ラブコメ馬鹿に不確かな過去を添えて! 13
「さーて、それでは体育祭後半戦!張り切って再開していきましょー!まずは気持ちを切り替えるため、赤組と白組による応援合戦です」
赤組と白組なんていうのは、建前上の組分けである。
一応学年とクラスによって2つのグループに振り分けられてはいるが、あくまで形としてだというのが、この学校での伝統的な体育祭だった。
あくまで競技は一対一での勝負。
初代校長がそんな武闘派の考えの持ち主だったらしく、そのため第1回から最優秀選手を決めるルールが存在していたらしい。
気合の入った応援合戦が、生徒たちの眠気を一気に吹き飛ばす。
だが吹き飛ばないのは、俺の柳本さんに対する警戒心である。
もしかしたらこの人、相当勘が良いのではないだろうか。
さっきの発言だけで判断するのは如何なものかと考えつつも、むしろ数時間の付き合いで色々見抜いた柳本さんは賞賛に値する。
応援合戦が終わり、グラウンド中が拍手で包まれる。
遠目にだが、意外にも応援団に拍手を送っている雪丘を見つけた。
体育祭特有の変な熱にでも当てられたか?
距離があるからよく見えないのだが、アイツ、どこかぼーっとしているような気がする。
心ここにあらずというか。
対して明宮はいつも通りで、明らかに変な熱に当てられた盛り上がりようだ。
同じクラスなので粒木も近くにいると思っていたのだが、どうにも彼女の姿は見受けられない。
都華咲さんもいないようである。
てっきり全員一緒に部室を出てきたものだろうと思っていたので、なんだか変なバラバラ感が異様に気になってしまった。
バラバラなのはいつものことなのに。
そんな晴れない気持ちのなか、空は相変わらずの晴天なのがやけに気に障った。
体育祭後半は、MVPを取るのにアピールのしやすい競技が集中している。
なかでも目立つのが、「相手を指名できる」レースである。
「こんなレース、参加するやついんのか?」
いたとしても、雪丘と粒木、それに明宮くらいではないだろうか。
「それがね、意外と参加人数多いんだよ。なんか、個人的な嫉み妬みが絡んでることが多いみたいだけど」
「まぁ正式な競技名がリベンジレースだもんな。競技発足の理由がはっきりと見える気がする」
リベンジレースを前に、現在は借り物競争が行われていた。
参加中の明宮は砂の中から見つけた紙を開くや否や、俺の方へと走ってくる。
「一斗くんっ」
彼女が開いた紙には、『幼馴染』の3文字。
「出来レースじゃないよな?」
「デッキレース?なにそれ」
事実としては確かに、俺と明宮は幼馴染だ。
だが、いざそれを当人がどう思っているのかというのは、非常に大事な部分である。
そのため俺は、実はなかなか嬉しかった。
「なぁ明宮。雪丘と粒木知らないか?」
圧倒的にトップでゴールするなか、俺は息を整えながら聞いてみた。
「そういえば、見てないかも」
「昼飯のあと、一緒に出てこなかったのか?」
「うん。私は友達に呼ばれて少し先に出たから、2人とは一緒じゃなかったよ」
なんだろう、このモヤモヤ感は。
単にどこかで勝負が面倒になってサボり始めたのかもしれないではないか。
続々と他の借り物競争の参加者たちがゴールしていき、そしてついに、最終種目を迎えることになる。
「それでは最後の種目!この学校独特の競技、リベンジレースです!さぁ皆さんっ、盛り上がっていきましょー!」
張りのある柳本さんの声がグラウンドのテンションを最高潮にしていく。
俺が隣にいてもいなくても変わらないじゃないかと、寂しいような、でも良かったと感じる。
「仕事を放棄して明宮さんと談笑なんて、随分と良いご身分ね」
聞き慣れた声の持ち主が、腰に手を当てて冷ややかにこちらを睨んでいた。
「雪丘」
「なによ、人を幽霊でも見るかのような目で」
「あ、いや、すまん。どっか行ってたのか?」
「……別に、アナタには関係ないでしょ」
雪丘にしては珍しく、視線を逸らす。
「いーちとさまぁーーーーっ!!」
油断していた、背後からの突撃。
「つ、粒木…」
「一斗様!まさか最終種目を前に応援に!?私、感激で胸が張り裂けそうですわ!」
腰へのダメージが想像以上で、抱きつく彼女を振り払う力すらない。
「急に現れんなよ…」
「あら、急ではありませんわ。私はいつでも、どこでも一斗様と共におりますもの」
リベンジレースを前に、なんだかんだ役者は揃ったというところだろうか。
俺は放送席へと戻り、ただ勝負の行方を見守る。
第1レースからいきなり、雪丘VS粒木だった。
なんでも明宮を入れて、最終的に1人2レースずつ走るらしいのだがーー。
「いちについて…」
競技ピストルの銃口が天を向く。
スターターの指が引き金にかかる。
そしてそのとき俺の脳裏には、今朝方の出来事がふとフラッシュバックしたのだ。
『どっちを応援するの?』
アホ毛の柊の、意図が分からない質問。
それを思い出していた間にスタートは切られたようで、両者はゴールを目指して走り出していた。
どっちを応援するって、別にこんなの、どっちが勝ったって良いはずだ。
それなのになぜか、軽い気持ちで振り切れない。
雪丘も粒木も、お互い一歩も譲らない走りだ。
100メートルがいやに長く感じ、その間俺にとっては不要な思考が溢れ出る。
どっちに勝ってほしいなんて、そんなのーー。
そのときだった。
雪丘が急に失速したかと思えば、ひどく具合の悪そうな表情を浮かべているように見えた。
「鏑木くんっ」
柳本さんの声を後ろに、俺は反射的に彼女の元へと走っていた。
その途中すれ違った粒木には目もくれず、ただ雪丘の元へと駆け寄る。
俺が彼女の元に辿り着いたタイミングで、雪丘は前のめりに倒れこんだ。
なんとかそれを受け止めることに成功し、そのまま抱き抱えた状態で雪丘を保健室に連れて行くことにした。




