ラブコメ馬鹿に予期せぬ一面を添えて! 8
そんな3人の様子を見ていたらこちらも喉が渇いてきた。
近くの自販機へ向かい、個人的に夏の定番であるメロンソーダのボタンを押す。
そのときふと思い出したかのように、俺はついでにお茶を1本購入した。
「はい」
「……なにかしら」
「お茶飲めよ。いくら日陰でも水分取らなきゃ熱中症になんぞ」
「……」
「なんだよ」
「日頃の恨みで、毒殺でもしようとしてるのかしら?」
「お前な……」
「まぁ良いわ。毒が入っていたとしても、貴方の用意したような毒じゃ人を殺せなさそうだもの」
雪丘は俺からお茶を受け取ると、そのまま一気に3分の1を飲み干した。
なんだ、やっぱ喉は渇いてんじゃねーかよ。
素直じゃないやつ。
俺もキャップを開き、メロンソーダを潤いを求めている喉に流し込んだ。
怠惰で飲む炭酸飲料はたまに不味いと感じるが、やはり然るべきときに飲むと異常に美味い。
「遅効性の薬品なのかしら」
「だから入ってねーって。キャップちゃんと閉まってただろ」
「科学の発達した現代だし、細い針で外側から注入したかもしれないでしょ。ま、でも、ありがとう」
え?こいつ今、お礼言った?
いやしかし、雪丘が俺に対して礼など…。
「お金返すわよ。いくら?」
「別に良いよ。募金したと思えば」
「そうはいかないわ。貴方のことだから、後々このことでネチネチ言いそうじゃない」
律儀に自販機まで足を運んで値段を確認した彼女は、受け取ろうとしない俺のズボンのポケットに無理矢理150円をねじ込んだ。
俺は、これ以上のやり取りが行き着く結末は同じだと判断し、そのままポケットに小銭を少々入れておくことにした。
「お前もアイツらのとこ行ってくれば?暑いだろ」
「急激な温度変化は身体に良くないのよ、だから遠慮しておくわ」
年寄りみたいな考え方だなこいつ。
「むしろ鏑木くんこそ向こうへ行けば良いじゃない。何を好き好んでこんな暑いなか外で立ってるのよ。自分を虐めて楽しんでるのかしら?」
「粒木が来たとき誰かしらはいないと確認できないだろ。それに、女子1人暑いなか放置するわけにもいかない」
「……なにそれ」
雪丘の言うことは最もだ。
俺はなに訳の分からないことを言ってるんだ。
暑さで脳内がショートしてしまったらしい。
「ラブコメ漫画だったら、こういうこと言うだろ。部活動を行なってるだけだ」
苦しすぎる言い訳だった。
「貴方が読んでるの、ラブコメじゃなくて少女漫画なんじゃないかしら?今どきそんな言葉で心揺さぶられる女子なんていないわよ」
変に気まずい空気が流れたが、その頃良いタイミングで明宮たちが戻ってきた。
「せなっちー!見て見てこのトロピカルフルーツ味!」
「ものすごく身体に悪そうな色だけれど…」
「味は美味しいよ!一口どう?」
あまり食べたくなさそうな様子の雪丘だったが、満面の笑みの明宮に根負けしたようである。
「それじゃあ少しだけ」
俺のときとは違って、随分とあっさり口にしたな。
「それじゃあ一斗くんには私があげるね。しかも、アーン付きで」
「いや、良いよっ。こんな人の往来があるところで」
「照れなくていいのに」
そのとき、徐に目の前のロータリーが騒がしくなった。突如機動隊のような人たちが現れ、交通規制を始めたのである。
一通り一般の人たちの車がいなくなると、隊長っぽい男性がトランシーバーで「着陸準備完了」とマイクに話しかけていた。
着陸準備?
機動隊員たちも早急に撤退を始めた瞬間、段々と上空からエンジンの唸る音が近づいてきた。
それはもう、まるで今から目の前のロータリーに小型機が着陸するとでも言わんばかりのーー。
「皆さまっ、お待たせいたしましたわ!」
何かが現れる前に、誰かの聞き慣れた声の方が先に降り立った。
そしてついに、案の定、目の前に「粒木CO.」とでかでかと名前の入った小型機が羽を休める。
中からは見慣れた2人が現れ、1人は俺の方に、そしてもう1人は後方でお辞儀をしていた。
「一斗様ぁー!」
てっきり車か何かで来ると思っていた残りの部員たちは現状を飲み込むことができない。
唯一冷静だったのは柊で、彼女はこんなことがあってもひたすら美味しそうに、5段積みのアイスを頬張っていた。




