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ラブコメ馬鹿に青春を添えて!  作者: 夜次太陽
4/85

ラブコメ馬鹿に部活を添えて! 3

そして迎えた放課後ーー


「遅いわ。アナタみたいにやることなんてない人が、どうしてホームルーム後に部室に辿り着くまでこんなに時間が掛かるのかしら?」


そう辛辣な言葉を浴びせてくるのは、学年一のクールビューティと名高い雪丘世那である。


成績優秀、容姿端麗。そして武を嗜むことで、内から湧き出る大和撫子感。男子生徒なら振り向かないわけがない。


そう、これが一般的な彼女に対する感想である。


ついさっきまでは、俺もその内の1人だった。


部室の真ん中に置かれた椅子に腰掛け、ラブコメ漫画を読む彼女を見るまでは、昼休みの出来事は俺のイカれた妄想だと思うこともできていた。


だがこれは紛れもない事実である。


しかも、だ。どうやら雪丘は、俺にラブコメ漫画を読んでいることを知られても、何ら羞恥心などを抱くわけではないようである。


「ちょっと、気持ちの整理をな」


「…驚いたわ。アナタに整理するほどの気持ちがあったなんて」


俺はお前の口の悪さに驚きだけどな


「それで?」


唐突に彼女から質問が浴びせられる。


「え、なに?」


「昼休みのことよ。アナタ、私に何か聞きかけていたようだったから」


あぁ、あのことか。


「んじゃあ単刀直入に聞くが、お前それ、ラブコメ漫画だよな?」


「見ての通りだと思うのだけれど」


雪丘は、なんてくだらない質問だと言わんばかりの仕草で、怪訝そうな表情を浮かべる


「おもしろいか?」


「えぇ、非常に価値ある書物だと考えるわ。数多のラブコメ作品を読んできたけれど、この『ラブコメ君主論』に勝るものはないわ」


数多も、読んでるのかーい。


「こんなこと聞くのも、あれなんだけどさ…」


「なにかしら」


「俺にラブコメ漫画読んでるところ見られて、恥ずかしいとかないのか? いやほら、別に悪い意味じゃなくてな。なんていうかその、あまりに雪丘のイメージと差異があるというか…」


「愚問ね。どうして私が、他人から勝手に当てはめられた枠組みのなかで羞恥心を覚える必要があるのかしら?」


おぉ、流石のクールビューティー。いや、人間冷凍庫である。


「質問はそれで終わりで良いかしら? そろそろ、昼休みに伝えられてない本題を伝えたいところなのだけど」


彼女に圧倒されっぱなしで、最早言葉が出ない。


俺は動作のみで雪丘に会話の主導権を渡した。


「私はね、干からび君」


いや俺、鏑木(かぶらぎ)だからな。確かにイントネーションは似てるけどな。違うよ。水分あるよ。


「この世で一番楽しいものって、ラブコメだと思うの」


これはまた、あまりに突拍子のない。


「冴えないけど、どこか放っておけない、優しくて鈍感な主人公。そして彼を巡る、王道の属性を備えた美少女たち。誰が主人公と結ばれ、誰が選ばれないのか…。結末のカップリングによっては、作者さえ叩かれるほどの恐ろしさも備えているわ」


雪丘は黒板を使って雄弁に語り、書く。


そこに書かれた単語がラブコメ関連のものでなければ、ただの優等生の補修講座みたいに見えよう。


「もちろん、私にも分別はあるわ。ラブコメなんて漫画のなかでの出来事。現実的には有り得ない」


「じゃあ、なんで…?」


「それでも私は、この現実がつまらないからよ」


大きく黒板に書かれた『現実』という文字が✖️によって消された。


「毎日毎日繰り返される、刺激のない日々。ラブコメならどうかしら? 毎回なにかしらのトラブルが巻き起こり、普通の日常なんて過ごせないわ」


なるほど、今少し、彼女の言い分が分かり始めていた。


「仲の良いグループで固まって、中身のない話をして、休み時間のたびに必要もないのに集まって、それをリアルが充実してる、青春だなんて。片腹痛いのよ」


それには俺も同意だ。


楽しい=リア充=青春なんて一体、誰が決めた法則か。


「私はこの国家促進同好会を部に昇進させ、そしてここにラブコメ世界を創り上げるわ。そして空虚な学生たちに見せびらかすのよ。リア充=ラブコメだって」


俺はいつも心の中で、どこかに自分と似た意見のやつは隠れていないかと考えていたものだ。


しかしいざ、目の前にしてみろ。似てはいる、多少頷ける部分もある。


しかしリア充=ラブコメ、これは如何。


「雪丘の野望は分かったんだが…俺をここに呼んだ理由は?」


「そんなの単純なことよ。まず同好会を部に昇進させるには最低3人部員が必要。だから頭数として勧誘しようと思ったわ。それが一番の理由。だってアナタ、物凄く暇そうだったから」


汚れのない瞳で答えられると、こちらとしてはもう、どうしようもない。


少しでも「鏑木ってラブコメの主人公っぽい」とか思われてたのかなと考えてしまった5分前の自分を猛烈に反省し、そして心で最大級に赤面した。

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