ラブコメ馬鹿に幼馴染を添えて! 3
足早に、まるで逃げるかのように明宮は立ち去る。
いつも元気で弱気なところなど見せない彼女にしては珍しい態度だ。
「ねぇ」
「なんだ?」
「アナタ、彼女と知り合いみたいだったけど」
「あぁ、一応幼馴染だからな」
おそらく明宮が俺のことを下の名前で呼んだことが気になっていたのだろう。
「ふーん…でも幼馴染ってわりには、アナタたちが会話してるところなんて見たことないわよ。むしろ今が初めてじゃないかしら」
「まぁそーだろうな。なんせ俺たちは住む世界が違うから、そもそも話す機会が生まれねーよ」
実際に声に出してみると、なかなか情けないセリフだ。
「これが漫画と現実の違いなのね…。せっかく幼馴染なんていうラブコメに欠かせない要素があるのに。いや、単に対象がアナタなのがいけないのかしら。せっかくのチャンスも干からびてしまうのね、きっと」
「なんとでも言え。それより、本当にこのままアイツを引き入れるつもりか? なんかあんまり、感触が良くなかった気がすんだけど」
すると雪丘は俺に対し、「何言ってんだコイツ」といった表情を向けてきた。
「もちろん、勧誘は続けるわ。彼女みたいな人材はラブコメにおいて主軸になってくるもの。確実に確保しておきたいわ。だけどその前に、解決しなきゃいけない問題があるみたいね」
「解決しなきゃいけない…問題?」
「全く、愚鈍もここまで来ると苛立ちしかないわね。彼女たぶん、アナタのこと好きよ?」
「……え?」
「加えて、交友関係のないはずの幼馴染がなぜかクラスメイトの女子と行動を共にしている。これはもう、勘違いと誤解で彼女の心は不安定極まりないでしょうね。だからなんとかして誤解を解く必要があるわ。私のためにもね」
「ちょ、ちょっと待てよ。いきなり雄弁に何を言ってるんだ? 明宮が俺を好き? 誤解をされてる? もっと順序立てて説明をっ…」
雪丘はポケットからスマホを取り出すと、少し弄ってから画面を突きつけてきた。
「これ、私の連絡先。明宮さんを確保するためにも、まずは誤解を解くのが先決よ。そこでアナタには、彼女をデートに誘ってもらって事情を説明してもらうわ。都合よく明日は土曜日で学校も休み」
「デ、デートって…。よくわからんが、普通に今から後を追って説明するんじゃダメなのか?」
「これだから恋愛経験なしのチェリーは。今日はおそらく、いつ会いに行っても忙しいからってはぐらかされるわよ。誤解を解くには日を跨ぐのが一番なの。明日のデート、私がしっかりサポートしてあげるから安心しなさい。詳しいことは、後でメールするから」
なるほど、それで連絡先の画面を見せてきたのか。
「言っとくけど、私がサポートするのは明宮さんという有能なラブコメ人材を確保するためよ。彼女がアナタに気があるからって、そこに関しては興味ないし、手助けもしないから調子にのるんじゃないわよ」
「るせぇな…わかってるよ」
とは言ったものの、男子というのは単純だ。
いくら雪丘に釘を刺されようと、根のない噂でも言われてしまうと気になる。
俺はそんな心を雪丘に探られないように、どうやってデートに誘うかを考えることにした。