ラブコメ馬鹿に幼馴染を添えて! 1
「失礼します」
大声ではないのに、雪丘の良く通る澄んだ声が響く。
俺と彼女は今、2人で職員室に立ち寄っていた。
「赤木先生、お仕事中失礼します。先日新しい部員が入部しましたので紹介に参りました」
俺は「どうも」と軽く会釈をする。どうやらこの人が、一応顧問に当たるらしい。
「干からび君です」
「おいっ、お前それもう通用しねーからな。わざと言ってんだろ絶対」
雪丘はこちらを向かない。どうやら教員の多い職員室では、いわゆる頭のいい優等生を演じきるつもりなのだろう。
「へぇ、こんな得体の知れない部活に入るなんて、お前だいぶ変わったやつだな。アホだろ、私なら絶対入らん」
赤木先生とやらは俺の入部届けを眺めながらそんなことを言った。
「おい雪丘。お前の腹黒さバレてんじゃねーか」
「良いのよ、この人は。…というか干からび君。私が腹黒いって、どういうことかしら?」
それにはあえて、返事をしなかったが、横から思いっきり睨まれていることだけは分かった。
「なんだなんだ、仲良いなお前ら」
『良くないです決して』
「良くないって、そんなに見事にハモられてもな」
ケタケタと笑う様は、俺というより雪丘の反応を見て楽しんでいるようだった。
「では、話は終わりなので失礼します」
そう言って出口へ向かおうとする雪丘の後を追おうとすると、赤木は「なぁ鏑木」と正しい呼び方で俺を呼び止めた。
「アイツのこと、頼むな」
それが一体何を意味するかは分からず、職員室の出口付近で雪丘がこちらを睨みつけているのに気付き、俺は曖昧な返事と共にその場を後にした。