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ラブコメ馬鹿に青春を添えて!  作者: 夜次太陽
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文化祭当日(恋の場合)

改めて思う。


まさか自分がこんな大勢の前で、しかも主役として劇を演じているなんて。


きっと一生で一度、今回限りの出来事だろう。


というかそうしたい。


まぁ、自分から志願したので仕方ないとは思うが、どうやら当初と目的が変わってしまったようだ。


オレからのセリフを待つ雪丘を前に、今が劇の最中だということすら忘れてそんなことを考えていた。


少し視線を広げれば、他の国家促進部の面々が向こうの袖からこちらの様子を伺っている。


少し沈黙が長くなってしまったか。観客がザワつき始めたのが聞こえてくる。


「ねぇ、ちょっと」


「うん?」


「うん?じゃないわよ。まさかセリフを忘れたわけじゃーー」


まさか、忘れたわけがない。


これから初めて声にするこのセリフは、当初から内容を任されていたものだ。


強いて言うなら、今朝方に決まったばかり。


倉科には伝えてある。


柊伝いで、雪丘にも伝言を頼んだ。


()()()()()()()()()()()()()()()ただオレが言うセリフを聞いておいてくれと。


「エライザ、オレはーー」


文化祭の熱に当てられただけかもしれない。


舞台に立つということで気が大きくなっていただけかもしれない。


それでもこのセリフがオレの本心でもあり、劇に沿ったものになったのだ。


一斗はその言葉を目の前の世那、そしてその後ろで見守る5人の国家促進部のメンバーに向けて、心の底から伝えた。




--------------------






文化祭当日、午前7時00分。


使用人として働く以上、平日だろうが土曜日だろうが、起きる時間は変わらない。


既に1時間半前には起床し、身支度を整えていた柊恋は、主人の様子を伺いに彼女の部屋へと向かう。


「せなさま、あさです」


「…入って良いわよ」


「しつれーします」


部屋のなかには、制服に身を包んだ世那の姿があった。机の上にたった一枚だけ写真が飾られているのだが、どうやらそれを眺めていたらしい。


いつも念のためにという名目で主人を起こしに来る恋だが、今まで学校がある日に起きていなかったということはない。


「おはよう、恋」


「せなさま、おはよーございます。あさごはんが、できてるとのことです。きょーは…」


くんかくんかと、まるで匂いを探る犬のように、恋は辺りの空気を嗅いでいた。


「きょーは、あさからばいきんぐけーしきみたいです。いろんなかおりで、かぎわけられない…」


「2人しかいないのにバイキングなんて…。今日って何か特別な日だったかしら?」


「うーむ………あぁ、そーいえば、おもいだした」


「何を?」


「せなさま、ぶんかさいだからって。せいこうを、まえいわい?するといってました」


「……全く、文化祭に前祝いも何もないわよ。まぁ良いわ、顔洗ってくるから、先に食堂行ってなさい。あと他の使用人たちに、今日は私たち全員で朝食取るように伝えておいて。余ったら勿体ないから」


「しょーちです」


表立っては出さない、これが彼女の優しさだ。


恋がメイド長に一連の話を告げると、そうなる気がしていたと彼女は微笑み、他のメイドも集合させて改めて話をした。


その傍で、アホ毛の彼女だけは料理のラインナップを確認する。


完熟トマトの冷製パスタ、小分けにされたマルゲリータ、ラタトゥユ、カルパッチョなどなど。


どれもこれも、ほとんどが世那の好物であるトマトを使った料理だった。


「恋、お嬢様のご機嫌はどうだった?」


「つーじょーうんてん。もんだいなしです」


補足するなら、通常運転に()()()()という表現になる。


少し前までは見るからに不機嫌な様子で、学校が終わるや否や直帰していた。


だがこの前一斗を除く国家促進部の面々で集まってからは、多少毒気が抜けたらしい。


あとは大元の原因である鈍感ボッチに全てを委ねるしかない。


「よし、それじゃあ皆んな卓を囲って。世那お嬢様をお迎えするわよ」


メイド長の掛け声から間もなくして、世那が食堂に姿を現わす。


いつ見ても完璧な容姿に、多くのメイドたちが唾を飲み込む。起きたばかりの姿をを美女度100%とするなら、顔を洗い完全に目覚めた彼女は120%を優に超える。


『おはようございます、世那お嬢様』


「えぇ、皆んなおはよう。早速朝食にしましょう」


主人と使用人が肩を並べてバイキングを楽しむ。


こんな朝も悪くはないかもしれない。


自分もそろそろと、取り皿を手にしようとしたとき、制服のポケットにしまっていたスマートフォンが鳴った。


鏑木一斗からメッセージだった。


朝から一体なんだろうと、恋は少しドキドキしながらアプリを開く。いずれこの気持ちにケリを付けなければいけないだろう。


『おはよ。柊からさ、ちょっと雪丘に伝えておいて欲しいことがあるんだけどーーー』


「………もしかしたら、ばんじかいけつなるかな」


普段無表情のアホ毛メイドの頬が、つい少しだけ緩む。


『今日の劇の、最後のセリフなんだけどさ。雪丘はただオレのセリフを聞いててくれって伝えておいてくれ。たぶん直接メッセージ送っても、あいつ見ることすらしなそうだから』


そんなことはない。


返事はしないかもしれないが、見るには見るはずだ。


その理由に彼が気付けるかどうかは、また別の話ではあるが。


恋は『りょーかい』とだけ返信をし、今度こそ食料探しに繰り出した。

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