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これは小さな恋物語  作者: ココココ
第一章:遊戯の章
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3.第八位ヘルド

息苦しさと煩さで目が覚めた。 重いものが体を拘束しているようで、寝返りもままならない。 無理やり頭を起こして見てみると、予想通りの持主様、ではなく。 すこし眺めのサラサラ金髪に、男らしい体躯、今は閉じられている意志の強い瞳。 一般的にかっこいいと称されるであろう顔と程よい筋肉の持主の彼だが、緩い寝顔と鼾が煩いその口から酒の臭いが強く漂ってきている。

持主様の眷属第八位、ヘルド。 こう見えて、身体年齢は50歳を超えていて一見すれば老紳士だ。 本来の年齢では下から三番目だけれど、見た目だけなら一番年上。

そんな事はどうでもいい。

また酔っぱらって階層を間違えたのだろう。 彼の部屋は私の真上だ。 とりあえず掛け布団を剥ぎ、怒りに任せてそれの顔面をひっつかみ、途中から聞こえてきた抗議と謝罪の声は聞かずに部屋から全力で蹴り出した。 向かいの壁に思い切り激突したがそんな事知るか。 何回目だと思っているんだ。 パジャマを着ていてよかった。

持主様に報告という名の愚痴を上げ、また施錠した上から今度は結界を張る。 まだ朝の三時前なのになぜこんな事で起こされねばならないのか。 怒りながら横になった。 段々と怒りが収まっていくと同時に眠気も増していく。 意識がなくなる頃にはすっかり落ち着いていた。



わりと遅めに起きた。 昨日起こされたせいだろう。 

欠伸しつつ着替える。 最低限の身なりさえ整えていれば寝間着のまま出ても咎められはしないのだけど、自分が嫌だ。 人形とはいえ自分にもプライドってものがある。 でもめんどくさいのは確かだから、被るだけでいい礼装のローブだけにした。 当然、持主様が疑問げな思考をしたけれど、無視してたら興味を無くした。 来る訳じゃないと分かったんだろう。

朝も深い時間だ、どうせあいつは仕事に行ってるだろう……なんて希望的観測はしない。 そんな殊勝な性格はしていない。 髪もさっさと梳かしてゴムでまとめた。


で、恐れていた通り土下座された。 私のスニーキングスキルも、使ってない間に地に落ちたなぁ。 人通りの多い広い廊下、そこで見つかったのが運の尽きで、人目も憚らず全力で土下座。 悪意はないが、思いやりも無いのが彼だ。 短絡的で、本当に悪かったと思ってるのは伝わってくるのだけど、今困っている事は読み取ってくれない。

「本当に悪かったと思ってるんだ、起こされるのは誰だって嫌なものだしもちろん蹴り出された事に文句はないよ」

見た目と行動が合ってないんだよね。

「判断力は落ちてたし、楽しくなってた。 もう言い訳の言葉も無いよ」 

なら黙ってくれよ。 そもそもこいつは行動が煩い。 ストレートに好意をぶつけてくる所も凄く苦手。 ラブラドールレトリバーなんぞに生まれた方がこいつは幸せだったろうに。 むしろ犬だ。 犬でいいこんなやつ。 眷属第一位のユウリさんの優雅さを見習え。 持主様の右腕だけあってスマートかつエレガントなのに平凡すぎる顔かつ気づかいレベルマックスなユウリさんを見習え。 むしろステルスが忍者レベルまで達してるあの人の爪の垢でも煎じて飲め。

「ヨルちゃん!」

うるせぇなぁと思いつつも弁明を聞いてやっていたら、やらかした。 油断しすぎて腰に抱きつかれた。 全力で来られたので情けない声が少し漏れる。 こんなコントを目の前にしては流石に耐えられないのか、周りからは抑えた笑い声が漏れ始めている。 恥ずかしいったらありゃしない。 

「ヨルちゃぁん……ごめんよぉ。 僕が悪かったよぉ」

おっさんがガン泣きで縋り付いてくる。 重くて動けないし、腹にすり寄られるしで散々だ。 頭を押して引き剥がそうにも、盾もないし戦闘力だけは随一のこいつの腕力なんて抵抗できる訳がない。

「やめろっつってんだろぉぉぉ」せめてもの攻撃として、髪を引っ張ってもダメージを与えれてはいなさそうだ。

ふと慣れた臭いを嗅いだような気がして横を見る。 ついさっき思いを馳せたユウリさん女バージョンと儚い見た目の第二位ハルカさんを両脇に従え、案の定悪意満載の笑いを抑えようともしないまま立っておられた。 周りでは信徒達がなんとか感情を押し殺して祈りを捧げはじめている。 でも口元にやけてんの知ってんだぞお前ら、心込めずに祈って良いのか? 怒られるぞ?

爽やかな朝のこの時間の中で、いつものように持主様の周りだけが澱んでいるようだったが、今だけは多分私の周りの方が澱みレベルが高いだろう。 

「持主様、居られるなら助けてくださいよ!」

『うん?』 端正な顔をさぞかし楽しそうに歪ませながら彼は片眉を上げた。 『何を言う、助けてやったらおもしろくないだろう? 自分で解決してみせろ人形』

極上の笑顔で死刑宣告にも似た命令をされた。 しかしどこかに行くそぶりは見せないので、つまり今どうにかしろという事だろう。

「あーもーわかった! わかったから! 二度としないって誓うんなら許すから! だから離れて!」

「無理!」

「死ね!」 

少しの間攻防を続けたけど、最終的には私が折れた。 持主様はひとしきり笑った後、その大きな手で私の頭を撫でてどこかへと消えていった。 彼は体温が高いから、今日みたいな暑い日だとちょっと嫌なんだけどまあ聞いちゃくれない。 心の中で舌を出しておく。

というか、ユウリさんとハルカさんの両方を連れていたので、なんか集会でもあるのだろうね。 エリアンデルに全力で遊ばれちまえ。

余談だが、ハルカさんは名前と見た目とは正反対の、正真正銘の男だ。 サラサラの長めの短髪、線の細い少女にも見える彼は似合うというそれだけの理由で女装したりもするけれど、女になりたい訳ではないらしい。 僕は性別なんて超越してんだよ、とは本人談である。


朝からなんとも不愉快だ。 こういう日は外に出てパフェでも食べたいけれど、仕事はないし、皆出払ってるかその予定がある。 許可が下りる訳がない。 せめてキッチンスタッフに何かできないか聞いてくるか。





愚痴をこぼしつつおねだりしたら、朝ごはんの後にキッチンスタッフの悪乗りと愛で作られた創作特盛パフェが来た。 仕方がないから食堂に残ってた4人全員で分けて、ようやく解散にこぎつける。 私を何歳だと思ってるんだ。 もうとっくに30超えてんだぞ。 分けても多すぎる砂糖に気持ち悪さを覚えていたら、どこからか私の居場所を聞きつけて来た掃除スタッフからヘルプを要請された。

「何人か家族ごとインフルにかかっちゃってて人足りないんだわ。 今暇?」 

「暇でござる」

「よし」

そういう事になった。

身内勢で敬語使わずさん付けもしないのは二人います

一人は前話のジェーン、二人目は今回のヘルド

眷属達より低い立場なので基本は彼らを敬いますが、ヘルドに対しては本人が気にしないのもあって最終的に今の扱いになりました。 ジェーンは上司というより娘であり友達で、本人の希望もあって対等な立場になっています。

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