ラブコメ馬鹿にボッチの決意を添えて!16
「相変わらず屁理屈が上手いね」
「そりゃどうも。誰にだって得意分野はあるんだ」
「君は、もう少し素直になるべきだと思うけど」
「素直って美味いのか?」
「味の優劣じゃないよ。ただ鏑木くん、君が素直にならない限り素直になれない人もいる。それだけは覚えておいた方が良いだろう。でないと、馴れ合いを避けるためのはずの行動が、大きな誤解を生むことだってある」
こいつ……。
「オレが馴れ合いを好まない限り、お前は味方なんじゃなかったのか?」
一斗は敢えて雅樹に合わせるように会話を続けた。
「そうだね、そのスタンスを変えるつもりはないよ。ただ馴れ合いと信頼を見誤ると、取り返しのつかないことになる。僕が期待しているのは、君がその見極めができるかどうかさ。彼女たちのためにも、僕と同じようにはなって欲しくないからね」
「おい、それってどういう…」
アンニュイな表情の雅樹を見逃さず、一斗が核心に迫ろうとしたその瞬間、長らく忘れていた人物からの邪魔が入った。
「あれ?雅樹全然練習してねーべ?なにか面白いことあった?」
「何でもないよ哲也。練習前に鏑木くんと意思共有を行ってただけさ」
飄々とした立ち回り、絶対に自分なら嫌だと思う長めの髪型、そして必要以上に着崩した制服と、何も考えていなそうなお気楽な雰囲気。
クラスメイトだ、姿は見る。確か明宮と同じグループのやつで、いつも立岡にくっついているーーー。
「潮田なんとか…」
「おおいっ、なんだよ急に!名前呼ばれたの初めてじゃね?つか、話すのも初めて?だいぶ面白くね?」
「いやすまん、微塵も笑える要素はないんだが…」
思わぬ乱入者の登場により、そのまま立岡との探り合いのような会話は終わりを告げた。
途端に手持ちぶたさのようになったオレはすることもなく、一先ず台本でも見返すことにした。
どこかを集中的に確認するわけでもなく、ただ全体をざっくりと、そこそこの分厚さを感じながらページを捲る。
アイツ、これをもう全部暗記したってのかよ。
オレだってある程度は覚えている。
だがそれは毎日練習をしていたからであって、覚えるというよりは染み付いたという表現が近い。
ただ台本に目を通しているだけでは、とてもではないが暗記できる自信などなかった。
そのときふと、一斗のなかに違和感が生まれた。
練習もせずに覚えられるはずのない台本を、どうして彼女は暗記できたんだ?
ヒントを探ろうと、一斗は6人の部員たちの練習風景に視線をうつす。
今はどうやらクライマックスのシーンのようだ。
さすがに毎日練習をしているため、立ち回りや雰囲気でどの場面かは何となく分かるようになっていた。
雪丘とオレ、つまりミライザとジギンズが最後に会話を交わし、お互いの真意を確認するセリフ未定の、あの場面だ。
迷いなく自信満々に演技をする世那を見て、一斗は全ての疑問が解けた。
そうか、だからアイツは…。
気付いたからといって、オレが彼女に何かをしてあげられるわけではない。
仮に適切な言葉を投げかけたとしても、それはオレの自己満足に過ぎない。
だから何も言わず、一斗は台本にはまだない世那のセリフに合わせ、誰にも聞こえないように口を動かしてみる。
あとで柊に確認するくらいなら良いだろう。
彼女が自宅で自主練をしていたか否かを、本人に聞く権利などオレにはなかった。




