ラブコメ馬鹿にボッチの決意を添えて! 11
「無理してこの体勢でいなくて良いんじゃないか?……背伸び、辛いんだろ。震えてるぞ」
つま先立ちで壁に手を当て身体を寄せる柊は、今にもこちらに倒れてきそうだった。
生まれたての子鹿のように小刻みに震えているのに、顔は無表情のまま変わらない。
生粋のポーカーフェイスだ。
だがやはり辛かったのか、彼女は何事もなかったかのように体勢を直した。
「それで、話って?」
一斗は、そんなこと聞くまでもないことは分かりきっていた。
雪丘のメイドなのだから、アイツ自身が何を言わずとも、雰囲気が変わったことを感じ取っているに違いない。
だから俺はてっきり、そのことについて聞かれるものだと思っていた。
「うん。このさいなので、きくけども」
さぁ、どう言い訳しよう。
「おう」
「わたしのこと、すき?」
「………はい?」
予想の斜め上どころか、天井を突き破っていった。
「キスしたでしょ、なつやすみ」
「え、えぇ、まぁ」
「だから、そのへんじをきいてる」
「いやだから、その、なんで今そんな話?」
「こまるかなって、おもって」
柊の真意が全く読めない。
「そう…だな、確かに困る」
「でしょ?」
「……え、終わり?」
「きゅーに、いわれたらこまることもある」
その発言を聞き、一斗は全てを悟った。
「お前、聞いてたな」
「たまたま、せなさまをみつけたから。おいかけてたら、そのさきにあなたがいたもので」
柊はアメリカ風に、やれやれといったポーズを取る。
「なんだよ」
「てっきり、ようやく、こくはくでもするのかとおもってたのに」
「告白は告白だろ。色恋が絡んでないだけだ」
「あのね、あの日いらい、せなさま、ちょーーーーーきげんわるい」
「そうか?学校ではそんな感じしないけど」
「はぁ…それはだって、あなたのまえでそんなことしたら……。いや、なんでもない。とりあえずきげんがわるいの。トマトのやけぐいが、もうどうにもとまらないじょーたい」
「それは栄養が取れてるから良いんじゃ…」
非を認めようとしないことを咎められているような柊の眼差しに負け、一斗は言葉を止めた。
「…悪かったよ。でも、ああ言うことが最善だと判断したんだ」
「なぜ?」
「なぜって…」
なぁなぁな馴れ合いをやめるため。
その気持ちに偽りなど一切なかったが、柊の瞳を見ていたら不思議なことに、言葉を継げなかった。
「まさか、とはおもうけど、またひとりになりたくなった、とか、いわないよね?」
何も答えない俺を見て、彼女はまたしてもアメリカンに溜息をついた。
「あなたはね、わかってないのよ」
「何をだよ」
「せなさまが、かんがえてること」
「そりゃ、あいつの考えてること分かるやつなんて…」
「ちがう、そうじゃない」
食い気味に否定が入る。
「そうじゃないことは、あなたがいちばん、わかってるはずだけど」
「おい、それってどういう…」
「じゃ、はなしはおわり。わたしは、ぶんかさいがおわるまで、なにもしないから。とにかく、はやめに、せなさまとなかなおりしてちょーだい」
こちらが呼び止めるのも聞かず、柊は俺に疑問だけ残してその場を後にした。
雪丘の考えていること?
単に、俺に対してお怒りなだけなのでは?
しかしそれならそう言えばいいはずなのに、柊は異なる言い方をした。
一斗はスマホで時間を確認し、そろそろ練習が再開するかなと、一先ず教室に戻ることにした。




