ラブコメ馬鹿にボッチの決意を添えて! 5
放課後の校内は無法地帯と化した不良高校のように、廊下に座り込んだり、スプレーを撒き散らしたりする生徒で溢れかえっている。
溢れかえっているというか、学年問わず全員が。
しかも皆んな笑顔で。
「怖いですよねぇ。絡まれたらどうしようかと思いましたよ」
「……華絵さん。文化祭1週間前なのですから当たり前では?」
「……いやいやぁ、すみません都華咲さん。2人しかいないと、冗談でも言わないと静かじゃないですか」
「それは…一理ありますけど」
学校全体が文化祭に向けて盛り上がるなか、この部室だけはいつもと変わらない雰囲気を保っている。
ただ、本来のそれとは違っていた。
部室にいるのは華絵と都華咲の2人だけで、都華咲は2人分のお茶を用意していた。
いつもならこの2人以外に5人の部員がいる。
全員クラスが同じで、その5人はクラスの出し物の練習真っ只中ーーということになっている。
というのは、メインヒロインを演じるはずの雪丘世那は放課後になると姿を消してしまうらしい。
そんなことではクラスから反感を買いそうなものだが、人気者のクラスメイトが上手く立ち回っているようだった。
つまり世那は放課後、練習にも部活にも顔を出していない。
今の華絵や都華咲のように、その日練習をしない部員たちはこうやって部室に足を運んでいたが、前のように全員が揃うことはなく、一斗に関しては一度も顔を見せていない。
「話変わりますけど、まさか私たちまで一斗くんたちのクラスの劇に参加することになるなんて思いませんでしたよね。脇役ですけど」
「そうですね。確かに和水様から話を聞いたときは驚きましたが、私としては主人が嬉しそうならそれで十分です」
クラスが違う柳本華絵と、学年が異なる安田都華咲がなぜ一斗たちのクラスの劇に参加することになったのか。
それは彼が提案した配役案がすんなり通った、ただそれだけのことだ。
「よくこんな話が通りましたよね」
「和水様曰く、もともと出し物が劇に決まったのも他に案が出なかったからで、皆さん何かを演じるのには消極的だったようですよ。だから役に立候補したら直ぐに通るのは当たり前で、むしろ私たちが参加してようやく練習ができるらしいです」
華絵はその話を聞き、普通の人なら思いつかない考えが、ふと浮かんだ。
そもそもの話だが、彼が文化祭に参加することでさえ驚きだったのに、クラスでやる劇の主役に立候補したと聞いたときは思わず三度聞き返してしまった。
天変地異が起こるのではないかと心配もした。
あのひねくれ少年が、何の意図もなしに、厚意で文化祭を手伝うわけがない。必ず裏があるはずだと踏んでいたのだ。
そして今、都華咲の話を裏付けとして、やはり一斗が何かを企んでいるような気がし始めていた。
もしかしたら彼には、この劇を敢えて国家促進部でやらなければならない理由があるのではないだろうか。
そして彼はそれを実行するため、クラスが劇に消極的であるという状況を最大限に活かしたのでは?
……いや、さすがにそれは考え過ぎかもしれない。