ラブコメ馬鹿に幼馴染を添えて! 2
「何か話していたようだけれど」
「ん、あぁ。見慣れない先生だなって思って、担当教科聞いてたんだよ。白衣だから理系かと思ったら、保健の先生なんだな」
俺自身、なんでここで嘘をついたのかは分からなかった。
ただなんとなく、直感でそうする方が良いと思ったのである。
ちなみに赤木先生が保健教諭というのは本当で、それは彼女の首から下がる名札から判断できていた。
「で、これからどーすんだ? 俺とお前じゃ2人だし、あと一人足りないんだろ」
「そうね。まず直近の問題は部に昇格するための部員確保で、なおかつラブコメ的要素を持ってる人が良いわね。それなら一石二鳥だもの」
その諺は、人に向けて使うものではない気がするのだが。
「目星は付けてるわ。ラブコメで必須のキャラといえば、誰とでも仲良くなれて性格の良い女子。明宮莉奈が、それに該当するわね」
聞き慣れた名前の登場に少し動揺する。
確かに明宮は、直ぐに誰とでも仲良くなれる性格の良いやつだ。
カースト上位にはいるが、そんなことを感じさせないほどにフランクで話しやすく、なかなかファンも多いと聞いたことがある。ボッチイヤーで。
「あれ、一斗くん?」
急に後ろから呼び止められ振り向く。
この学校に俺のことを呼び止める人間なんていただろうかと思っていたが、その正体はまさに、噂をすればというやつだった。
「明宮」
「珍しいね、教室以外のところで会うなんて。普段はあの席から殆ど動かないのに、こんなところで何してるの?」
「ちょっとコイツと職員室に用があってな」
明宮の反応を見る限り、そこで彼女は初めて、俺の隣の雪丘を正確に認識したようであった。
「へぇ…なんて意外な組み合わせ…」
少し、彼女の表情が曇った気がした。
「あら、丁度良かったわ。アナタに話があるのよ明宮さん」
「な、なんでしょうっ?」
どうやらさすがの明宮でも、雪丘には苦手意識が芽生えるようである。
そりゃそうだろう。威圧感があるから。
「なんで敬語なのかしら? まぁ良いわ。アナタ、私たちと一緒に部活をやる気はない?」
「ぶ、部活…ですか?」
何を聞かれるのかと身構えていた明宮にとって、それは意外な勧誘だったのだろう。
「えぇ、と言ってもまだ部員が2人だから同好会だけれど」
「えっと、その、突然だからびっくりしてて良く分かんないんだけど…。私たちって、まさかとは思うんだけど一斗くんのこと?」
当然の質問だ。
急な部活勧誘を受けたら、まずはその部活の情報収集から入るべきであろう。
「そうね、本音を言えば不本意な採用ではあったのだけれど…。条件が揃ってたから」
雪丘の言う条件とは、恐らく彼女の手となり足となり動けるくらい暇で自由の効く人間のことを指している。
だが、念のため本人に確認しよう。
「おい、条件ってなんだ」
少しの間と、なぜか軽く口を開けて驚いた表情の雪丘。
「……あなたがそこにいるの忘れてたわよ。急に口を開かなくなったから」
「いやいやいや。お前は何をもってして俺の存在を認識してるんだよ」
「気の毒さと気持ち悪さかしら」
今度こいつの下駄箱に大量のオブラートをぶち込むことにしよう。
「ホントに一斗くんが…」
「あ、あぁ。そーなんだよ。不本意だけどな」
さっきのお返しと言わんばかりに単語を強調してみる。
「そーなんだ…へぇ…」
なぜか急に、明宮の元気がなくなったように思えた。
さっきも似たような反応を感じたが、今回の方がより確実にそうだと言い切れる。
そしてそれはどうやら、雪丘も感じ取っていたらしいことが表情から読み取れる。
「ごめん雪丘さん。部活の件だけど、今日は時間ないから少し考えさせてもらって良いかな。また今度、どんな部活なのか詳しく聞かせてね」
明宮は無理矢理つくったような笑顔でそう言うと、俺に一度だけ視線を合わせてその場を後にした。