おもい
この物語は完全なフィクションです。
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彩希が部屋に戻ったあと謙治はその場に立ち尽くしていた。
やってしまった…
なんであんな言い方をしたんだ…
シンクに溜まっていたお皿を洗いながら謙治は自分自身をせめるように考えていた。
ずっと仕事でほとんど寝てなくてイライラしてたから?そんなのはただの言い訳だ。それをあいつにぶつけるのはお門違いも良いところだ。
あいつはただ心配して言ってくれただけなのに…言うべき事は他にもあっただろうに…後悔しても後悔しきれなかった。
部屋に戻っていく彩希の顔には涙が浮かんでいた。その顔がずっと頭から離れなかった。
どういったらあいつに許してもらえる?その事だけを考えていたらいつの間にか朝になっていた。
あいつはもう起きているだろうか。
彩希の部屋の扉の前まで行く。扉には鍵がかかっていた。
「…起きてるか?」
扉の前で恐る恐る聞いてみる。
時間は7時前だった。もうじき出ないといけない。でもこのままほおってはおけなかった。
目が覚めた頃は6時半だった。布団もかぶらず倒れるような形で寝てしまってたんだろう。
起きてすぐ夜中の事を思い出した。
あいつはしんどいなかああやって色々してくれてる。それに引き換え私は家でいてずっと休んでる。そんなやつが無茶しないでなんて言ったところでどう思うかなんて明らかだったじゃないか。ただ…それでも心配位したっていいじゃないか。やっぱりこんな私に心配なんてされたくないのだろうか…あいつも私を病人扱いしてよそよそしくなるんじゃないのか…
疑心が膨らんでいく。
どうせあいつももうこの家にはいないんだ。私が寝ている間にどこかいっている。
考えれば考えるほど心が悲鳴をあげているのがわかる。
でも止められない。そんな時、
「…起きてるか?」
謙治だ。まだこの家にいたんだ。
何を言う気だろう…
私は扉にもたれ掛かるように座った。
たぶんこれで起きてるってわかったんだろう。
「夜は…悪かった。」
言葉につまりながら言ってきた。
「きつい言い方しちまった…」
鬱になる前ならあれはきつい言い方ではなかったんだと思う。それに私は謝って欲しいわけではない。そう、ただ…
「ただそれ以上にありがとう。心配してくれて。ほんとはこれを一番に言うべきだったし言いたかった。」
そう謙治は謝るときよりも力づよく言ってきた。
あいつが私の事を心配してくれるのと同様に私もあいつの事を心配している。それをわかってくれたんだ。
言いたいことは、いや、言わなければいけないことは言い切った。すると
「なんでそんなにふらふらなの?」
部屋から声が聞こえてきた。
白状するしかないか。
「仕事で全然眠れてなかったんだ。」
「…2つ約束守って。1つ、無茶しないでちゃんと寝て。2つ、今日も仕事でしょ。甘いもの…買って。ケーキ。チョコのやつ。遅くなるなら無理しなくていいから。」
「わかった。もう無茶はしない寝るときはしっかり寝るよ。今日はご飯一緒に食べよ。その時甘いもの用意しとく。」
1つ目のは破ったらダメだな絶対に。そう強く心に誓い部屋を後にする。
「行ってくる。」
そう言って玄関に向かうとき後ろから"行ってらっしゃい。"と言う声が聞こえてきた。
振り返ると扉から顔を半分だけだした彩希が見えた。
俺は笑顔で手をふり玄関を後にした。
謙治を見送ったあと私はキッチンへと向かい冷蔵庫の中をみる。中にはお皿が4つ入っていて、夜用のお皿のラップに紙が張ってあった。
"サババーグ、今日は一緒に食べよう"
サババーグか…普通のハンバーグでもいいのに…
ただあいつが作るサババーグだと悪い気はしなくなっていた。