ラブコメ馬鹿に不確かな過去を添えて! 18
『ぜっんぜん思い出せない。というか、全く記憶にもないんだが…。なんか、悪い。せっかく話してくれたのにゴメーー』
粒木は人差し指を俺の唇に重ねると、それ以上は言わなくて良いと目で合図を送った。
『謝ろうとしているのなら、それは違いますわ。一斗様とあの日のお話ができないのは少し寂しいですが、代わりにこれから沢山、覚え切れないほどの思い出を作れば良いだけですものっ』
いつもみたいに全力で横から抱きついてきた粒木は、ネコのように頬を俺の腕に擦り付ける。
『ちょっ、おい』
『やっぱりウソはいけませんわね。都華咲が買ってきてくれた漫画に書いてあった通りです』
『漫画?』
『はい。確か、ラブコメ君主論という名前ですわ』
ん、どこかで聞いたことのあるような…。
『思い出した。それ、雪丘のお気に入りだ』
『へぇ、あの方が…。なんだか意外ですわ、内容的に』
『まぁ、ラブコメ漫画読んでる時点で意外もクソもないけどな』
それから粒木は閉会式には出ずに、検査があるということで都華咲さんが迎えに来た。
『和水様、確かに昔と比べて健康ではあるのですが、逆を言えばつい最近まで殆ど運動もしていませんでした。この日のために毎朝ジョギングはしておりましたが、いつまた具合が悪くなるのか分かりませんので…』
粒木本人は大丈夫の一点張りで俺から離れようとせず、見兼ねた都華咲さんは若干無理矢理に彼女を引き離した。
『もう、都華咲はたまに強引ですわ。仕方ありませんね。一斗様、それではまた』
それから俺は閉会式に出席し、柳本さんのMVP受賞に衝撃を受け、そしてなんやかんやで今に至るのだ。
そう言えばあれ以来、雪丘には会わなかった。
赤木先生に聞いたところ、アホ毛の柊が迎えに来て、念のためそのまま帰ったという。
まぁ別に会ったところで、彼女を勝手に保健室に運んだことに関して罵倒される気がするのだが、雪丘自身、勝負の行方は気にならないのだろうか。
粒木は今回の勝負に関して、色々と不公平だったのでなかったことにすると言っていたが。
あとでそのことについてメールでもしておこう。
「ちょーっと鏑木くん? 目の前のまぁまぁ可愛い女の子放置して誰のこと考えてるのかな?」
柳本さんはトロフィーの陰から覗くように、あざとい上目遣いでこちらを見ていた。
「すまん、何か言ってた?」
「だからね、私も国家促進部に入ろうと思って」
「……はい? いつの間にそんな話になったんだ?」
「もしかして全く聞いてなかった? 実は放送部も、急に具合の悪くなった先輩もいなくて、鏑木くんと一緒に体育祭を過ごすためのウソだったって。で、これからは正攻法で鏑木くんといられるように入部しようかと」
何が何やらと呆然とする鏑木一斗を前にし、柳本華絵は悪びれた様子もなく、むしろ楽しそうに真実を口にした。
この場面を終始観察していた第三者がいたとしたら、きっと柳本のセリフに違和感を感じるだろう。
聞いてなかったも何も、放送部とかが本当はなかったって話、今初めてしたよね?




