても入学する。だって卒業したら、十倍も二十倍もお金を稼げる。
でも今夜は学費一文も払っていない人が魔法学園の女子寮に現れた。
「変態だ、誰か」お風呂上がりのリュナは自分のベッドに寝ている男を見つめながら絶叫した。
その声が寮内に響き渡ったが、すぐに来る人はなかった。
「へぇ? 変態だって? どこに?」まだ眠気が強いけど、ヨウタはあくびしながらに起こされた。
「お前だ」リュナは即座に答えた。
「バカを言うな、ここは俺の部屋だ、お前こそどうやって入ってきた」ヨウタは反駁して周りを見渡す。見たことない部屋だ。決して自分の部屋ではない。天井に光っている宝石みたいなものでも、壁に飾っている彫刻でも、ここは違う部屋のことを明らかにした。
眠気は一瞬に覚ました。目の前に警戒している女の子を見つめる。
小柄の体つきでポニーテールをしているブロンドの女子、肌色の白さは雪にも負けないほど美しい。特に尖っている長い耳がファンタジー小説に書いてあるエルフの特徴だ。
「これ、ドッキリ番組? カメラはどこだ?」誰かのいたずらだろう。寝ていたときに、知らない部屋に搬入され、コスプレイヤまで用意した。ヨウタはまだ諦めていない。
「ドッキリ番組ってなんのこと? この変態! 訳がわからない事を理由にすれば、逃れるつもり?」
「ちょっと待って、俺は確かに自分の部屋に寝ていたが、どうしてここに寝ているのはさっぱりわからない」ヨウタは事情を説明した。
「そんな言い訳が信じるもんか、もういい加減にしろ」いつの間にリュナが杖を持っていた。
「ユグドラシルよ、私の力になり、私の前にある敵を拘束せよ、ソオニ・インテングル・メント」呪文を唱えた。
ベッドから突然にイバラが生まれ、ヨウタの体に纏い付く、ヨウタはどんなにあがいても効果がない。
手足は完全に動けなくなった。足がきつく締められたため、安定性が崩れ、やがて顔が天井に向けてドンと倒れていく。
「何を騒いでいる?床に倒れているのは誰だ」このとき、一人の女が部屋に入ってきた。
「リーフ先生」リュナは振り向くと、後ろに立っているのはメガネをかけてる教師制服姿である人。知性のある顔つきで緑髪美人だった。
「この男、私の部屋に潜り込み、そしてベッドに寝ていた」リュナはリーフ先生に事情を話した。
「!」リーフ先生はひどく驚いた顔をした。
「リュナ、下がって、早く」
リュナは茫然たる顔でリーフ先生の後ろに退いた。
「あなたはいったい何者? 疫病神なのか、こんなに持っているとは前代未聞のことだわ」リーフは何か恐ろしいものを見ている顔をした。
「俺の名はヨウタ、タイジュヨウタ、寝起きしたら、もうこの部屋にいた、病気などはないけど」横にしているヨウタは自己弁護をした。疫病の話について心当たりはまったくない。
「後で徹底的に調べるわ」リーフ先生も手に杖を持って詠唱を始める「大地の精霊グノームよ、その力を私に貸して、眼の前にある邪悪なるものを追い払え、プレグ・ディスプス」疫病駆除魔法を使った。
黄色の一線光が杖先から発射する。ヨウタが黄色の光に浴びた。浴びた瞬間に呼吸すらできなかったが、すぐに呪文が終わった。
リーフ先生は掲げた杖を下ろした。
「これですべての疫病を払った」緊張感いっぱいの雰囲気がやっと緩めた。
「あなた、その真っ黒な髪そして黒い瞳、この世には見たこともない人種だね」リーフ先生はヨウタの様子を見つめている。
「私はこの男を特別個室に連行する」リュナに話した。
「今は動けないだけど」ヨウタは自分の状況を強調した。
「それを解いてくれ」
「危ないかも」
「私はついている」
リュナは嫌な顔をしたが、呪文効果を解除した。
「手を前に」リーフ先生はまた呪文を唱えた。やっと解放されたヨウタはまた両手が土塊に包まれ、手錠みたいに掛けた。警察に捕まったように部屋から出た。
部屋の外はもう十数人の女の子が集まっている。痴漢と見なされるだろう。当然のことだ。女子寮の部屋から出てくる男はどう見ても犯罪未遂の容疑者に違いない。
「あのエルフの部屋から男が出た?」
「ろくなことがないね」
この十数人の集まりに一人の少女がヨウタの注意を引き寄せた。
凜々した顔立ちを持ちながら、可愛い金髪のツインドリルが肩にぶら下がっている。立ち姿だけを見ても上品そうな感じで、いわばどの学校でもある高嶺の花を担当する存在である。
しかし今の彼女の表情は微妙なものだ。それはがっかりしながらも安心した顔だった。
彼女は疑問を含んだヨウタの目線に気づき、慌てて目をそらした。
「皆は自分の部屋に戻れ、あなたたちには関係がないことだ」生徒たちはリーフ先生に叱られ、速やかに部屋に戻った。
「あなたも早く付いてきなさい」リーフ先生は催促した。
ヨウタは頭を下げて足元に専念した。
5分間ぐらい、目的地に着いた。小さな部屋、金属のドア、窓にも鉄格子が付いてる。照明は星が照らしているわずかな光だけで暗い部屋だ。
ここは校則違反した学生の反省用特別個室である。ヨウタは個室に閉じ込められた。
「明朝、学園長は直に事情聴取する。それまでにおとなしくすること」リーフ先生は警告したあとでドアを閉めた。
ドアの外から詠唱の声が聞こえてきた。
「大地の精霊グノームよ、今はその力を私に示せ、サモン・ゴーレム」たくさんの土塊が空に現れまた一つになり、大人ぐらい大きさのゴーレムが組み立てられた。
「この部屋は出入りを禁ずる」ゴーレムに命じた。
部屋の中、土塊手錠の所為か、ヨウタはなかなか落ち着けられず、部屋の鉄格子窓を通して外を眺めた。
夜空の星たちはきれいだが、月は見えない。│天の川《銀河》も人生初めて見た。
夜空の中心にある星が他の星よりずっと明るくてキラキラしている。なぜかその星をじっと見ると胸の鼓動が激しくなった気がする。
やっぱりここはもう地球ではない。変な気持ちを抑え、ヨウタは今日の二度目にベッドに向かった。
「俺は夢を見ていただけだ、目覚めたら、もう自分のベッドに戻った」ヨウタは自分を慰め、ベットの上に眠りついた。
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魔法都市アルゼン、この都市にはさまざまな魔法商店や錬金工房があふれている。
多彩な魔法効果のあるポーションを売っている店もあれば、魔法道具や魔法武器を売っている店もあり、世の中でよく見られる魔法の杖や魔剣がここにも数々。
様々な魔獣もあちこちに見られるが、道を歩いて話をする魔法師たちは街の風景の一つである。
ここではお金があれば、どんな魔法の品物でも買うことができる。それに十分なお金さえ持っていれば、たとえ伝説の古代巨竜でも、深淵の魔物でも買える噂がある。
でもこの都市のシンボルマークといえば、それは魔法協会の本拠地、都市の中心地で空に聳えている壮大な石造大尖塔である。
この塔はもう魔法協会の象徴になっている。大尖塔の最上部、星望台に二人の魔法師が星空を眺めている。
一人は二十歳前後の若い女性で、もう一人は白髪と長い白髯の神々しい老人。
「会長、もう休みの時間だ、早く戻ろう」若い女性は声を掛けた。
「アデルよ、君はわしのもとで魔法を勉強したもう何年目だ」老人の目がぼんやりになっていた。遠い昔のことを思い出したようだ。
「私は5歳から魔法学園に入学してから間もなく会長に認められ、会長の弟子になり、今年はもう12年目になった」
「君は魔法の素質がある天才だから弟子にするのは当然なことだ。来年の君は王国の最年少八階魔法師になるだろう、同じ年齢のわしよりずっと強いわ」老人は笑顔で賞賛した。
「すべては会長の教習のおかげだ、会長のレベルにはまだまだ遠い」アデルは謙虚な口調で答えた。
「君に十分な勉強時間を与えさえすれば,君がきっともっと高いレベルに達することができると信じているが,残念なことだ……」老人はため息をついて言った。
「どういうことなのか、会長?」ちょっと意味は取れないアデルだ。
「アデルよ、来年の昇進試験が終わったら、南へ行ってこい」
「なんで?」
「そのうちにわかる」
「やっと現れたな、神の使いが」老人は夜空の中央にキラキラしているある星に見つめながら小さな声で呟いた。
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獣人王国の王宮の奥には、休息の時間であるにもかかわらず灯がともり、大司祭が緊急事態を王に報告していた。
「確認はもう済んだか?」
獣人王は自分の席に座って、厳粛な表情をしており、首に獅子のたてがみような金色の髭が王の威厳を強調した。
「南にいるはずだ」大祭司は同じような表情をしていたが、何か目で媚を売っている気がする。
「では、誰を調べに行かせる」
「適当な言い訳をしたほうがいい」
「すでに考案があったようだ」
「見学及び来年の食糧取引交渉することを理由に王女を使者として連合王国に訪問する」
「危険ではないか」
「私は王女と南に同行する。いざという時でも必ず王女の安全を守る」
「だめだ、やはり危険すぎる」王は首を横に振った。
「実はこの提案は王女自身の意見である」
「彼女はすでに知っていたのか?」
「今日、王女は獣神殿で勉強していた」
「ならば、お前に任せる」
「仰せのままに」
「ふん、今回の事件につてい、聖都のやつらはどう反応するか」
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大陸の中央に、シルフェラという巨大な割れ目がある。大昔の神魔戦争の時に残されたものだという。割れ目の奥に地獄がつながっているという説もある。
この割れ目は大陸を二つの部分に分けた。北は獣人が王国を作り、南では人類、妖精、ドワーフからなる連合王国である。
この二大勢力のほかにも、シルフェラからちょっと離れたところに教会の信者たちによって作られた神聖都市サレムという特殊な存在もある。
都の中心部にある教会大聖堂の奥には、まだ神の体が保存されているといわれている。
今夜の教会は、普段の静かな姿ではなく、何か重大な事件が起こるのを待っているようだった。
教会の密室にある派手な法衣を着た神官の姿をした人が、急いで部屋を守る騎士に尋ねていた。
「レオナ副団長、神の使いの様子はどうなっている?」
「アンリ様、目覚めの兆しは見えない」 白い騎士の鎧を着た女が答えた。
「我々の考えが間違っていたのか。これから法王様に報告する」と言ってから、そのまま密室を出ていった。
アンリは法王の就寝した部屋の外でドアを軽くノックし、法王の同意を得て部屋に入った。
「アンリ卿、今はどういう状況だ?」法王はまだ眠っていない、落ち着いた顔で席についたまま、最新の情報を待っていたが、椅子の手すりにしがみつくのは緊張感を示していた。
「聖下、神の使いは目覚めの兆しは何もない」アンリは最新の情報を法王に報告した。
「我らは本当に間違っていたのか。新たな神の使いが誕生する?」流石に法王でもは一瞬の間に迷いしたが、すぐ気を取り直した。再びきりっとした顔つきになった。
「調査に騎士隊を派遣するか?」
「いや、聖体が我らの手にあるだけで十分だ。必要なことは我慢して待つだけだ。転機はいずれに来るだろう」
「では、待機している神官たちは?」
「待機を解除する、必要な人数だけ残しておけばよろしい」
「御意」
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夜が明け、朝になり、木漏れ日は地面に降り、人々をそっと眠りから目覚めさせた。太陽の日差しが大地を覆い、人々に暖かさをもたらした時、すべての人は新しい一日の生活が始まったことが分かった。
昨夜の女子寮では、特殊な事件があったにもかかわらず、魔法学園の生徒たちはいつものように起床して、また新しい一日の勉強の準備を始めた。
ヨウタの部屋のドアが外から開かれ、誰かがのぞきこんできた。
ヨウタはまだ寝ているのを確認してから「もう起きる時間だ、この服を着替えてから、園長のところへ連れて行くわよ」彼に声をかけました。
「もう起きる時間なの」どよめきを聞いたヨウタは目を閉じたまま、そばに置いておいたはずの携帯電話を探し、時間を確認しようとしていた。
結局、彼は探り続ける行為を放棄するしかなかった。仕方なく、あくびをしながら目を開けて、自分の携帯電話がどこにあるのを確認した。
部屋の配置を見ているうちに、頭からすぐ冷や汗が出てきた。
昨夜のことは夢ではなく、本当に未知の魔法の世界に転移された。
手に掛けた土塊の手錠が消えたのを確認した。そしてドアの外に立っていたのは昨日の先生らしい女だった。
ヨウタは急いで立ち上がって、そのローブのような服を身につけて、ドアへ向かった。
「どこで歯磨きできる? トイレにも行きたい」ヨウタとリーフ先生に要求した,昨晩は眠すぎて何も感じなかったが,いまはもう我慢できなくなった。
「おまえの要求が多いな,歯磨きとはネズミかよ、あなたが?小便ぐらいは我慢しろよ,もしかして逃げようとするつもり?」リーフ先生はの眉間にしわを寄せた。
「それから、朝食はどこだ。もうおなかが空いた、もし尋問される時、おなかがぺこぺこで何も思い出せなくなると、学園長の質問は答えられないぞ。それはまずいだろう」ヨウタはリーフ先生の表情を気にせず、引き続き新しい要求を出した。
「あなたがそこまで言うなら、もういいわ。これからトイレに連れてやる、朝食はその後で食堂でとる、終わったら学園長に会いに行く。しかし、何か不審な挙動があったら、厳しい処罰になるわよ。」
ヨウタが頷いて部屋から出ていく、ドアの外で突然に気づいたのはリーフ先生のほかに一匹のゴーレムが立っている。
ゴーレムの目のところには瞳ではなく、黄色の炎が灯っている。その目でが彼を見つめていた。
「うわっ」とヨウタは地面にどんと座り込んだ。びっくり仰天した彼がかろうじて起き上がって立ち直った。
「何だこれ、ゴーレムかよ? 急に現れ、びっくりしてもう漏れそう」
「ん? あなたはどこでこんなものを?」リーフ先生はヨウタがますます怪しいと思った。
「たくさんあるよ、テレビゲームとか」
「またそれか、わけがわからないことばかり言って」こんな質問をしても、リーフ先生はキリがないと思って、ヨウタに急いでくれと促した。
「今はトイレに行くんだけど、ついてくるつもり?」ヨウタが尋ねた。
「このゴーレムはあなたの監視役、もしあなたは何か変な行為があるならば、その時には少し痛い目にあうことになるわよ」
他の生徒に影響を与えないように、リーフ先生は教職員専用のトイレを選んだ。
彼女はドアの前で立ち止まり、ヨウタにゴーレムを後つけて、トイレに入らせた。
ヨウタはトイレの内部を眺めて観察した。まず入り口に女性の像があった。両手で水差しを抱えて水を注ぐような動作をした。水差しの下には洗面台のようなものがある。
奥に入ると便器があり、壁の上には小さな窓があり、室内の空気を臭くないように外から空気が流れてくる。
しかし空気を吹き込むことができても、ヨウタはそこから這い出ることはできない。体はそんなに狭い窓をくぐることができないからだ。
ましてゴーレムがヨウタの後ろに無言で立っているのはいうまでもない。その巨大なプレッシャーが具現化した重りのようにヨウタにのしかかっている。
彼は脱出するような行動をとることが全くできなかった。
「まだなの?今はどうなってる?」 催促の声が聞こえてきた。
「もうすぐ終わるよ、ここには蛇口がないの?」ヨウタは手洗いをしようと思ったが、水が出る場所は発見できなかった。
「蛇口とは何なんだ?」リーフ先生は、このヨウタのやつは面倒すぎるだと思った、よくわからない言葉ばかり言うからだ。
「あの、手を洗いたいだが、水がない」ヨウタが簡潔に言った。
「入口のウンディーネの石像の手に持っている水差しに魔力を注ぐと水が出てくる」
「魔力なんて持っていないよ」ヨウタは言葉もできなくなった。
「本当に困った奴だ、じゃ、入るわよ」リーフ先生は中に入って石像の水差しに指差した。しばらくすると水差しの口から水が流れ出し始めた。
「早くしろ」リーフ先生はまた出て行った。
ヨウタは急いで手を洗い,また手で水を受けて一口飲んでみた。水温が少し低い以外、味は普通の水と同じである。
やがて水差しからの出水が止まった。洗面台に溜まった水もパイプを通して排出された。ヨウタが水差しの口に近づいて内部を見てみるとなにも入ってない。今の水は完全に魔法のおかげで現れていた。
ヨウタが手を拭いてトイレを出ていった。
「普段の生活施設には魔力が必要なのか?」彼はドアの前で尋ねました。
「そうとおりよ、ここは魔法学園なんだから、外ではそんなに便利じゃないんだよ」リーフ先生は淡々と話していたが、口調には隠しきれない誇りと優越感がある。
魔法師とはそういう二束三文のような安いものではない。ごく一部の運がいい人たちが魔法の才能があるから、彼らはこの大陸のトップに立っている。
「普通の人間が利用したいときは、何か方法はないか?」
「普通の人間も使えるようにするには、錬金術士が製造中に錬金道具に魔力を補充できる位置をつける必要があり、魔石をはめて、魔石のエネルギーで動かすことができる。エネルギーを使い果たした後で、新しい魔石を取り替えればいいのだ。しかし、その費用は一般人が負担できるものではない」リーフ先生は詳しく説明した。
「それは不便だな」ヨウタとは生活施設が普通の人に便利でないことを指している。
「だから誰もが魔法師になりたいんだ」リーフ先生はヨウタの言うことを理解していなかった。
女子寮を出た後、二人はゴーレムも加え、短くない廊下を通過した後、またいくつかのドアをくぐって、ようやく一つのホールに出た。食堂だった。
中には長いテーブルがいくつか置いてあった。テーブルの両側には座席がある。
この頃、学園の生徒たちは皆ここで食事をしていた。
ヨウタが食堂に入ってきた瞬間、みんなが一斉に視線を向けた。彼の後ろについていたゴレームがあまりにも目立つので、気づかれずにはいられなかった。食堂にいる人たち、男も女も皆ささやきを始めた。
「あいつが昨夜女子寮に忍び込んだと?」
「彼はどうやって気づかれずに入ったのかよ、チャンスがあれば俺もやって見てぇ」ある男子生徒が下品な顔をして言った。
「もうよせ、借金の返済まだ終わってないだろう。見つかったら終わりだ。その時に退学させられ、お前の両親に叩かれるだろう」もう一人は遠慮せずに嘲笑った。
「待て、あいつは今まで見たことがないような気がする」一人の男子生徒が非常に合理的な判断をした。
「彼は学園の人間ではないかもしれない」一人の女子生徒はもう真実を発見した。
ヨウタはみんなの視線から出たプレッシャーを背負いながら、急いで給食用窓口まで歩いていくと、眼の前に食事を済ませて、食器を返しにきた女子生徒のことを気になった。
なんか見覚えがある気がする。彼女はヨウタのことに気づいたら、すぐうつむいて,彼のそばを慌てて通りすぎた,まるでヨウタは災難をもたらす疫病神のようだ。
ヨウタはやっと思い出した、彼のそばを通り過ぎたのは、昨夜の女子生徒の群れで目が合った女の子ではないか。
「俺はほんとうに痴漢じゃない」ヨウタは苦笑した。このとき、学園の全員が知っていたと思う。目の前にゴレームがついているやつは、昨夜女子寮に忍び込んだ人だ。
給食窓のようなところから、ヨウタは今日の朝食をもらった。銀製の食器には、厚切りのパンとベーコンが数枚ある、パンの上には目玉焼きが二つを乗せている、また牛乳のような乳製品が一杯置かれている。
ヨウタの腹がもうペコペコだから、パンをがぶりと食べた。いつも食べているパンほど柔らかくないが、濃厚な麦の香りが鼻の中に充満している。
「ジャムやクリームはないのが残念」パンを食べた後、目玉焼きも口に入れた。
鶏の卵とは味があまり変わらない。ただ、いつものものより少し新鮮で、味も少し良くなる感じだ。ベーコンは基本的に同じ味である。
ちょっと食べ早すぎた所為か、息が詰まってしまったヨウタは、急いでミルクを飲み、食べ物を胃袋につぎ込んだ。飲んだミルクは柔らかくて甘い、幸せ一杯な気持ちがヨウタの口に満ちている。
「満足だった?」
「美味かった。残念ながらチョコレートソースがないんだ、俺はパンを食べる時それを塗るのが好きだけど。こんなにきれいな銀製の食器もは初めて使った」ヨウタは満足そうに話した。
「また聞いたこともないものを」リーフ先生はヨウタの正体を見抜くことを諦めた。
先程ヨウタはとても楽しそうに食べていたが、驚いた顔はない。
食材はいかにも高級品ではないが、下級貴族でも毎日食べられるものではない。一方、ヨウタの反応は不条理であった。
もしもヨウタが普段では黒パンと野菜スープしか食べられない平民だとすれば、食事をしたときの余裕が嘘じゃない。ごく普通の朝食を食べたようなものだ。
もしヨウタが身分を隠した貴族であるとすれば、彼がものを食べていた様子は農夫や筋肉労働者のようなもので、あんまりにも自然な動きなんで、演技とは全く見えないのである。
そして彼は時々口にした訳のわからない名詞も、たとえ高級錬金術士であってもわかるはずがないだろう。
「では、次は学園長に直接会いに行くけど、昨夜のことを素直に話したほうがいい。うそをつくようなことをするな,そんなことはここでは通用しないから」
「拷問するつもり?」服が剥がされ宙に吊るされ、執行者が鞭を持って白状をさせようとするのを想像してみたら、ヨウタが怖くなってきた。
「そのうちにはわかる」リーフ先生は肯定も否定もしなかった。
「私刑は犯罪だ」ヨウタは抗議した。
「学園の女子寮に忍び込んだ時はもうとくに犯罪だ」 リーフ先生は皮肉った。
「いや、俺はなにもしてないぞ。あれは勝手な想像に過ぎない」ヨウタの顔は真っ赤になっていた。
「ふん」と笑ったリーフ先生はもう話を続ける意欲が無くなった。
二人はゴレームとともに校庭と教室を通り過ぎ、やがて二階建ての建物が前に現れた。
玄関には魔法師の姿をした二人の像が立っている。一方はグリモアを手に持って、もう一人は魔法杖を持って遠くを見ている。
リーフ先生は玄関でゴレームに魔法を解けた。ゴレームの目にあった炎が消え、骨を失ったかのように体が崩れ、ボロボロと石ころになって地面に落ち、消えていった。
二人が扉の前を通ると同時に、魔法師の像が杖とグリモアから光が発射して二人の体に当て、数秒間後、何もなかったように光が消えた。
ヨウタは慌て立ち止まり、自分の上から下までを触ってみたが、ようやく自分に異常がないことを確認した。リーフ先生は扉の前にまっすぐに来て、ノックするのが見えなかったが、扉が自ら開いた。
「今のは何なんだ」ヨウタはまだ不安になっている。
「あれは防御魔法だ、もし強行侵入しようとすると、さっきの魔法に囚われる」
二人が順番に入った後、扉は再び閉め切って、内と外を隔てるようになった。
リーフ先生は一階に長く留まらなかった、そのまま二階の学園長室までにヨウタを連れて行った。
「リバス学園長、例の男を連れてきた」リーフ先生はドアを軽くノックしてから言った。
「入って」 女の声がした。
「はい」リーフ先生はドアを開けた後、ヨウタを先に入らせ、彼女はヨウタの後に部屋に入った。
部屋の中にはいくつかの書棚を除いて、机の後ろに三十歳ぐらい赤い服をした女が座っている。また彼女のそばには、青い服をした同じぐらい年齢の女が立っていた。
「リバス園長、カリプ副園長。彼は昨夜、リュナの部屋に現れた男だ」 手を胸に頭を下げて一礼した後、リーフ先生はヨウタを園長の前に連れて行った。
「ようこそサンパ魔法学院へ、昨夜は楽しんだか」机の後ろに座っていた女性が、ヨウタにむけて冗談のように言った。
「彼女は魔法学院の園長なんだろうな」炎のように赤い髪をしていて、真紅の目がルビーのように輝き、真っ赤な唇に人が惹かれる。きれいな小麦色の肌も健康な匂いに満ちている。露出度が高い深紅の魔法師服は、彼女のプロポーションを取れた体、特にしっかりした胸をより一層引き立たせていた。彼女の吐息も竜息のような熱気で、彼女の目の前に立っていたヨウタが、猛烈に燃えている炎の前に立っているように感じられた。
「まあね」ヨウタは息が詰まりそうだ。
「俺の前に座っているのは炎竜なのか?」リバスのオーラが、ヨウタに重苦しい圧迫感を与えた。
「他に問題がなければ、これから尋問を始める」リバスのそばに立っていた女性がヨウタに向かって言った。
「こちらが副園長ね」ヨウタは彼女を眺めた。
彼女は目を閉じたままヨウタに向かって話をした。彼女とリバスの姿は正反対で、青い長髪は腰まで垂らしていた。同じく青い魔法師服を着ていて、頭と手以外の肌をしっかりと服の下に覆われ、服に飾られた模様は地味で奥ゆかしい。彼女の落ち着いた顔を見ると、なんとなく気持ちがリラックスになる。まるで自分が静かな湖のほとりに、静かで穏やかな雰囲気を楽しんでるようだ。
カリプの手には犬のような小動物を抱いていた。
小犬の体に鱗片が生えていて、頭の上には角一本があり、奇妙な姿をしていた小犬だ。
ヨウタは好奇な目で小犬を見ていたが、犬の目と合わせたら、ヨウタの目がぼんやりになり頭脳の反応も鈍ってきた。
小犬の目線が自分の心の奥まで届いているような気がした。カリプが彼に尋問を始めた時に声をかけたら、ヨウタはびっくりして目が覚めた。
さっきは丸裸になったような気がしたヨウタは気分が悪くなった。
「この犬は伊達じゃない」ヨウタは思った。
カリプは小犬を抱きながらヨウタに尋問を始めた。
「名前は?」
「明石」
「嘘だ」
「実は北野だけど」
「また嘘か、次はカモリだといいたいのか」カリプの顔には何の表情もない。
「俺の考えを見透かしたの?」
「調査に協力をお願いする」表情が見えずに言った。
「大樹陽太」
「まこと。年齢は」
「もうすぐ二十歳になる」
「まこと。職業は」
「今は学生だ」
「まこと。仕事は」
「勉強だろう」
「まこと。魔法については」
「できるわけがないだろう」
「まこと。ならばどうやってリュナの部屋に忍び込んだの?」
「目覚めたときはすでに居たよ」
「まこと......うそ、本当に?」かリプはちょっと驚いた。
「何があったのか知らないけど、もしかして、あるつまらないやつがいわゆる召喚魔法で俺を呼んできたかもしれないな」
「坊や、魔法はそんな簡単なものじゃない、特に召喚系の魔法は誰でも使えるものではない。不注意でエビスの悪魔や異次元のバケモノを呼び出してしまったら、自分の命をなくすだけではなく、国にも酷い災難をもたらすかもしれない」リバスは反論した。
「メディヴのように?」
「聞いたことがない名前だ。彼はとんでもないモンスターを召喚した?」
「まあね」ヨウタは汗をかきながら言った。
「あなたは自分がここにいることに気づく前に、何か特別なことをしたことがある?」
「寝る前に願い事をしたんだが、ゲームにしか存在しない異世界に転移する願いを」ヨウタは記憶にはこれだけが特別だと思った。
「話したことは本当だけど、あなたには魔力がないから、願いの効果であるはずがない。これはまさに不可解なことだ。」
「それは考えすぎだぞ、やっぱりこの学園にある誰かやっただろう。それをよく調べてみよう」ヨウタは自分の観点を堅持した。
「あのリュナはうちの特待生なんだから、彼女が校則を破り、寮内でこんな危険なことをするわけがない。しかも当時の情報では、彼女自身も驚いていた」リバスはまた反論した。
「リュナという女の子がここに来てから、どのくらい経ったの? 学園には人気はどう」ヨウタはある可能性を思い出した。
「ん? 彼女は特殊な理由で、一ヶ月前に魔法学園に転入したのだが、生徒たちには人気がいいよ、あんな可愛い女の子がどこに行っても男子生徒の目を引くのよ」 カプリはヨウタの質問に答えた。
「学園長のほうが男の目を惹きつけるだろう」ヨウタはひそかに思った。
「その可能性があるのではないかと推理しよう。ある女の子はリュナが来てから、学園の男たちを惹きつけたことに不満を抱いていた。リュナの寮にわざと召喚魔法の罠を仕掛け、タイミングを見ながらモンスターを呼び出してリュナを攻撃する。もしリュナの顔に傷ついたら最高な話だ。こういうパターンはもう聞き飽きた」ヨウタはこういう手口は何十何百も見た、ゲームでね。
「!! 確かに君の言ったとおりだ、今かすぐリュナの部屋をもう一度調べてみる。魔法の痕跡を確かめよう」
「かしこまりました」カリプとリーフが返事をすると同時に、ドアにノックの音がした。
「リュナだけど、園長はいるのか?」外からリュナの声が聞こえてきた。
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同時刻、女性寮リュナの部屋で、ある者が何か大切なものを探している。テーブル、棚、タンス、ベッドの下までも探していた。物が至る所に散らばっている。
この招かれざる客は隅々まで確認したが、目標が見つからなかった。今回の目的が達成できないことを確認した後、この客人はすぐに部屋を出ず、椅子に座り込んで目標の行方を考えるようになった。
目標の大きさでは、持ち歩くのに不便であるはずだ。しかも非常に貴重な品物であり、他人に託すことは不可能である。まとめた条件で推測すると、あれは何か特別な方法で隠しただろう。
一体はどういう方法なのか、長い時間をかけて考えたが,まだ何の手がかりもない、諦めて出かけようとしている時。部屋の外から足音が聞こえてきた。
「!! 予想より早く戻ったか」部屋に隠せる場所は存在しないから、残った選択肢は窓から飛び降りて逃げるか、来る人を倒して逃げるか、この二つしかないが、通常の場合だったら。
しかし、そのとき、想定外の一幕が現れた。
その人の身体がどんどん闇となり、影となって、部屋の隅にある闇に溶け込み、自分の気配を消してしまった。高級魔法師でなければ、彼の存在を見破ることは極めて不可能である。
ちょうど姿を隠したところでドアが開いた。二人の女魔法使いーーリーフ先生とカリプ副園長が入ってきた。
「どうしてこんなに散らかっているのか、誰が入ってきた」リーフは部屋の中が散らかっているのを見た。
「ある人は部屋の中に物を探していたようだが、見つかったかどうかは分からない。あの男が言ったように、何者がリュナに手を出そうとしているのかもしれない」カリプは部屋の中の状況から判断した。
「魔法の痕跡を探そう?」リーフがカリプに確認した。
「調べてみよう、何かあるかもしれない」カリプは自分の精神力に集中し、体外に放出された魔力は彼女の体を中心に円状で拡散させ、ゆっくりとリュナの部屋を覆っていく。もし部屋の中に彼女に異なる魔力があるとすぐに感知されるはずだ。
彼女は部屋の真ん中に立ち、外に放出された魔力が徐々に部屋のタンスや机などの家具をカバーしていくが、何も得られず、ベッドの下にも魔力が満たされるまで。
「ベッドの下に魔法の反応がある」カリプは状況をリーフに伝えた。
「分かった、ベッドを移動する」リーフはまたゴーレムを呼び出してから、ベッド全体を移動させた。ベッドの下には、神秘的なルーン文字が刻まれている小型魔法陣が現れた。
「誰かここに魔法陣を設置した。この程度の魔法陣では、小さなモンスターを通過することができる。魔力はもう僅かなものだ」カプリは魔法陣がもう危険がないことを確認した上で、魔力をゆっくりと体内に収まった。
魔力が完全に体内を取り戻そうとしたとき、隅にある影が稲妻のような速さでカリプの裏を取るように、部屋の隅からカリプの背中にまっすぐに飛んできた。
カリプは危機を全く感じていなかったように、ベッドに置いてあった地面の魔法陣に向かって考えているような顔をしていた。
影の速度は驚くほど速い、まるで熱い刃でバターを切り裂かれたかのように、カリプの体が影の右手に貫かれた。
いくら高級魔術師であっても、体に穴を開けられると死ぬに違いない。影は一撃の後、闇が彼女の体から抜け落ち、彼女の本来の姿を現した。
影の中から現れた生物の姿は人間の女性に似ていて、手足も首もあるが、人間と最大の違いは彼女の後頭部にある。大きくはないが、曲がっている目立つな角が彼女の額まで伸びている。目と唇を除いて、彼女の体のは深夜のように漆黒である。
「魔族!」リーフは驚いた。
「ふん」リーフが言ってた魔族が、かるく笑って、リーフに手を出そうとした。
しかし彼女の手はどんなに力を入れても、カプリの胸から抜けられない。
重傷を負ったはずだが、カリプの胸から、血が一滴もなかった。
魔族を背けたカリプが徐々にぼやけ始める。最終的に流水で構成された人体が現れた。
「ウォーター・エレメント!」魔族はこれが罠だと気がづいた。
彼女にやられたのはカリプ本人ではなく、水のエレメントを使って自分にそっくりの変わり身を作ったのだ。
「まさに大漁だな、魔族が現れるとは」ドアの外にカリプの正体が現れ、ウォーター・エレメントを制御して、魔族が胸を貫いた右手をしっかりとつかんだ。
同時に魔族の女に向かって魔法の水牢を放った。魔族の女を完全に禁錮しようとしていた。
魔族の女は自分が罠から抜けられないことが分かったとき、ためらいもなく左手で右腕をまっすぐに切り落とし、空から降りてきた水牢に捕まえられる直前に、部屋の窓を押し開けて地面に飛び降りた。
「待て! 魔法水弾砲・連撃」カリプのウォーター・エレメントが一瞬のうちに水玉となって宙に浮く、砲弾のように叫びながら、魔族の女に撃ちだした。
残念ながら、発射された弾は一発も命中せず、地面に数十の穴を残した以外は何も得られなかった。
魔族の女は、着地するとすぐ闇になり、建物の影に潜り込んだ。たちまち彼女の姿を失った。
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園長室で、リュナは昨夜のヨウタの悪行をリバスに訴えていた。女性エルフのベッドに寝込みなんて、人間の男の恥だ。
「お嬢さん、これ以上俺を誹謗したら、訴えるよ」ヨウタは平気で頭を抱えて、窓のそばにもたれかかっていた。
園長室で、リュナは昨夜のヨウタの悪行をリバスに訴えていた。女性エルフのベッドに寝込みなんて、人間の男の恥だ。
「お嬢さん、これ以上俺を誹謗したら、訴えるよ」 大樹は平気で頭を抱えて窓のそばにもたれかかっていた。
「あなたを中傷したって?この変態が,よくもやったことが認められないとでも言うのか」
「俺は先程、自分の潔白を証明したぞ。俺がお前のベッドに現れたのは誰かさんの所為だろう」
「森林の子で、次任の族長である私が嘘をついていると?」
「お前のことは言ってないよ。男に飢えている誰かさんが、こっそり魔法を使って、俺をそのベッドに移動させ、よくもやったことが認められないわね」
ヨウタはでたらめなことばかり言っているので、リュナの怒りは一層高まった。彼女は突然に魔法杖を出して、ヨウタにもう一度懲らしめようとした。
「吾が森の子の名において、ユグドラシルの力を持って、吾が前にある敵を拘束せよ、ソオニ・インテングル・メント」昨夜と同様に、ヨウタの周りに大量のイバラが現れ、再びヨウタを拘束した。
「吾が森の子の名において、吾が命令に従え、吾が敵を滅ぼす。サモン・ツリアント」唱えた呪文のともに、リュナの前には歩くことのできる一本の木が出現した。
「助っ人を呼ぶなんて、卑怯だ」ヨウタはこれがまずいと感じていた。
その樹人はとても弱そうだけど、身丈も自分の腰までしかなかったが、今はしっかりと縛られていて、逃げることも反撃もできない。
「行け、叩いてやれ!」リュナは樹人に命令した。
「もういい、ここは喧嘩するための場所ではない」リバスは事態の拡大を止めた。
リバスが指を鳴らした、一瞬のうちに炎はヨウタの全身を覆っていた、イバラは瞬く間に炎で灰になってしまった。炎が消えてから確認すると、ヨウタの毛の一本も焼けていない。リバスの魔法制御力が想像以上に怖い。
「!! うわ、さっきが死ぬかと思った、御姉さん、先に言ってよ、こんなに危険な魔法を使うなら」ヨウタは衣服にもう存在していない炎を叩きながら、すばやく机の後ろに隠れて樹人の攻撃から逃げた。
「そういう話し方なら、この部屋に服が焼けた、まる出しの男が現れるわよ」リバスの言葉でヨウタはすぐに口を閉じた。
「リュナはそのために来たの?」
「はい、まだ見当はつかない」
「何かを間違えたではないか」
「そんなはずがない。ユグドラシルの説諭が明白だった。この世界に勇気と知恵と力を持つプレイヤーを手配した、これから発生する世界の危機を解決してくれる」リュナは諭しの内容を語った。
「このプレイヤーはどういうジョブだ、普通は勇者ではないか」リバスもさっぱりわからない。
「お前が探している人の名前はセルダじゃねー?」逃げ回りをしているヨウタは、勇気、知恵、力を持った人を探しているのは、かすかにしか聞こえていない。そこでまた思わずツッコミを入れてしまった。
「どうやら裸になりたいの?」リバスは笑顔で、ヨウタの顔を見ていた。
「そんなことはない。断じてない」ヨウタが注意を引かれた時、樹人が追いかけてきた。ジャンプしてパンチを入れる、ヨウタの膝に強く当たった。
「樹人ではなくホビットかよ?」方手で膝を撫でながら、もう一方の手で樹人の頭を押さえた。樹人の手足は長さが足りず、ヨウタに届くことができなくて、その場で空振りばかりした。
「では、どうすればわかる? 誰があなたが探している人?」
「その人が近くにいる限り、これで彼の魔力を感知できる」彼女の指にはめた洗練された指輪の中から何かを取り出した。
「空間アイテム!! 流石に次任のエルフ族長、金持ちだな。この次元指輪にはたくさんのジニを使っただろう」リバスは驚いたようにリュナが持っている指輪を見ていた。
「実は、これが族長からもらったものなんだが、内部空間も十立方ペレだけなんだよ」リュナはまるで些細なことを言っているようだった。
「こういう小物は超レア品で、少なくとも八階以上、しかも空間系魔法が得意である錬金術士とレベルがプラチナハンマー以上の鍛造師と協力しなければ、作れないだろう。八階空間系魔法師がどれだけ珍しいかはともかく、必要な材料だけでもかなりの費用だろう。これを手に入れた魔法師が全大陸にも少ないわよ」リバスは再び感嘆した。
「族長の話によると、昔、エルフ一族の居住地、つまりエルフの森の奥に、ある日、すごく強い一人の錬金術師が訪ねてきた。彼女はこの次元指輪で一族のタカラ――生命の実を交換した」リュナは自分の耳にした言葉をリバスに話した。
「命の実!! あの実を結ぶの何百年もかかる、寿命を延長できる果実のことか?」
「寿命の他に、食べた人の体質を少し改善して、精神力の限界も突破できる」
「それにしても、この指輪の価値は、命の実を超えてるよ」
「族長の話によると、あの錬金術師の寿命は僅かなものらしいので、この指輪で交換したいと」
「なるほど、命の方がジニより大事だから」
彼女たち二人の会話に、ヨウタは一言も耳を貸さず、次元指輪から出されたものをじっと見つめている。
「何てことだ、あれが俺の物じゃないか。何故彼女の手にある?」ヨウタの頭は混乱していた。二人の驚きを無視して、リュナが持っていたものに向かってに飛びかかったーー彼が通販で購入したその盆栽に……なぜなら、この盆栽は彼がこの世に現れた理由なのかもしれない。