文化祭当日(鏑木一斗の場合)1
正解なんて、誰も教えてくれない。
だからこそ、もしかしたら人間は他者との共存の中で悩み、生活しているのかもしれない。
結局本当に千花は寝させてくれず、オレは言わなくて良いことまで話すハメとなった。
しかしその時間が形容しがたい気持ち、感情に枠を付け、そしてある1つの結論に辿り着くこととなる。
一晩明け、遂に当日ーー。
「それで、結局なんて言うの?最後のセリフ」
皆がホームルーム真っ只中の時間、なぜか一斗は華絵と無人の文化祭を周っていた。
特に約束などはしていない。
強いて言えば、彼女は1人校門で一斗の到着を待ち構えていたのだ。
表現に間違いはない。待っていたのではなく、獲物を捕らえるハンター同様、待ち構えていた。
「別に何でも良いだろ」
「えー、ケチー。なになに、そんなに言えないことなの?」
「そうじゃないけど…なんていうか、言うなら本番だけにしたいんだよ。言葉に軽みが出ちゃうというか…」
「ふーん…。そーですか、さいですか。雪丘さん以外には退部の話しなかった非情な人の割には、随分とロマンチックなことを言うんだねー」
「え…?あれ、柳本さん、なぜそれを…」
「私だけじゃないよー。みーんな知ってる。あ、でも雪丘さんが能動的に言ったわけじゃなくて、聞き出したんだけどね」
予想だにしていなかった展開に、一斗は文字通りしどろもどろだった。
「えーと、その件については、その…いずれ話そうかと…」
「分かってるよ。どーせ柄にもなく、変な気でも使ったんでしょ?たとえば…文化祭の間はせめて、楽しく終わって欲しい!みたいな?」
相変わらずの勘の良さである。
「いや、そういうわけではーー」
「はいはい、下手な言い訳は無用です。退部しようってのだって、一斗くんのことだから、どーせ縁のない馴れ合いに不安を感じたんでしょ?……ま、いずれにしても言わなかったことに変わりはないんだから、それは反省してください」
彼女には何もかもがお見通しということか。
「はい…」
「素直でよろしい」
華絵は一斗の頬を人差し指で小突く。
「他の皆んなは、怒ってたか?」
「んー全く。それより今は、一斗くんが退部を取り消す方向になってるかな」
「……はい?」
「いやぁ、ごめんね。私が言ったの。雪丘さんが劇に
出てさえくれれば、なんとかなるって」
「なぜに?」
「でも実際、前は違うとしても今はそうでしょ?彼女に伝えるべき言葉が見つかったから、そんな晴れ晴れした顔をしてるんじゃないかなって」
正直な話、全て彼女の言う通りだった。
オレ的には覚悟をしたつもりで雪丘に退部の話を持ちかけ、そして文化祭が終わるのと同時に皆んなから距離を置こうと考えていた。
それが正解だと、あるべき姿だと思ったからだ。
でも昨晩千花と話をして、一度全部自分の行為を客観的に見つめ直すことで気づいてしまった。
これまでの人生で不要だと判断してきた他者との繋がり。
自分以外の人間への興味関心。
向こうがどう思っているかは分からない。
だがオレにとって国家促進部という場所、そして彼女たちとの出会いは、少なくともこれまで捨て置いてきた人間関係とは別物だ。
もう既に、簡単に、一方的に、切れるものではなくなっていた。




