ラブコメ馬鹿にボッチの決意を添えて! 10
「それにしてもさ、まさかこんなに顔見知りばっかりで劇をやることになるなんて思わなかったよ」
ギクッというのが分からない程度に一斗は動揺した。
「確かにそれもそうですわね。私としては、エライザ役に選ばれなかったことが不満ですが…」
一斗は莉奈と和水をさり気なく交互に見る。
どうやら2人とも、メンバーが国家促進部メインだということ自体に疑念を持っているわけではないらしい。
むしろ嬉しそうですらあった。
「特になにより、一斗くんが主役ってねぇ」
「本当ですわ。一斗様は影が薄くてこそだというのに」
「………」
非難されているわけではないだろうが、決して褒められているわけでもない2人の率直な意見を聞きながら、彼はどこか懐かしさを思い出していた。
そして同時にその思いを振りほどく。
こういうところに心地よさを覚えてしまったから、俺は区切りをつけようとしたんじゃないか。
「一斗くん」
「……ん、あぁ悪い。なんだ?」
「私たちの話聞いてる?なんか最近ボーっとしてること多いけど」
「聞いてるよ。主役は俺しかいないって話だろ?」
「………」
「なんだよ、2人して黙って」
「いえ、一斗様だったらいつも、そんな冗談は言わないような気がしたもので…」
「そんなことないだろ…たぶん」
3人の間に形容しがたい沈黙が流れる。
「そ、そういえば一斗様」
「おう、なんだ?」
「文化祭の準備が忙しいとは思いますが、たまには部室にもいらっしゃってくださいね。私たちも、そこまで顔を出せているわけではありませんが」
「うん、なごみんの言う通りだよ。皆んな寂しがってると思うから…。もちろん、せなっちだって」
珍しく目を逸らしながら話す莉奈の態度に、一斗はそれが嘘だと理解した。
寂しがっている、という点ではなく、世那が部活に来ているというところだ。
「りなー、こっち来てみてよ。可愛く出来たと思うんだけどさ」
「粒木さん、衣装のサイズ合わせたいんだけど良い?」
2人がそれぞれ別々のグループから呼ばれたことで、少し移動するのを躊躇う様子の彼女らに、一斗は「またあとで」と伝えて自分がその場を先に離れた。
タイミングよく2人に声が掛かったことを上手く利用して、ちゃんと返答をしなかったことに関しては、ズルいと思っている。
だが、安易に「部活に出る」とは、とても言えなかった。
何も考えずに済むように、なるべく人のいない場所を探しながら歩くが、この時期ともなれば校内は文化祭準備で居残る生徒ばかりだ。
だからといって諦めて教室に戻る気にもならない。
今はどこでも良いから、人のいないところで心を落ち着かせたかった。
時期に関係なく、あまり人が集まらない場所…。
その条件に合致する図書室を思い浮かべ、そこへ向かう途中のことだった。
横から突如腕を引っ張られ、一斗はそのまま他より少し暗い階段下へと連れて行かれた。
「すこし、はなしがある」
ペチッという柔らかい、手のひらがコンクリートの壁に当たる音が耳の横で聞こえる。
これが世に聞く壁ドン、いや、壁ペチだと気付いたのは、目の前でそれをする少女の正体が分かったのと同時だった。
「会ったばかりのときを思い出すな…柊」
相変わらずアホ毛が目につく制服を着たメイドは、これまた相変わらずの無表情で、俺を下から見つめていた。




