ラブコメ馬鹿に不確かな過去を添えて! 15
やはり、バチが当たってしまったのだろうか。
粒木和水はなぜか放送席に座り、同級生が実況をする隣で、自分が数分前まで参加していた競技の行方を眺めていた。
「なんだかすごく、後悔している顔をしてるね」
都華咲に調べてもらったのだが、確か柳本華絵という名前だったはずだ。会場を歓声で一杯にし、自分は一休みということだろうか。
意味深な表情を浮かべながらこちらを向いて微笑む。
「そうですね。私はだいぶ、後悔しているかもしれませんわ」
「それは鏑木くん絡み?」
まるで親しげな仲であるかのように彼の名前を呼ぶ少女に嫉妬感を覚える。
だがそれと同時にこうも思った。
自分にはそんな権利も資格もない。
だって私は自分の大好きな人にウソをついていたのだから。
「私の全ては一斗様のためにあります。ですから、逆に言えば一斗様が関係しないことなどありません」
「じゃあやっぱり、雪丘さんとバチバチしてたのは鏑木くんを巡っての勝負ってところかな」
「…どうしてそのことを」
「見てれば分かるよ。あ、ちなみに鏑木くん自身が言ってたってことはないからね。まぁ、彼がそんな人間じゃないってことは知ってると思うけど」
そんなこと言われなくても、最初から疑おうとすら考えていない。
「それならなんで、棄権なんてしちゃったの?あのままゴールしてれば勝ちだったのに」
「アナタ、見かけによらず意地悪な方ですわね。そんなこと出来るはずもないでしょう。する気すら、削がれてしまいましたわ」
今でもまだ、自分の横を通り過ぎて雪丘の元へと急ぐ彼の背中が頭から離れない。
そしてそのことを忘れられないのは、昔の記憶と重なる部分があるからだろう。
「柳本さん…で、よろしかったでしょうか?」
「うん、そーだよ」
「1つお聞きしたいのですが、もし、自分を好きでいてくれる人間がウソをついていたとしたら、どう思いますか?」
この質問は何気なく口から出たもので、特に正確な答えを求めたものではなかった。
自分でも思う。
なぜ私は今さっき初めて会話した同級生に、こんな迷惑な質問をしているのかと。
「そーだね…。そのウソのベクトルによるかな。もし私を騙して楽しむことが主軸にあるなら、そのウソは悲しいよ。でもね、私のことが好きで、ウソをついてでもきっかけが欲しかったっていうなら、それは嬉しいと思うかもしれない」
「きっかけを得るための、ウソ…」
「そっ。例えばね、私が憧れてる男の子がいるとするでしょ?いつも1人なんだけど、全く周りに靡かないでゴーイングマイウェイって感じかな。そんな男の子に、私はいつしか憧れより強い好意を持ってたとする。カッコいーなーって。でも、そんな彼は話しかけないでくれってオーラを出してるし、話そうにも彼のことを何も知らないから話しかけられないの」
柳本の話は、やけにリアルだった。
「それでね、さぁどーしたものかと。一回でも良いから、素の彼と接してみたい。そんなことを考えてるうちに、その男の子はなんと、いつのまにか1人ぼっちじゃなくなってたの。彼からは想像も出来ないことだったんだけど、部活に入って、同学年の女の子と普通に会話をするようになってた。このままではダメだ、もう強硬手段を取るしかない。そして計画を練りに練った私は遂に計画を実行に移して、放送部なんていう存在しない部活をでっち上げて、彼と一緒にいられる機会をつくったの」
まるでマジシャンのように両手を開いてリアクションを求める柳本。
開いた口が塞がらないというのは、きっとこういう時に使うのだろう。
全てを理解した粒木はなぜかおかしくて、ついつい笑みが溢れていた。
「……ふふ、私よりも随分と偉大な詐欺師がいたようですね」
柳本は全く後ろめたさを感じさせない、むしろ清々しいくらいだ。
ウソをつくことが、正しいとは言わない。
だが1つ分かったことがある。
もしこのウソを後悔しているとすれば、それは自分の彼に対する気持ちを否定しているようなものだ。
それだけは絶対に嫌だった。
「それじゃ、私は仕事に戻るので。あーあ、なんでこんな実況なんて、面倒臭いことやってるんだろ」
「私、アナタとはとても仲良くなれそうですわ」
粒木は席を立つと、今すぐに、彼に会いたい。会って伝えなければならないと辺りを見回した。
すると同じように誰かを探している様子の鏑木一斗を見つけ、高揚感を抑えられずに走り出した。




